2017年2月アーカイブ

行政とコラボした木育イベント

川崎市高津区とコラボした木育イベント

川崎市高津区とコラボした木育イベント

──前編では様々な木育関連の活動について皆さんに語っていただきましたが、他に印象に残っているイベントやワークショップはありますか?

佐藤政満(以下、佐藤) 昨年(2016年)の8月27、28日の2日間で神奈川県川崎市高津区で開催された「高津区こども未来事業『区民木育体験』」です。高津区役所が木育をテーマに、住民同士の絆を深めることを最大の目的として、過去にこのWAVE+に登場していただいた須藤シンジさんが代表を務めるピープルデザイン研究所とコラボしたイベントです。ピープルデザインは長年、住民同士のコミュニケーションの活性化に尽力しており、この木育プロジェクトはその一環だったんです。当社も森田さんが担当している環境出前授業や角田さんが所属しているきづくりラボで、子どもたちへの環境教育や、国内木材を積極的に家具に使っていくことなど、社会への木育PRを行っているので、可能な限りお手伝いさせていただこうということになったわけです。

──具体的にどのようなお手伝いをしたのですか?

佐藤 イベントは、座学と実際に椅子を製作してもらうという内容で、我々はそのサポートを行いました。役割としては、僕は高津区との調整役というか、イベントをコントロールするプロデューサーのような立場で、角田さんや森田さんには先生役として全面に出てもらいました。

座学の様子

座学の様子

森田舞(以下、森田) 座学ではいつも環境出前授業でやっているような話をしました。まず日本の森林の状況から話して、間伐したものを使うことが大事だということや、切った木がどうやって家具の材料に加工されていくのかという話をしました。

角田知一(以下、角田) その後、その木材を組み合わせたり加工をすることでどのように椅子が作られるかという構造やデザインの話をしました。我々家具メーカーの人間が講師を務めるからには子どもたちにただ自由に作ってもらうだけではだめだと思い、最初にきちんと椅子の構造や木の組み方、デザインの仕方についてしっかり教えました。そして素材となる丸太や端材に触れイメージを膨らませてもらった後、子どもたちにアイデアスケッチや簡単な図面を描いてもらった上で実際に椅子を製作してもらいました。主に小学生が対象でしたので、積み木感覚でもある程度椅子らしいものが組み立てられるような素材を用意しました。製作例として事前に佐藤さんたちと端材で各自椅子を作って、本番に3脚持っていったんですね。それを子どもたちに見せると、この木材でここまでのちゃんとした椅子ができるんだなとみんな感激してそれを真似たり、そこからアレンジして椅子を作ってましたね。我々は安全管理や工具の使い方やわからないところを教えたりと、そのサポートを行いました。

椅子製作の模様。親子で楽しく作っていた

<$MTPageSeparator$>

参加者に大好評

椅子製作風景

佐藤 参加者は全部で11組、22名の親子連れの方々で、お子さんは下は3歳から上は高校生までいました。みなさん普段木に親しんでおらず、木がどういうものなのかがわかっていないように見受けられました。だからこそ、実際に木を触って切って組み立てるという一連の作業を通して、木とはどういうものなのかを体感し、喜びを感じ、かつ自分の作りたい椅子ができたので楽しかったと、非常に喜んでいただけました。木育イベントとしては大成功だったと思います。

参加者の制作した椅子

角田 本当は1組につき椅子は1脚だけつくってもらう予定だったんですが、みんな楽しくなっちゃって2脚3脚と作ってくれたのがすごくうれしかったですよね。用意した素材が全部なくなっちゃいましたからね。

浅野 みなさんが作ったのはちゃんと座れるような椅子だったんですか?

佐藤 日常生活で充分に使える椅子だよ。

森田 かなりレベルの高い椅子ができてましたね。

佐藤 そうそう。最初はちゃんとできるかなと思って心配していたんだけど、その心配は全くいらなかった。次回はもっとレベルの高いものを作らせても大丈夫ですね。

随所でサポートに入った角田さんと森田さん
ズームアイコン

随所でサポートに入った角田さんと森田さん

角田 多分、みなさん、単に大きな板材や長い角材が置いてあるだけだとどこから椅子を作っていいのか悩むでしょうけど、あらかじめ木材を「これは脚に使えるかな」とか「座面に使えるかな」と容易に想像できるようなサイズにカットしておいたので、小さなお子さんでもその場でブロックのように組み合わせることで椅子づくりが楽しめたのではないかと思います。

森田 お子さんとご両親だけだと、作る過程で行き詰まってしまった時にどうしようと不安になりますが、その場に我々家具メーカーという専門家がいたので安心感があったと思います。

浅野 なるほど。確かにそれは大きかったでしょうね。

木育は子どものためだけのものにあらず

森田 あとこの時すごく印象的だったのが、木育というと子どもに対してするものというイメージだったのですが、実際にワークショップ形式でやってみるとお父さんお母さんの方が盛り上がっていたんですよ。もしかすると木育といっても、対象年齢はもっと上、大人なのかなと思うほど、子どもそっちのけで盛り上がってどんどん作っていた人もいてびっくりしました(笑)。

佐藤 そうね。意外と大人が盛り上がってたね。原木に接することなんてめったにないだろうからね。今後は大人も木育の対象にすべきかもしれない。

角田 イベントの翌週に、できあがった椅子を武蔵溝ノ口駅のコンコースに飾ったのですが、結構盛況で、たくさんの人が見てくれてたのでよかったですね。

このイベントで完成した椅子は武蔵溝ノ口駅のコンコースに展示された

このイベントで完成した椅子は武蔵溝ノ口駅のコンコースに展示された

<$MTPageSeparator$>

木育の課題

角田 近影07

──現状で木育に関して抱えている問題意識はありますか?

角田 何が本当の木育なのかというのがすごく難しいですよね。現状で行われている「勉強」としての木育と本当に実施してもらいたい木育は乖離してるのかなと。つまり単に木について説明されたところでそんなのに興味のある子はなかなかいないし、間伐材で作った家具を見たり触ったとしても愛着が湧くわけじゃない。もちろん効果としてゼロではないですが、違うんじゃないかなと。

佐藤 じゃあ角田さんの考える真の木育とはどういうものなの?

角田 木育っていろんなものがあるのかもしれないけど、自ら木を使ってものづくりをするなど愛着がわくような体験を通して木に触れ合えないものは本当の木育じゃないのかなと。だから講義だけでなく私がこれまで行ってきた、参加者が家具を実際に作るプログラムなりワークショップが木育というのならわかるんです。もっと言えば赤ちゃんの頃から回りに木製の家具に囲まれて育った人とそうじゃない人は違う。

浅野 どういうこと?

角田 木製の家具は子どもの成長や家族の暮らしの日々を積み重ねる中で傷や染みがついたり、反ったりしますが、それらが家族の思い出や歴史となり、やっぱり木はいいなあと愛着が湧くと思うんですよね。そういう文化が昔から日本にはあった。しかし、そういった文化も木造の家が減り、木製の家具が使われなくなった現代ではなくなっています。それをなんとか復活させてできるだけ木を使おうという動きが国主導で始まっていて、木育もその一環なのですが、現代人の多くは身の回りに木がない生活を送ってきたので、木の特性が全然わかってないんですね。だから国や会社に言われて急に木製の家具を買ったとしても年月を経て反ったり割れたり傷がついたら、なんだやっぱり木はダメじゃないかということになる。

座談会近影 08

浅野 確かにそうなんだよね。

角田 そうならないように、赤ちゃんの頃から木製のおもちゃなど、いろんな木製品に触れさせておく必要がある。興味をもつには自分の物じゃないとなかなか難しいですからね。それによって木に対する興味が生まれて好きになり、木はどんなものがあるのかなと自分で調べ始める。そういう体験をしていれば、大人になって家具を買う立場になった時、愛着をもって木製品を買って使うと思うんですね。だから体験型ではない木育を一所懸命学んでもらったところでそこから興味をもつ子はなかなかいないんじゃないかなと。勉強が先じゃなくて、まず自分の体験から育てるのが本当の木育なんじゃないかと思うわけです。

──今の角田さんの意見に対して学校で環境出前授業をしている森田さんはどう思いますか?

森田 近影09

森田 角田さんが言っている本来の木育は私もその通りだと思います。でも私がやってる環境出前授業では勉強のところしかお手伝いできなくて、それは多分、私含めて社内で携わっている人たちも多少のジレンマをもっているだろうなと。

先ほどお話に出た早稲田大学の古谷先生が主催している、自然とともにある学びについて考える研究会「森が学校計画産学共同研究会」に参加しているのですが、その中で古谷先生がおっしゃった言葉ですごく印象に残ってるものがあります。それは「森に行くことはかけがえのない体験になるし木育にもなるから、行ける人は絶対行った方がいい。でも森に行けない状況の子どもたちもいる。近くに森がない都会の子どもたちは、森からできた椅子や机、おもちゃなどの木製品が学校や家の中にあることで、一瞬かもしれないけど木や森に興味をもつかもしれない。だから、木育家具は森のものが生活空間の中に入ってきたというイメージがいいと思う」という趣旨で、確かにそうだなと思いました。出来た製品を触るだけではあまり木育として効果はないのかもしれないけれど、全くないよりは全然いいと思うんですよね。実際に木材を製品にするのは課題がたくさんあって、浅野さんも悩んでいると思いますが。

浅野 確かにいざ木製品を売るとなると割れちゃったり反っちゃったり、汚れやすかったり傷つきやすかったりするので難しいんですよね。ずっと大事に使ってくれる人に供給したいなという思いはありますけどね。親や先生が木製品は傷つくものだと子どもに教えるところから木育かなとは思うのですが、それもなかなか難しいですよね。

<$MTPageSeparator$>

重要なのは大人の木育

議論は徐々に白熱し、活発な意見が飛び交った

議論は徐々に白熱し、活発な意見が飛び交った

──そういう意味では子どもよりも大人の意識を変えることが重要なのかもしれないですね。

森田 そうですね。大人に「木育というキーワードを知ってますか?」と聞いても知らない人の方が多いですからね。あんまり普及しているキーワードじゃないような気がします。

佐藤 一般的には知らない人の方が多いでしょうね。

浅野 子どもを教育するのが木育というイメージもありますよね。それを大人に対しても呼びかけられる仕組みがあるといいですよね。

森田 木育を普及させるためにはきっと大人に呼びかけたほうが効果的だとは思います。

浅野 近影11

浅野 それはさっき角田さんが言ってたように、子どものうちから木育をやると将来の日本が変わるという話に繋がりますよね。

角田 業界の中で大人の木育って話題にはしてるんですね。大人こそ木育が必要だと。これから数年で大人となり自ら家具を買ったり家を建てたりする人が木を好きになってくれて正しい木の知識が身につけば木材需要も飛躍的に伸びるのではないかと思います。

浅野 今後のキーワードは大人の木育ですか。

角田 真面目にそう思いますね。

森田 大人に「木っていいですよね」と言うと「何となくいいとは思うけど、結局何がいいの?」と聞かれることが多いんですよね。その時はっきりと「こういうところがいいんです」と断言できないんですよ。「何となく癒されますよね」くらいしか答えられない。

浅野 ちょっと温かみがあるとかね。今後は、温かみがあると何がいいんだ、というところまで突っ込んで調べたいと思っています。

森田 大人の木育に関してはそれが今後の課題ですね。

様々な活動を通して木育を社会に広めたい

OKAMURA ACORN

佐藤 ここ数年、建築の方では木材が人体にどういう効果を及ぼすかという研究がハウスメーカーや大学などで行われています。時々メディアで報道されていますが、鉄筋コンクリート造の校舎よりも、木造の校舎や鉄筋コンクリート造でも内装を木質化した校舎ではインフルエンザによる学級閉鎖率が下がっているというデータがあります。でもなぜ下がったのか、その因果関係がはっきりしないから研究しよう、データ化しようという動きです。様々な要因の中で湿度が大きく関係してると考えられているので、調湿が開発のキーテーマになるかもしれませんね。

佐藤 近影12

そうすると浅野さんが開発に取り組んでいる木育用の家具は、その家具に使われているいろんな材料で子どもたちが知識を得るというのがテーマですよね。だから木育ができる家具を1つの新しいコンセプトとして開発したいということなんでしょう?

浅野 それがエコプロで展示していた物ですね(前編参照)

佐藤 浅野さんが木育家具を開発していることや、森田さんが木育家具を題材に子どもたちに授業していることや、角田さんが大学や地域のいろいろな方々とコラボして木育をテーマに地域創生活動をしていることなど、オカムラが取り組んでいる木育にはさまざまな切り口があります。それらをうまく繋げて、もっと社会に木育を広めていきたいですね。


インタビュー前編はこちら

木育とは何か

木育とは何か

──オカムラでは長年、木育活動を行っていますが、「木育」という言葉自体、一般的にはまだ馴染みがない人も多いと思うので、まずは木育とは何かというところからお話ください。

佐藤政満 近影2

佐藤政満(以下、佐藤) 木育というと前提として、幼児期から木に親しみ、木との関わりを深めることによって、木で身近な社会を作っていこう、森を作っていこうという意識がもてるように人に育てるということがポイントとしてあると思います。さらに、木育の重要なテーマの1つとして環境配慮がありますよね。家具をはじめとする物を作るということは、その素材を得るために何らかの形で自然環境の一部を切り取るという行為にほかならない。一方的に好きなだけ切り取っているといずれなくなってしまうので、メーカーの立場でできるだけ環境を壊さずに物を作るかに尽力することと、それによってできた製品を消費者のみなさんに知っていただくことが重要だと考えています。これがオカムラとして木育に取り組む意義だと考えています。

そもそも私たちの暮らしは、多くの生きものの営み、つまり生物多様性によって支えられています。オカムラの事業活動もまた、生物多様性の恵みに支えられている以上、 生物多様性に貢献することは私たちの使命。オカムラは「生物多様性に向けたアクション」を「ACORN(エイコーン)」と名づけ、積極的に取り組んでおり、木育は今のところACORNの中の1つの切り口にしか過ぎません。ですが木育には教育や販促の側面もあるので、重要な1つのテーマと捉えてこれからより活動の場を広げていきたいと考えています。

森田舞 近影3

森田舞(以下、森田) 「木育」という言葉が初めて登場したのは2004年、北海道で「木育プロジェクト」が発足して、その中で「子どもをはじめとするすべての人びとが、木とふれ合い、木に学び、木と生きること」が木育だと言及されています。その後2006年に「森林・林業基本計画」が閣議決定され、その中に「市民や児童の木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるため、多様な関係者が連携・協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義を学ぶ、『木育』とも言うべき木材利用に関する教育活動を推進する」と明記されました。木育の定義はそれぞれ企業・団体によって違いますが、私が考えるオカムラの木育は①自然や木を知る ②木に触れる ③木で作る、の3つだと思います。


──ではみなさんがそれぞれ取り組んでいる具体的な木育活動について教えてください。

角田知一 近影2

角田知一(以下、角田) 私は木を使った製品の開発や木素材の研究をしています。木育には、東北芸術工科大学の特別講師として木製家具のデザインや木の使い方を学生に教えたり、木を通した地域創生活動などで関わっています。

浅野裕一(以下、浅野) 僕は早稲田大学建築学科の古谷誠章先生と一緒に「木育家具」の開発に取り組みました。また、出前授業にも参加しています。普段はパブリック製品部で教育系の製品開発や販促ツールの作成を行っています。

佐藤 私は長年、オフィス製品やパブリック製品の開発と販促に携わってきたので、木育を通して生まれる新しい製品のプロモーションに取り組んでいます。


<$MTPageSeparator$>

環境出前授業

森田さんによる環境出前授業の様子

森田さんによる環境出前授業の様子

森田 私は2カ月に1回ほど、主に神奈川県の小学校にうかがって、「環境出前授業」を実施しています。この授業では、講師として子どもたちに森の大切さや生物多様性、森から机や椅子などの木製品が作られる過程などをお話しています。普段はオフィス研究所で、オフィスの人々の働き方や学校の先生や子どもたちの学び方、過ごし方を調査研究しています。その研究を通してオフィス家具や学校家具の使い方や空間のレイアウトの方法を提案したり、製品開発につながるための研究をするのが本来のミッションです。

佐藤 森田さんが実施している環境出前授業の最大のポイントは、小学校で使っている椅子と机はどのように作られて、かつ環境的にどういう点が配慮されているかを題材に皆さんに家具を知ってもらおうということです。

浅野裕一 近影6

浅野 本当は僕らメーカーは廃木材などの不要な木を有効利用して製品を作らなければいけないんですよ。それは我々の義務だと思っています。それに加え、子どもたちには森林も間伐など適切に管理しないと死んでしまうということも教えないといけない。それを行っているのが今、森田さんが中心になって実施している木育の環境出前授業です。ですので我々が行っている木育の環境出前授業のテーマは、「家具がどう作られてるのか」と「森を大事にしましょう」という2本柱なんです。

佐藤 出前授業を行った学校からの反応はどうなの?

森田 授業の評判はいいですよ。出前授業を申し込んでくださるのは、社会科見学で森や湖に行ってきたのでその復習のために子どもたちに教えてほしいという学校がけっこう多いんです。なので子どもたちの感想としては、この間行ってきた森の木が家具になるプロセスがわかってよかった! というものが多いんですよ。我々を呼んでくださる先生は木育に関してはご存知の方が多く、1つの教材として認識しているので、実際に家具を作って売っている会社の人が説明してくれるのは子どもたちにとってすごく有意義だと言っていただいています。

エコプロ2016にも出展

エコプロ2016にも出展

エコプロ2016にも出展

──当社は昨年(2016年)も「エコプロ」に出展していますが、ここで実施した木育関連のことを教えてください。

佐藤 木材の良さ、利用の意義などを学ぶ「木育」に関連した製品を展示して、来場者に実際に触れて感じてもらいました。

浅野 エコプロには様々な木育製品を展示していましたが、その中に早稲田大学の古谷先生と協業した製品があります。「間仕切り」「シェルフ」「スツール」の3種類で、これらはすべて子どもが触れて組み合わせる体験ができることがポイントになっています。「間仕切り」には、後の話で出てくると思いますが、アファンの森のホースロッジのワークショップ体験を活かして、改めて製材ワークショップを行い板を切り出しました。「シェルフ」や「スツール」には子どもが組み合わせる時に重さや風合いの違いを体験できるように、複数の樹種を使っています。その他の特徴としては、子ども向けにかわいい印象にするために、自然素材由来の塗料を塗りました。

エコプロ2016のオカムラブースには様々な木育家具が展示され、多くの子どもたちが見て触って体感。森田さんの木育授業にも熱心に耳を傾けていた

森田 私はいつも環境出前授業で話しているような自然環境や生物多様性、森を大事にする製品づくりなどのお話などをさせていただきましたが、子どもも大人も熱心に耳を傾けてくれてました。私の話だけじゃなくて、ブースには浅野さんが開発したたくさんの木製品が展示されていたので、相乗効果でより理解が深まったのではないかと思っています。来場者に実際に木製品に触ってもらうことで、様々な樹種による色の違い、重さ、香りなどを感じてもらえたと思います。

<$MTPageSeparator$>

C.W.ニコルさんの森の再生活動への支援も

対談 近影10

佐藤 オカムラが取り組んでいるACORN活動の1つに、C.W.ニコルさんが長年取り組んでいる森の再生活動(「アファンの森」)への支援があります。ニコルさんは森の再生活動において、森から間伐材を運び出す際、馬を使う「馬搬」の採用を推奨しています。その理由は2つあって、1つは運搬用の道を整備しなくてもいいから森を傷めずにすむということ。もう1つは馬搬という、廃れてしまっている日本古来の文化を残して後世に伝えたいという使命感です。

アファンの森にあるホースロッジは早稲田大学建築学科の古谷先生の設計なのですが、古谷先生の研究室の学生さんと一緒にアファンの森で家具製作のワークショップを開催して、できあがった家具をホースロッジに設置しました。


──そのワークショップとは具体的にはどういうものだったのですか?

佐藤 まずはアファンの森から馬搬で伐り出した丸太を板材に加工して、自然乾燥させる製材から行いました。その後、家具の板にするために正寸でカットして、塗装をして、最後は施工までして完成させたんです。ポイントは学生さんたちが自分たちで実際に木を触って家具を作り上げたという点。オカムラの社内的にも初めての試みでした。学生さんたちは森での木の生え方とか伐り出し方、加工の仕方など、普段なかなか目にしたり経験したりすることはないじゃないですか。今回は森から木を伐り出すところから参加してもらい、それらを現場で伝えることができたので、非常に有意義な木育の機会になったと思っています。

アファンの森でのワークショップの様子。三段目右が完成した家具

浅野 先ほどエコプロで展示した木育家具の件でお話した「アファンの森のホースロッジのワークショップ体験を活かして」というのはこの時のワークショップのことです。


地域創生としての木育

──角田さんは山形で産学官連携の木育の取り組みに関わっていますが、これについて詳しく教えてください。

角田 東北芸術工科大学のプロダクトデザイン学科では創立時より家具デザインに力を入れており、私は2014年から2年生を対象とした家具演習の中で、企業内デザイナーという視点で実践的なデザインプロセスや家具デザインを教えています。いま注力をしているのは一昨年(2015年)から取り組んでいる産学官プロジェクト。山形県の山間にある小国町には豊かなブナの森があって、昔はブナの木を使った製品作りが盛んだったのですが、現在は第二次産業が発達した町になってしまったためほとんどの住民がそういう文化があったことを知らないんですね。このままではそのような自然も文化も消えてなくなってしまうと憂慮した町の有志の皆さんの意向を受けて、「木」をキーワードとし文化の継承や町の活性化を図るため、我々オカムラと東北芸術工科大学と町が協力して何かやろうというプロジェクトを始めたんです。

角田さんによる東北芸術工科大学での初回講義の様子

角田さんによる東北芸術工科大学での初回講義の様子

1年目は「小国町のブナ材を使った地域創生の手掛かりを見るけるためのファーストファニチャーと仕組みづくりのデザイン」というテーマのもと、学生には小国の森や町でフィールドワークを行った上で、産まれてくる地域の子どもたちに届ける家具のデザインと仕組みづくりを考えてもらいました。彼らは木工家具づくりも学んでいるので小国町から採れたブナを使い実際に自分たちで見本となる家具も製作しました。

小国町では1年間に子どもが30人くらいしか生まれません。現在は衰退してしまった木工場でも年間30台は製作できるので全員に行き渡ります。幼いころからの愛着、同学年の子たちがみんな同じ椅子や机を持っているという共通の思い出が、年数を重ねるごとにすべての子どもたち、そして大人たちに段階的に広まっていきます。町の木を使い町で作った家具に触れ合うことが定着すれば、成人式や結婚式などのお祝いとしての広がり、ひいては、木産業が盛り上がり、最終的には町自体の活性化にもつながるのではないかと考えたのです。

<$MTPageSeparator$>

涙のプレゼン大会

佐藤 近影12

佐藤 学生さんからいいアイディアは出ましたか?

角田 たくさん出ましたよ。中でも秀逸だったのが、小学校5年生の図工の時間で自分たちの町で取れた木を使った椅子づくりをするための教材キットを作るというもの。それもただ組み立てるだけじゃなくて、デザインや形状に手を加えられる要素を残しているのでより愛着がわくんですよね。そうやって作った椅子を学校に1年間置いて、下の学年の子たちにも使ってもらって、卒業の時には持って帰る。生まれてきた子どもたちに届けるだけでなく次のタイミングとして自分で家具を作ることでより木に愛着を持ってもらおうというアイディアだったんですね。

産学官でこういうプロジェクトを行う場合、学校や企業が町や住民に一方的に押し付けてしまうというケースが多いんです。それは絶対やりたくなかったので、プロジェクトの要所要所で必ず町の人たちを巻き込もうと思い、学生さんたちのアイディアが固まった段階で小国町へ行って、町の人たちの前でプレゼンしてみんなの意見を聞こうという場を設けたんですね。

浅野 学生と町の人を積極的に繋げるのはいいことだよね。

角田 近影13

角田 プロジェクトがスタートして最初に学生さんにブナの森を感じてもらおうと小国町のブナの森に連れて行ったんですが、その後も、学生さんたちは車で1時間半ほどかかる小国町に自ら土日を使って積極的に通って、地元の自然や文化に触れたり職人さんや住民のみなさんと交流しながら調査をしてくれました。プレゼン当日は学生さんたちがそれらの体験や調査を通じての町への思いを提案成果に生かし素晴らしいプレゼンをしてくれて。会場にも子どもからお年寄りまでたくさんの町の方々が集って熱心に聞いてくれました。そのプレゼンが終わった時、これまでの過程が脳裏によみがえってきて、学生の頑張りとその思いが地域の人々に伝わったことがすごくうれしくて、感激して泣けてきちゃいました(笑)。私だけじゃなくて学生さんも集まった町の人たちも涙を流していたんですよ。

佐藤 みんな頑張ったんだね。達成感と喜びで思わず泣いちゃったと。

角田 私、涙もろいんですぐ泣いちゃうんです(笑)。あとこの取り組み自体、まだ正式な町の事業にはなっていなくて、役場や町の有志が集まってやってる状態なので、彼らも仕事を休んで参加してるんですよ。だから町の人が仕事だからやるという感じだと感動も薄いのかもしれませんが、地元を何とかしたいという熱い思いだけで取り組んで、それが1つ形になったので私含めみんなが盛り上がったんだと思います。また、昨年(2016年)10月には図工用の教材キットを小国町の森から伐った木で町の木工屋さんに10数個作ってもらって、小国町の小学4、5年生の子たちに実際に椅子を組み立ててもらうというワークショップ実施しました。

東北芸術工科大学の教え子たちと

東北芸術工科大学の教え子たちと

浅野 参加した子どもたちの反応は?

角田 みんなすごく喜んでましたよ。組み立ての手順もわかりやすかったようなので、いい感じだったかなと。このワークショップを通して子どもたちの作業レベルやどこに興味を持つかなどがわかってきたので、より楽しめて愛着が持てるような木工キットを完成させようと思ってます。予定としては来期もワークショップを開催し改良版で子どもたちにつくってもらうつもりです。

浅野 角田さんの活動は、単なる木育というよりも地域活性化とか地域おこしという意味合いが強いですよね。

角田 そうですね。こういう活動をしてると、地域が盛り上がって幸せになるというのが最大のポイントだと思うんですね。森から伐り出した丸太も可能な限りその地域で製材して、地域で製品を作って、地域で収めるという地産地消を実践して地域を活性化させる。そのためにオカムラとして可能な限りお手伝いしたいと思い、活動しています。


インタビュー後編はこちら

このアーカイブについて

このページには、2017年2月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2017年1月です。

次のアーカイブは2017年3月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。