2013年12月アーカイブ

日本に、"働き方革命"を起こしたい[後編]

まずは起業よりも就職の道を

──そもそも秋好さんがランサーズを立ち上げようと思った動機と経緯を教えてください。

20歳のときに初めてパソコンを購入し、大学生の頃から個人事業としてWebサイトの制作や受託開発、コンサルなどのインターネットビジネスを手掛けていました。いわゆる学生ベンチャーみたいな感じです。最も利益が大きかったのは旅行系のメディア。比較的リーズナブルなホテルを集めたポータルサイトや格安航空券の検索サイトなどを作ったところ、旅館や旅行代理店や旅行系のサイトを運営している企業から広告の出稿がどんどん舞い込み、年商は数千万円ほどになりました。規模が大きくなるにつれてひとりではできなくなったので、フリーランスのエンジニアやプログラマなどに業務を依頼していました。

就職活動時期になり、企業に就職をするか、そのまま大阪に残って自分でビジネスを継続するかで悩みました。自分が本当にやりたいことって何だろうと考えたとき、確かに起業もひとつの目標としては持ってはいましたが、それよりもインターネットを活用して、もっと世の中に大きなインパクトを与えたいという気持ちの方がそのときは強かった。ならば今は起業よりも企業に入るべきだと就活を開始したんです。

2003年当時のネット業界はまだ黎明期で、新卒採用なんてほとんどのIT企業は実施していませんでした。それでも数社から内定をいただいて、やりたいと思っていたインターネットビジネスの企画と事業開発ができるニフティに入社しました。


──ニフティではどんな仕事をしていたのですか?

入社後、Webサービス事業を行う部署に配属され、プロデューサーとして20~30ほどのインターネットサービスの企画・運営を手がけました。ニフティというのはおもしろい会社で、ビジネスの規模は大きいのですが社員はわずか600人しかいません。ですのでひとりの社員が外部の協力会社に実務を発注して、仕事を回していくというやり方なんです。私も新卒で入ったにもかかわらずプロジェクトマネジャーとして、20~30人のパートナー企業の皆様と仕事をさせていただきました。

当時業務を発注していたのはおもに大企業だったのですが、当然ながら外注費は高くつきます。そこで私が大学生のときに仕事をしてもらっていた個人事業主に発注しようと考えました。彼らはとても優秀で仕事のスピードも早いしクオリティも高かった。しかも外注費も大手企業の3分の1で済む。かつその金額は個人にしてみればすごくいいギャラでした。まさにどちらにとってもメリットが大きいwin-winなので、早速発注の稟議書を書いて上司に提出したのですが、取引実績のない個人は信用度が低く、仕事を発注するのは不安だという理由で稟議がなかなか通らなかったのです。今でも大企業は法人じゃないと取り引きしないという会社が多いですよね。それと同じです。

ただ、発注できないのは会社のルールの問題であって、有能で信頼できる個人なら企業側も依頼するメリットは大きいのは間違いありません。

ミスマッチを解消したい

個人側からしても大企業から仕事を受注できると多くの場合、報酬は高いし、その成果物は大きな実績となり、自分のフリーランサーとしての価値と信頼を高めることに繋がります。そんな大きなメリットがあるのはわかっていても、何のつてもない場合、なかなか大企業に営業に行って仕事をもらうことは難しい。かつて私自身が個人事業主として仕事を請ける立場だったのでよくわかります。高い技術を持ちながら営業が苦手というフリーランサーはたくさんいますよね。

このように、企業とフリーランサー、どちらにもニーズがあるのにミスマッチが起こっているということに気づいて、法人は安心して個人に仕事を発注でき、個人は気軽に法人から仕事を受けられるというサービスが私自身もほしいし、世の中にも必要なんじゃないかと思いました。私は両方経験しているから余計そう思ったんですね。さらにそういうサービスがあれば時間と場所にとらわれない働き方ができ、人びとの働き方が変わる可能性があるんじゃないかと考えました。

当時そういうサービスはなかったので、ならば自分で作ってしまおうと、2008年に独立して会社を起こし、クラウドソーシングサービス「ランサーズ」を立ち上げたというわけです。


──大企業グループから抜けて独立するということに不安や恐れはなかったのですか?

ゆくゆくは起業したいという気持ちは学生の頃からありましたし、学生の頃に自分である程度の規模のビジネスを作ることができたので、ニフティを辞めるときはそれほど怖くはなかったですね。もし起業してうまくいかなくてもまた数千万円レベルであればすぐ自分で稼げると思っていましたしね。

壁一面にホワイトボードが設置されていていつでもブレストができるランサーズのオフィス。ちなみに椅子はオカムラ製の「バロン」を採用している。「1日座っても疲れないので重宝しています」(秋好さん)

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ランサーズ立ち上げの原体験

──インターネット、そしてクラウドソーシングサービスがここまで成長するという可能性を感じた、その先見の明がすごいと思います。

学生のとき、インターネットに初めて触れた衝撃はいまだに鮮明に覚えています。当時は何かを調べようと思ったら、まずは図書館や書店まで出かけて行って資料を探し出し、そこから調べないといけなかった。でもインターネットの出現で、ヤフーやGoogleなどの検索サイトのウインドウに言葉を打ち込むだけでそれに関するものが一瞬で何万件と出てくる。「なんだこれは!」と本当に驚きました。

それで自分でもネットの世界を体験してみたいとパソコンを買ってホームページを作ってみたわけです。作るからにはかっこいいものをと思っていろいろ創意工夫して当時としてはまあまあかっこいいものができました。するとある日、私のホームページを見た広島の会社の社長さんから「我が社のホームページをもっとかっこよく作り直してほしい」というメールが届きました。もちろん全然知らない赤の他人ですが、自分のセンスが認められたような気がしてうれしくなって作ってあげました。そしたらその社長さんは「すごくいいホームページを作ってくれてありがとう、君にお願いしてよかった」ととても喜んでくれて、さらに「御礼に制作費を振り込みたいから振込口座を教えてほしい」と言ってきたんです。

当時のインターネットはまだあやしさ満点の世界だったので、口座番号なんて教えて大丈夫かなと不安で最初は教えませんでした。でも再三教えてほしいというメールが来たのでまあ悪い人じゃなさそうだし大丈夫かなと思って教えたら、指定の口座に5万円を振り込んだというメールが来ました。本当かなと半信半疑で銀行に行って通帳に記帳するとその会社から本当に5万円が振り込まれていたんです。驚きましたが、それでもまだ信じられなくて、この5万円、本当に引き出せるのかなと思って引き出しボタンを押すと本当に5万円出てきて、うわっ! 本当におろせた! みたいな。当たり前なんですけどね(笑)。

この経験もかなりの衝撃でした。僕にとってはホームページを作る作業は仕事でもなんでもなくて、ゲームをするような感覚で、それなのに5万円も振り込まれていた。当時はファミリーレストランでアルバイトをしていたのですが、時給700円で1ヶ月頑張って働いてやっともらえるバイト代が5万円だったんです。

いや、5万円という額よりも、自分自身が好きなホームページ作りをゲーム感覚で楽しみながらやったら、会ったこともない人にすごく感謝されてお金をいただいた。この経験で、インターネットってすごい可能性を秘めているなと身をもって実感したわけです。


──なるほど。それが原体験としてあるんですね。

そうです。インターネットビジネスにはまっていったのも、ランサーズを始めたのも、突き詰めればこれが原体験ですね。あのときのあの自分が感じたインターネットの可能性。クラウドソーシングってインターネットそのものなんですよね。企業が会ったこともない個人に仕事を依頼して、個人もそれに応えてちゃんと仕事をして、その報酬としてお金をもらえてお互いハッピーみたいな。

ですから、確かにそこにニーズがあることは確信していましたが、ビジネスとして儲かりそうだという先見の明があったというよりも、自分で体験してすごいと思ったのでそれをもっと多くの人に知ってもらいたい、社会に広めたいという方が感覚としては近いですね。

苦しかった2年間

──ランサーズはスタート当初から好調だったのですか?

いえいえ、とんでもない。立ち上げてしばらくは苦しい状態が続きました。何をやってもうまくいかず、毎朝目を覚ますたびに憂鬱な気持ちになっていました。社長という立場でしたが、つらすぎて会社に行きたくないと思ったり、会社も社長も辞めてしまおうかと悩むくらい追い込まれていた時期もありました。

でも最初に会社を立ち上げると決めた時のワクワク感とかランサーズのもっている可能性を考えると、やっぱりまだあきらめたくない、もう少しだけ頑張ろうと歯を食いしばって耐えて日々の業務に打ち込みました。すると2年くらい経った頃から徐々に業績が上向いてきたんです。


──業績が上向いたきっかけはあったのですか? こういうことをしたから伸びたというような。

特にきっかけのようなものはないんですよね。日々、ユーザーから求められていることを地道にやっていくうちに徐々に向上して現在に至るというのが正直なところなんです。

口コミの力

──マスコミに取り上げられてから伸びたというようなことも?

確かに各種メディアに取り上げられると一瞬は伸びますが、すぐにまた元に戻るんですよ。ちなみに集客という意味で最も反響が大きかったのはヤフートピックスのトップにランサーズの紹介記事が掲載されたときです。

ですから本当にただ地道にユーザーにとって使いやすいサービスを作ろうと努力していった結果、口コミで広がっていったという感じなんです。


──具体的にはどういうことをしたのですか?

クラウドソーシングサービスを大きくするためには、まず良質なクライアントを集めることが必要不可欠なので、それに専念しました。クライアントが増えれば仕事がほしい人も増えますからね。でも企業を回ってランサーズに仕事を登録してくださいと営業したわけではありません。集客はあくまでも、インターネット上だけで行いました。といってもそれもごくわずかで、やはり1度ランサーズを使って満足していただいたクライアントが繰り返し使っていただいたこと、そして他の企業にランサーズを使ってうまくいったと宣伝してくれたことで徐々に増えていき、それにともなって良質なフリーランサーも増えていったのです。

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震災で人びとの働く意識が変わった

スタッフ全員が秋好さんの掲げるランサーズのビジョンとスピリッツの下、一致団結して尽力してきた結果、現在の成長を成し遂げた


──ではランサーズがビジネスとして軌道に乗ったと思ったのはいつ頃ですか?

確信めいたものは最近ですね。立ち上げてから今まで、ランサーズに社会的な潜在ニーズは絶対にあると信じていましたが、どうやって成功させるか、このやり方で本当にいいのかと悩みながら試行錯誤を繰り返してきました。方法論の部分では確信は持てなかった。そこはいまだに不安で悩んでいます。経営者って人一倍不安症だと思うんですよね。ただ、もう一方でもっと伸びるという可能性は感じていて、そのためにどうするかを日夜考えているわけです。

ひとつの契機としては2011年に起こった東日本大震災があります。震災からしばらくは企業は節電のため、工場を平日の日中は止めて、深夜や土日に稼働させました。また、社員に自宅で仕事をするテレワークを命じた企業も多かった。これらによって、働く人のシフトチェンジが起こりました。また、首都圏では会社からの帰宅困難者がたくさん出たため、住む場所について改めて考えた人もたくさんいたでしょう。企業も個人も時間と場所にとらわれない働き方に対してこれまで以上に興味を示し、理解も深めたと思います。

さらに2012年に政権が自民党に戻り、テレワーク、女性の働き方、シニアの再雇用といったアベノミクスで多用されたワードに、時間や場所にとらわれない働き方ができるというクラウドソーシングが提供できうる価値がリンクし、注目が集まりました。また、近年ではパナソニックやNTTなど誰もが知っている大企業がランサーズ上に増えてきました。

こういったことが追い風となり、最近では依頼総額や登録案件数が前月比130%の伸びで急成長しているのだと思っています。

つくる人をつくる

人材育成に力を注いでいる秋好さん

──秋好さんご自身の働き方についておうかがいしたいのですが、秋好さんはランサーズの経営者として日々どのような仕事をしているのですか?

経営者として最も重要な仕事、ミッションは会社を成長させていくためのビジョンをつくり、達成するための経営戦略、戦術を考えることです。もうひとつ重要なのは組織づくりですね。立ち上げ当初は2人しかいなかった社員も現在では40数名に増えたので、少ない人数なりにある程度指揮命令系統を作っていかなければなりません。情報共有の仕組みづくりやマネジメント層の育成、人材採用なども大切な仕事です。

今までは自分がプレイヤーとしてランサーズのシステムをつくっていましたが、今は「つくる人をつくる」のが僕の仕事。自分自身が手を動かすのではなく、実務をしてくれる人や僕が現場に入らなくてもうまく回る組織をつくるというタイミングに来ていると思っています。もちろん現場にはノータッチというわけではなく、新しいサービスやプロダクトをつくる際の意思決定はしています。


──1週間のスケジュールはどんな感じなのですか?

平日は朝9時に出社して22時くらいまで、遅いときは1時くらいまで会社で仕事をしています。平日はほとんど1日会議で埋まっています。ただ、先程も言いましたが、中長期的な戦略を考えるのが社長の大切な仕事なので、意図して水曜の午後は会社に来ないと決めて、近くのカフェでひたすら中長期の戦略を考えています。


──休日は土日ですか?

実は土日も働いているんですよ。イベントに登壇したり、経営会議に出たり。日曜は社長室のメンバーと戦略を考えています。1日仕事関係のことを何もしないという日はほぼないですね。でもそれが経営者というもので、基本的にやりたいことをやっているので苦ではありません。

考える時間がほしい

──では現在の働き方には満足していますか?

中長期的な会社の経営戦略やサービスの未来を考えるためには、ある程度の時間的余裕がないといいアイディアが生まれません。また、新しい働き方を作るというミッションを実現する過程では課題も当然たくさんあって、それをクリエイティブに解決していくためには同じく余裕が必要です。

しかし、先程もお話したように、現状はいろいろな業務でキツキツであまり新しいことを考える余裕がないので、常に半分くらい脳みそを自由にさせておきたいですね。例えば週の半分は出社しないでずっと考えるというくらいの働き方ができるといいなと思います。

そのためには僕と同じレベルで思考し、仕事ができる人間を増やしていくことが必要不可欠なので、今それに取り組んでいるところなのです。以前お話した社員合宿もその一環です。

仕事の上に私生活がある


──ほとんど休んでいないという秋好さんですが、ワークライフバランスに関しては思うところありますか?

私生活が充実するためには仕事もある程度充実することが不可欠だと思っています。「仕事が全然うまくいってないけどプライベートは最高です!」という人はほとんどいないんじゃないでしょうか。ですので、私の場合は、仕事と私生活の2つが横に並んでバランスを取るというよりも、仕事の上に私生活があるというような感覚です。

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好きなことで役に立ちたい

──秋好さんは働く上でどんなことを大切にしてきましたか?

ひとつ根本にあるのが、明日死んでも後悔しない生き方がしたいということ。その原体験となったのが僕が中学生のときに起こった阪神淡路大震災です。当時は大阪に住んでいたので震災からしばらくは、親族や友人など日常的に人の死に直面させられました。そのとき、人って簡単に死ぬんだな、自分だっていつ死んでもおかしくないんだと強烈に思いました。だからこそ明日死んでも後悔しない生き方がしたいとの思いが胸の奥に深く刻まれたんです。2011年の東日本大震災でも改めてそう思ったし、そういう人も多いんじゃないでしょうか。

明日死んでも後悔しないために重視してきたのは心の底からワクワクするような本当にやりたいことをやること。好きな仕事で楽しく働くこと。ですから今取り組んでいるランサーズの事業は仕事というか自分のやりたいことで、僕はそのやりたいことをやりたいようにやって、生きたいように生きている。それが結果的に「働いている」という状態になっている、いう感じです。


──最高の人生ですね。

最高です(笑)。そうなるようにこれまで自分自身でその都度働き方や生き方を選択してきたという感じですね。

もうひとつ働く上で重視しているのは。自分の仕事が社会にとって意義があるかどうか。それがなければただの遊びになっちゃいますからね。好きなこと、やりたいことで、人や社会の役に立つことを理想として取り組んできました。

苦手なことも好きなこと

──とはいえ、経営者という立場になると本来はやりたいと思っていなかった苦しいことやつらいこともたくさん出てくると思いますが。

確かに経営者という立場になる過程でそういう悩みはありました。ひとりのエンジニアだった頃は好きなものづくりだけに没頭できたのですごく楽しかった。

それが組織が大きくなってくると当然収支面や人のマネジメントなど会社を経営していくための難しいことを考えなければなりません。正直数字を見て分析、判断することなどは得意じゃないのでできればやりたくない仕事です。

だけどそういう苦手な仕事も、僕たちが目指している社会を実現するためには避けては通れない道なんですよね。また、結局どんな大企業でも社長≒会社だと思うんですよ。社長の器で会社の規模も決まるといっても過言ではない。自分も経営者として研磨、鍛錬、成長しないと、会社は成長しないしやりたいこともできない。だから苦手な仕事もやりたいことの一部だなと思えるようになりました。

これからもっと会社の規模が大きくなり、僕自身の視座が高くなっていくと、こんなこともやらなきゃいけないのかというようなことも増えてまた絶対悩むと思いますが、それもまた好きな仕事だと思ってやる。その繰り返しなんでしょうね。


──立場が上がっていくにしたがってやりたくない仕事も増えていくけど、実現したい大きな目標があるから頑張れる。それをこなしていく過程で会社も秋好さんも成長してきたし、これからも成長していくということなんでしょうね。

そうですね。最初はアルバイトひとり雇うのも死ぬほど悩んでた小さな人間でした。石橋を叩きまくって渡るタイプなので(笑)


──では何のために働くかというと?

突き詰めれば自分のためだと思います。大学生のときに大きな衝撃を受けたインターネットの可能性を多くの人にも知ってほしい、気づいてほしいという自己欲求な気がしますね。

そして、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトなどと同列にある働き方の選択肢のひとつとしてクラウドソーシング、つまりランサーズを確立したい。例えば今の大学生が卒業すると大多数は会社に就職しますが、当たり前のように「ランサーズを利用して働く」を選ぶという社会になればいいなと。そういうキャリアパスが描けるように、いきなりランサーズで生きていくというロールモデルも作っていきたいと思っています。そうやって将来的には日本の働き方を変えて、引いては人びとの生き方を変えるところまで実現したいと思っています。

日本に、"働き方革命"を起こしたい[前編]

日本初にして日本最大のクラウドソーシングサービス

ランサーズトップ画面

──「ランサーズ」とはどのようなサービスなのでしょうか

2008年に立ち上げた、日本初にして日本最大のクラウドソーシングサービスです。仕事を依頼したい企業(人)と仕事を受けたいフリーランスをインターネット上で結びつけるサイトで、会社に所属していない人でも企業と直接仕事の取引を行うことができます。

最大の特徴は仕事の発注から進行、納品、支払いまで、一貫してランサーズ内で完結できるという点です。仕事を依頼したい側と受けたい側を結びつける単なるビジネスマッチングサイトは2008年以前にもありましたが、これを日本で初めて可能にしたのがランサーズなのです。

この5年間で、ランサーズに登録しているクライアント数は5万社、フリーランサーは20万人。これまでの依頼件数は22万件で依頼総額は115億円にまで増えました。特にここ最近は好調で前月比130%の勢いで伸びています(2013年12月現在)

仕事を発注しているクライアントの一例。大企業も少なくない

──登録しているフリーランサーはどんな職種の人たちが多いのですか?

元々クリエイター向けに始めたサービスなので、デザイナーが3~4万人、エンジニアが2~3万人、ライターが3万人前後、残りは学生、主婦、副業系のサラリーマンなどです。ランサーズに掲載されている仕事は70種類ほどです。

──日本で働いている人の全体の割合でいうと営業職や事務職も多いですよね。こちらの方の仕事を増やしていくお考えは?

今後増やしていく予定です。例えば経理の伝票整理や決算書の作成などはクラウドソーシングに向いているので、今後広がる可能性は十分にあるし、そうしていきたいと思っています。


──経理関係の場合は機密漏洩に不安を感じてインターネットで発注するのに二の足を踏む企業も多いのでは?

確かに機密性が高い仕事をランサーズに出すのは恐いとよく言われますが、セキュリティ対策は万全なので、リアルでやってもランサーズ上でやってもセキュリティリスクは変わらないんですよね。そういった間違った先入観も取り除いていく必要があります。例えば、ひと昔前ならクレジットカードの暗証番号をWebサイトに入力するなど恐くてとても考えられませんでした。でもセキュリティ技術の進歩により、今では誰もが特別な不安を感じずに入力してネットショッピングを楽しんでいますよね。

それと同じように、今は不安をもつ人もいるでしょうが、10年後は多くの企業が当たり前のように機密情報を扱う仕事をランサーズ上で発注していると楽観しているし、そう変えていきたいと思っています。

ランサーズの存在意義

──ランサーズの存在意義はどのへんにあるのでしょうか。

現在、一般的な働き方としては、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトくらいしかありません。働く人にとって選択肢自体が少ない。そこに対して「時間と場所にとらわれない働き方」という選択肢を作ることが僕たちの存在意義かなと思っています。

例えば、幼い子どものいる主婦やシニアの方、また近親者の介護などをしなければならない人は、毎日会社に数時間かけて通勤して、8時間ぶっ通しで働くのは物理的に不可能です。そのような事情を抱える方でも、ランサーズにはちょっとした隙間時間にできるような仕事もたくさんあるので、お子さんが寝た後の2~3時間で仕事ができます。

もちろん経験豊富で高い技術力や知識をもつ人にとっても相応の仕事もあるので、スキルに応じた働き方が可能です。このような仕事をすること、収入を得ることで、社会とつながってる感を得られます。そこも大きな価値だと感じる人も多いんです。そしてそれは企業や社会にとっても大きな価値となります。

ランサーズはさまざまな人がこれまで蓄積してきた経験やスキルがいかようにも生かせる、いわば人の最適化ができる場所。そういう職能を生かしたいと思う個人と、それを求めてる企業が出会える場所だということもランサーズの存在意義です。こういう働き方ができる人の裾野をどんどん広げたいと思っています。

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働き方革命を起こしたい

──確かにそうなれば働き方の選択肢も増えますよね。

例えばお子さんをおもちで、往復2時間かけて満員電車に揺られて通勤している人はたくさんいらっしゃると思いますが、僕らが普及させようとしている働き方が可能になれば、2時間の通勤時間がなくなり、お子さんと過ごす時間が2時間増えます。これは幸せなことですよね。

大部分の人にとって仕事は生涯付きまとうもの。1日のうち仕事をしている時間はだいたい3分の1から2分の1くらいを占めますよね。ということは仕事は人生の2分の1か3分の1を占めることになります。その部分がよくなると人生の2分の1、3分の1くらいがよくなる。このように、人びとの働き方を変えることで、生活や人生をよくしたい。これが僕らの一番やりたいこと、目指していることです。さらにもっとその先の未来には革命が起こるかもしれません。


──どういうことなんですか?

地球規模で自由な働き方をする人が増えると、人類にとって自由な時間が1%増える。人類が今後100億人になっていく中で、1%の自由な時間って非常に大きいですよね。そうなるとクリエイティブなことを考える人も多くなると思うので、その時間で世界を変えるような画期的な発明やクリエイティブな革命が起こる可能性はかなり高いと思うんですよ。ランサーズで働き方革命を起こし、その支援になるきっかけになればいいなとも密かに思っているんです。

ランサーズのユーザー像

──実際にランサーズをよく使っているのはどんな人なんですか?

最近、自由な働き方を選択する個人の方が増えていて、現在、ランサーズだけで生活している年収300万円以上の人が150~200人ほど。一番稼いでいる人で年間800万円くらいです。そしてランサーズで毎月いくらかの収入を得ている人が1500人ほどいます。数としてはまだまだ少ないのですが、ランサーズというサービスを生み出す以前は0だったわけですからそれなりに意味はあるかなと思っています。

そしてランサーズのユーザーの7割は地方在住です。地方に住みながら東京の企業の仕事をして生活する。そんな生き方、働き方をしている人がけっこういるんですよ。例えば仙台在住の女性ライターや奈良在住のデザイナー、長野在住のエンジニアなどは東京の大手クライアントを何社か抱えていて2年間で千数百万の仕事をしています。あとは意外と沖縄在住のデザイナーやエンジニアなども多いです。

実際に、先日僕のFacebookにユーザーさんから写真付きのメッセージが送られてきました。「今、秋好さんが作ったランサーズで仕事をしています。私が生きている世界を見てください」と書かれてあったので、何だろうとおっかなびっくり画像ファイルをダブルクリックしてみると、田園風景の中、川で子どもが遊んでいて、その風景をバックにパソコンで仕事をしている人が写っていました。

メッセージの続きには、「我が家の裏です。こんな田舎なのにランサーズ様のおかげで仕事ができて本当にありがたいです」と書かれてありました。山に囲まれ、近くに清流が流れているような場所に暮らし、川で裸で遊ぶ我が子を眺めながらパソコンで仕事をしているのがその人だったのです。

こういう人がいるということは頭では理解していたつもりだったのですが、ユーザーから直接僕個人に生のメッセージや写真が送られてきたことで、現実にこういうことが起こっているんだとリアルに感じられて大きな衝撃を受けました。同時にとてもうれしかったですね。ランサーズを立ち上げてよかったと心底思った瞬間でした。

成長するユーザー

──まさに時間と場所にとらわれない働き方を実現している人ですね。他に印象的な人はいますか?

ある沖縄在住の女性はまず、ランサーズで「タスク」と呼んでいる簡単な単純作業から始めました。中にはおもしろい仕事もあるし、お金も毎月振り込まれるから楽しくなった。でもいかんせんタスクは1件100円、200円と単価が安いので数をこなさなければならない。そこでもっと単価の高い仕事をするためにスキルを身につけようと、インターネット上で無料で受けられるデザイン講座を受講。そこで身につけたスキルで単価が高いデザインの仕事をやりはじめるようになって収入を上げたという人もいます。自分で学ぶ意欲がある人はランサーズを介してこのように進化していける可能性があるんですよね。

僕らが狙いたいのはまさにそこで、今はタスクでお小遣い程度しか稼いでない多くのランサーさんにこういう人になってもらいたいんです。そして、2017年までにランサーズだけで生活できる人を1万人に引き上げたいと思っています。

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3段階の成長戦略

──そのための取り組みとして、例えばどんなことを行っているのですか?

これまで、ランサーズを世の中に浸透させるため3つのステップを考え、実践してきました。第1のステップは、クラウドソーシング市場を大きくすること。具体的にはランサーズに登録するクライアントとフリーランサーの数と全体の取り引き額を増加させること。第2のステップは、フリーランサーがランサーズだけで生活できるような状態を作ること。第1ステップと第2ステップはまだまだこれから増やしていく必要はありますが、ある程度は達成できました。

現在もっとも力を入れているのは、第3のステップである「教育」です。ランサーズで暮らせるようになったフリーランサーの方々に講師になってもらって、どうやってクライアントやリピーターを増やしていったのか、どんなふうに仕事をしているのか、ランサーズの上手な使い方など、フリーランサーとして自活するノウハウを多くのフリーランサーにレクチャーする「47都道府県おじゃまします! フリーランス交流会」を開催しているんです。いわば全国フリーランス行脚イベントですね。毎回平均50人ほどが参加してけっこう盛況なんです。

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2013年11月に盛岡で行われた交流会の様子。ランサーズをうまく使っている個人事業主の話に多くの参加者が熱心に耳を傾けた

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広報担当の山口氏による「マル秘ランサーズ活用術」。多くのユーザーにとって気になる「どうすれば提案が通りやすくなるのか?」を詳しく解説

もう1つは、報酬の単価を上げることも重要です。大きな企業とアライアンスを組むときは報酬の単価を極力上げようと交渉しています。とはいえやっぱり企業はインターネット経由の仕事に不安を感じるので、ランサーズ株式会社がいったん大きな案件を丸ごと受けて、それを切り分けて個人のランサーさんに渡して、完了までプロジェクトマネジメントしていくという方式を取ることもあります。


──ランサーズを利用している人は海外にもいるのですか?

はい。海外のユーザーさんはだいたい2%くらいです。ただ海外の方がアクティブ率が高いです。例えばハワイやスペインに住んで、ランサーズ上の仕事で生活していけるだけのお金を得ている人もいます。また、ご主人の給料は生活費に使い、ランサーズからのギャラを貯金に回している主婦もいます。例えばスペインは日本との時差がちょうど12時間なので、日本側から夜に仕事をお願いすると朝にはメールで届くので使い勝手がいいという企業さんの声もよく聞きますね。


──そうすると為替の差を利用した働き方、例えば物価の安い東南アジアの国に住んで、ランサーズを通して日本の企業の仕事をすれば少ない労働時間でかなり豊かな暮らしができそうですね。まさに時間と場所にとらわれない働き方が国内だけじゃなくて世界で可能という。

そうですね。その可能性は十分にあります。

自社の社員も"仕事は自由に楽しく"

──ランサーズのユーザーだけではなく、ランサーズ内部の社員の働き方に関してはいかがでしょう。時間と場所にとらわれない働き方を内部に対しても実践しているのでしょうか。

笑顔あふれる和気藹々とした職場

ランサーズを支えてくれているスタッフにも楽しく自由に働いてほしいと思っていますし、そのための制度もいろいろ作っています。例えば出勤に関しては全社員の3分の1を占めるユーザーのサポート担当は在宅ワークです。エンジニア職はフレックス制ですし、広報やビジネス開発担当はほぼ自由であまり社内にいません。

本社も今年(2013年)6月までは鎌倉にあったんですよ。それこそ時間と場所にとらわれない働き方を自ら実践するために。ただ、会社の規模が大きくなるにつれて鎌倉に土地と建物を確保することが難しくなったのと、逆に鎌倉にこだわるのは地方という場所にとらわれているんじゃないかと思い、渋谷に移転しました。


──福利厚生面ではユニークな取り組みをされていますか?

例えば遅くまで仕事をする人には夕食代を支給したり、違う部署の人と食事をしたらその食事代を支給しています。あとは毎月末には締め会を開催し、頑張った人を表彰しています。その後は会社負担の飲み会へ。あとは誕生日休暇を設定しています。また職住接近は楽だし何かとメリットが大きいので会社の近くに住む人には距離に応じて家賃の一部を補助しています。

締め会の模様

半年に一度の合宿

また、半年に1回、全社員参加の1泊2日の合宿を開催しています。バスを1台貸し切ってみんなで温泉旅館に行くんです。ちなみにその日は僕が添乗員になります(笑)。どんなことをやるかというと、僕が現在の会社の経営課題を伝え、皆さんに2日間だけ社長になって課題の解決方法を考えてもらうんです。「時間と場所にとらわれない働き方をつくる」という我々のビションに対して2日だけでいいから楽しみながら向き合ってみてくださいと。

合宿の模様。モットーは「楽しく真剣に」

ランサーズはまだできて5年のベンチャー企業で社員の平均年齢も30代前半と若いので、チームワークを強めることと、一人ひとりに経営者の視点で考える癖をつけてもらうことが狙いです。その効果は少しずつですが出てきていると感じています。合宿が終わったらアンケートを取るのですが、だいたい90%以上の満足度なので、社員のみなさんにも満足してもらえているのかなと思っています。

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今後の働き方

──秋好さんは新しい働き方をつくろうとしているわけですが、今後、人びとの働き方はどのようになっていくと思っていますか?

ひとつは、現代は人類史上初めて、職業の寿命が人間の寿命よりも短くなった時代なんですよ。どういうことかというと、例えばヨーロッパで代々靴職人を生業としている家系だと、靴職人というスキルを親が子に伝え、子が孫に伝え、そのスキルだけで200~300年は生きてこられました。

しかし、今は例えばIT関係のスキルを身につけてもそれが実際に開発現場で使える期間は30年くらいです。しかもその期間はだんだん短くなっている。求められている技術はものすごいスピードで進化していて、その分使われなくなる技術もものすごいスピードで増えている。そうすると何が起こるかというと、これまではひとつのスキル、職能だけを身につければ生涯食べていけたのが、今後は1つじゃ足りなくて2つ、3つくらいないと生きていけなくなる。

別の角度から見ると、グローバルな競争にさらされたりすることで産業そのものの寿命が短くなっているので、会社の寿命も短くなっています。事実、100年、200年続く企業ってどんどん少なくなっていますよね。そうなると一番会社を圧迫する経費は人件費なので、会社は正規雇用を控えるようになり、個人がひとつの会社で長く働くということが難しくなってくる。

そういう状況になると、事業を推進していくために企業が取る方策としては、社内の人間だけで回していくのではなく、企画ごとにさまざまな職能を持つ外部の個人が離合集散するプロジェクト式になるでしょう。今後、全体の1割とか2割はそういう働き方になる可能性があります。事実、リクルートワークス研究所の調査でも、今後企業のアウトソーシング率が1.5~2倍になるとか、正社員は確実に減っていき、今全体の15%を占めているプロジェクト式が2020年には50%くらいになるという結果が出てるんですね。

とはいえ、こういうプロジェクト式がベストだと言っているわけではありません。そもそも働き方にいいも悪いもありません。当然巨大なプロジェクトは個人の集まりではできないので、従来通り大企業の社員が中心となって進めていくでしょう。

どちらかトレードオフというのではなく、多様な働き方があっていいと思うし、そのうちのひとつの可能性を作っていきたい。個人の職能を生かしたプロジェクト式を採用したいという企業や、そんな働き方をしたいという人が増えた時のプラットホームにランサーズがなりたいと思っているんです。

人びとに伝えたいこと

──働くということに関して人びとに伝えたいことは?

本当にやりたいことがあるのに、それを我慢して生きている人が多いような気がします。長らく不況が続いているので仕方がない面もあるとは思いますが、特に若い世代はリスクに対して必要以上に臆病にならずに、本当にやりたいことがあればやってみればいいんじゃないでしょうか。ダメでも命までは取られませんから。

僕自身も若い頃はこの先自分はどうなっていくんだろう、などと悩んでいました。でも頑張ってやってみたらできたし、行動する過程で好きなことや得意なことや苦手なことを判断する軸が見えてきたので、いつまでも悩んでないで、とりあえずやってみることをお勧めします。


──確かに頭の中でいつまでも悩んでいたって何も得られませんもんね。

そうですよ。有名な壷の話がありますよね。人びとを集めてAとBの2つのグループにわけて、Aグループには最高の壷を作れという指示を出して、Bグループにはとにかく壷を量産しろという指示を出した。その結果は、明らかにBグループの方がいい壷をたくさん作ったという話です。

この話は人生にも当てはまると思っていて、自分にとって天職のような仕事がしたいと思ってもあれこれ考えすぎてなかなか難しい。でも少しでも興味のあることをどんどんやっていくとその過程でこれだというものに出会えると思うんです。僕の周りの尊敬する人たちも同じようなことを言っているので、真理だと思いますね。


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