2016年7月アーカイブ

男性社会の中で働く。女性左官たちの本音[後編]

男性社会、「女性ならでは」エピソード

左から古澤ひかりさん、福吉奈津子さん、島田静恵さん

左から古澤ひかりさん、福吉奈津子さん、島田静恵さん

古澤ひかり(以下、古澤) みなさん、現場で他の会社から来てる人と話すことってあります? 私は自分からはほとんど話さないです。女性が珍しいから話しかけてくれる人もいるので、そういう時は話しますけどね。あまりグイグイ来る人は苦手で聞こえないふりをすることもあります(笑)。

福吉奈津子(以下、福吉) 私もあまりグイグイ来る人は無視することが多いかな。

島田静恵(以下、島田) でも他の職人さんはたまに荷物を持ってくれたりします。やたら手伝ってくれたりするよね。

福吉古澤 あー、それはあるある。

古澤 あとたいへんなのはトイレですね。女性用トイレを設置してくれる現場もあるんですが、多くの現場ではないですからね。近くにコンビニもない現場だと超大変ですね。

島田 確かに。あと着替えの問題もあるよね。基本的に一回会社に帰ってきて着替えるんだけど、直帰の場合もありますよね。私は駅のトイレとかで着替えてるんですが、福吉さんはどうしてます?

福吉 作業着でそのまま帰ってる。

左官職人になってよかったこと

「も」もの作りは楽しい。

古澤 先輩方は、左官職人になってよかったと思ったことって何ですか? 私は初対面の人と話すとき、「仕事、何?」って聞かれた後、最初の3分から5分は盛り上がることですかね。とりあえず、つかみはオッケーになる。一個くらいは質問返しが来ますしね。

福吉 なるほど(笑)。

島田 どんな質問をされるの?

古澤 例えば「仕事は何してるんですか?」 左官という仕事しています。 「へー、珍しいね。どんなことやるの?」 こんなことしています。......という感じで終わります。

島田 そう言えば、古澤はこの間合コンに行ったって言ってなかった?

古澤 あれは合コンじゃありません。同い年で飲んだだけです。合コンなんて、ソッコーで休憩のときのネタにされてしまうので行ったとしても絶対言いません(笑)。

島田 私も初対面の人に「左官をやってます」って言った時に「へー」っていろいろ聞かれたりするの、嫌だな。めんどくさい。あくまで他と同じ職業のひとつだから。

福吉 島田さんはワークショップで左官を教えてるけど、その時はどう思ってるの?

島田 今は周りの人たちの方が左官に興味をもちすぎていて、こっちから言わなくてもグイグイくるから「楽しいですよね」と返しています。例えるなら......教官のような気持ちで教えています。

女性メンバーの数は一定

福吉 私が入社したころはまだ女性が少なかったけど、ほぼこの10年間、社内にいる女性左官の人数は7~8人で安定してるよね。もちろん入れ替わりはあるけれど。

島田 そうですね。辞めてく人もいるけど入ってくる人も多いですしね。

福吉 ひとり辞めたら、また入ってくる。ずっと同じくらいの人数だからか、仕事をするうえであまり変化は感じないんだよね。

島田 女性左官、増えてほしいですか?

福吉 あまり多すぎても何かと大変そうだよね。それに10年前からテレビでも取り上げられているから、テレビで紹介されたからといって外的な変化もあまりない。

島田 左官業界だけじゃなく、ほかの職種でも女性が注目されていますよね。例えば、美人タクシードライバーとかトラックの運転手とか、それこそ"ドボジョ"とか。でも自分としては「誰が何をやったっていいじゃん」と思っていて、そういうメディアに作られた世の中の流行とは関係なく、しっかり働いていればいいのかなって思っています。

子育てと仕事の両立

福吉奈津子さん

福吉奈津子さん

古澤 うちの会社って女性の働きやすさという意味ではどんな感じなんでしょうか。福吉さんは、うちの会社での産休取得者第1号なんですよね。

福吉 入社1年目と3年目の時、男の子と女の子を産んで、今10歳と7歳。妊娠した時、特に旦那からも会社からも辞めろとは言われなかったね。当時は、辞めるも何もまだ左官の修行を始めたばかりだったし、ここと同じ待遇でほかに雇ってくれる会社なんかなかった。だからこの会社で今も働いているって感じかな。

島田 当時は、先代の社長ですか。

福吉 そう、先代。あのとき社長とやりとりしながら産休とか育休の制度を作ったんだよね。

古澤 先代の社長とはどんなふうにやりとりしてたんですか?

福吉 「行政的なもので、こういう制度があるよ」と調べて教えてくれたりした。あと、最近だと連続して行っている現場で、持って帰るものがなくて、本社に用がなければそのまま自宅に帰らせてもらってる。基本的には私は電車で帰ることが多いかな。みんな私に子どもがいることを知ってるから、「いいよ、電車で」って言ってくれる人が多い。言ってくれない場合は、様子を見て自分から「電車で帰ってもいいですか」って聞いてる。もちろん材料や道具など荷物が満載の時は、ちゃんとみんなと車で会社に戻ってきて一緒に片付けするようにしてるけどね。ただやっぱり電車で帰った方が確実に早く家に着けるんだよね。それに主婦にとっては夕方の1時間ってものすごく大きい。15時に仕事が終わったとして、18時に帰るのと19時に帰るのとでは全然違う。そういう意味では子どもをもつ女性が働きやすい会社だと言えるし、会社のみなさんにはいつもお世話になってます。

島田 とんでもないです。

古澤 確かに今幼稚園や保育園の子がいる職人さんはみんなが気を利かせて帰れるようにしているから、いつもお迎えの時間に帰ってますよね。もちろん、私自身はまだ結婚もしてないし子どもを産んでもないので、そのことだけを取って働きやすいと断言することはできないとは思いますが。

福吉 そうだね。急な残業も多いし、他にもいろんな要素があるから働きやすいか働きにくいかをひと言で言うことは難しいよね。ただ、この会社は女性が結婚したり出産したりしても、できるだけ長く働けるように努力してくれていると思う。

島田 確かにこの会社では結婚や出産で働けなくなるという不安はないですよね。

実際に作業している様子。こちらは原田左官本社内

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結婚出産後も働くことができる、という選択肢

福吉奈津子さん

福吉奈津子さん

島田 お子さんが小学校に上がる前は、保育園の送り迎えは旦那さんがされていたんですか?

福吉 私は6時半に会社に来るから、子どもを保育園に送るのは絶対できないし、仕事が終わる時間もわからないからお迎えも無理。だから旦那が8年間ずっと送迎をしてくれたのよ。今は2人とも小学校だから送迎は必要ないから、家に帰ってから夕飯を作ったり家事をしたりしてる。

古澤 お子さんが小学生になって少しは楽になりました?

福吉 いやあ、まだまだ大変だよ。やることはたくさんあるからね。

古澤 福吉さん見てるとすごいなあと思いますよ。一番大変だったのは、どんな時ですか?

福吉 子どもが熱を出したと保育園からよく電話がかかってきていた時は、結構大変だったかもしれない。現場から自分だけ途中で帰るのは他の職人に対して申し訳ないじゃない。そういう時が一番つらかったかな。もちろん帰るしか選択肢はないんだけどね。

島田 お子さんに仕事の話とかするんですか?

福吉 ざっくりとはするけど、興味を持っているかは......うーん、この仕事って子どもにはわかりづらいじゃない? 普段働いている姿が見られるわけではないし、そんなにイメージがわいてないんじゃないかな。

古澤 ママ友も福吉さんが左官職人をやってるって知ってるんですか?

福吉 それは知ってる。この格好で普通に近所を歩いてるからね。未婚のふたりは結婚してからも働きたいって思ってる?

島田 結婚の予定はないですが、今の気持ちとしては、漠然と仕事は続けたいなあと思っています。

古澤 私も同じですね。

男女の性差よりも"器用さ"

古澤さんのこて。これだけの数をケースにより使いこなす。この量でもまだ少ない方だそう

古澤さんのこて。これだけの数をケースにより使いこなす。この量でもまだ少ない方だそう

島田 左官って男女で得意不得意はないですよね、あまり。

福吉 うーん、男女より器用か不器用かの差なんじゃない? ものすごく不器用な人は修行しても限界あるよね。自分で向いてないと自覚して辞めていった人もいたし。

島田 恐くなってきた、私に言ってるのかと......。

古澤 私もドキドキッときました......。

福吉 自分で器用だと思ってないの?

古澤 不器用でなはいと思いますけど......不器用な人はいくら修行してもダメですか?

福吉 難しいと思う。生まれつきすごく不器用な人が器用な人と一緒に入って仕事をしても、器用な人を超えることがあると思う? 手先の器用さは変わらなくない?

島田 それはそうかも。

福吉 もっとも人の10倍くらい努力すれば、なんとか一人前になれるとは思うけど。でも、左官って器用さだけを求められる仕事じゃないないから。要領のよさも必要だよね。

島田 要領よくやる仕事もありますね。この仕事はあまりできなくても、この仕事はやたら上手というものもありますし。

福吉 例えばブロックを積むのは、要領よくやっていけば、どんどん進めていけるタイプの仕事だし、そんなに器用さは求められないよね。器用さとか繊細さなどの能力が重視されるのは仕上げの仕事だけど、仕上げについては、行く頻度が高い人は決まってるよね。

仕事の目的

島田 福吉さんくらいベテランなら「左官という仕事に誇りをもってる」と言えるかもしれないけど、私はまだ「職業は左官です」くらいのレベルですね。

福吉 いや、私だって胸を張って「左官に誇りをもってます」なんて言えないよ。だって、恥ずかしくない?

古澤 先輩方にとって仕事の目的って何ですか?

古澤ひかりさん

古澤ひかりさん

島田 私にとって仕事はお金のためが一番、生きるためにするもの。

福吉 そうだよね、お金のため、生きるため。

古澤 私は他に何をしていいかわからないから働いてます。周りで働いてない人がけっこういるので、働こうって思いました(笑)。

得意な技術、苦手な技術

島田 一番難しい技術はどれなんだろう。先輩は黒の磨きが一番難しいって言ってましたね。

福吉 島田さんは、土壁が好きって言ってなかった?

島田 好きだけど、会社じゃやったことないですから。

福吉 私もこの会社に10年以上いて数回だから、そりゃそうだね。

島田 板に材料つけて張って、その板をはがすと木の目が出るやつは好きですね。嫌な仕事ってあります?

福吉 金属の塗料は好きじゃないね。万が一吸ったら、とても体に悪いので。あと炭を入れたモルタルは、全身黒くなるからやりたくない(笑)。

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ロールモデルがいる環境

先輩後輩でも和気あいあいとした雰囲気

先輩後輩でも和気あいあいとした雰囲気

古澤 この仕事って何歳くらいから体力的につらくなるんですかね。

福吉 わかんない。やってる仕事にもよるよね。だって1日中塗ってたら、何歳だってつらくない? 例えば資材の搬入ばかりだと疲れるけどそれだけの仕事はないよね。逆に搬入がない仕事はないわけだし。

島田 入ったばかりのころは搬入だけで疲れるけど、そういうのは何年か経つとなくなってきますよね。

古澤 いくら力仕事とは言っても、8時間労働のうち8時間力仕事をしてるわけじゃないですよね。最初の1時間程度だし。

福吉 社内の最高齢の方は60代後半かな。70歳で引退だから、それ以上の年齢の人はいないけど。

古澤 何歳くらいまで働こうかとか考えてます?

島田 それはわからないなあ。いくつまで働くとかは考えても仕方ないと思うし。

福吉 女性左官の「この先」については、社内に女性の先輩たちがいるから、彼女たちを見て考えようと思ってる。

島田 社内にロールモデルがいるのは確かにいいことですよね。今女性で一番年齢が上の方は42歳ですが、最近やたら元気ですよね(笑)。

古澤 現役バリバリ。たまに腰が痛いって言ってますけど。

福吉 腰が悪いんだよね。ヘルニアかなんかで慢性的なものみたいだよ。

古澤 そうなんですね。この仕事を長年やってる人は、みんな腰が痛くなる。でも主婦だって腰痛くなるじゃないですか、そう思うと関係ないですよね。

今後の目標

島田静恵さん、福吉奈津子さん

島田静恵さん、福吉奈津子さん

古澤 女性左官として注目を浴びてテレビ番組に出たいという思いはないですか?

福吉島田 ないね。

古澤 私も全然ないです(笑)。

福吉 将来的に独立は考えてる?

古澤 親が自営業なんですけど、大変そうだからそんな勇気はないですね。

福吉 私も同じ(笑)。

島田 個人事業主でいわゆる「一人親方」さんはたくさんいらっしゃいますけどね。会社から仕事を受けて現場で仕事をしてる。福吉さんは、社員左官だけどクライアントからご指名がくることもあるそうですね。

福吉 社長はそんなことを言ってるようだけど、私はどの現場でどのクライアントからご指名が来るのか全然知らないんだよね(笑)。指名とか欲しい?

島田 来たらうれしいけど、そんな重圧には堪えられないですよね(笑)。

古澤 私は「はい、喜んで!」って行っちゃうかも。でも、がっかりさせて帰ってくるのが恐いですね(笑)。

福吉 「二度と指名しないよ」みたいな結果になったりね(笑)。2人はこれからの目標とかはある?

古澤 私は要領が悪いので頑張って早く人並みに仕事ができるようになりたいです。あと左官の仕事は、一人でやってみないとわからないことが多いじゃないですか。見ていて超簡単そうと思っても一人でやってみたら、何もできなかったりするので、徐々に一人で仕事ができるようになりたいなと思います。

島田 新しい仕上げが多く、今はそれらの材料を使い始めたばかりの段階なので、マスターしていけたらなと思いますね。あとは古澤さんじゃないけど、要領よくやって仕事のスピードを上げたいです。福吉さんは?

「お」女だからこそしっかりやる。

福吉 これといった目標はないんだけど、しいて言えば1つあるかな。最近うちの会社の女性職人だけで現場に行くことが結構あるじゃない? そういうとき、男の中に1人女性が混ざっているならまだしも、2人3人の女性で行って失敗でもしたら、「だから女の職人はダメなんだ」って感じになるじゃない? だからそうならないようにいつも以上にすごく頑張ろうって思っている。

古澤 いろんな人に仕事を見られてるからってことですよね。

福吉 やっぱりまだまだ現場は男社会でその中に女性がいたら目立つからね。うまくやれたら「女の人だから器用だね」と評価が上がるし、ちょっとしたミスでもすぐクレームにもつながる。自分でも結構見られてるんだなと思うよ。


男性社会の中で働く。女性左官たちの本音[前編]

左官という仕事

【今回座談会に登場するのは、左官歴11年目、3人の中で一番のベテランで2児の母の福吉奈津子さん。現在5年目、独り立ちしたばかりの島田静恵さん。今年2年目の新人、一番若手の古澤ひかりさんです。年齢も経験もバラバラの3人が、仕事への思いをざっくばらんに語り合います】

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん、古澤ひかりさん

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん、古澤ひかりさん

福吉奈津子(以下、福吉) みんな昨日はどんな仕事をしてた? 私はジョリパットという材料を壁に塗ってた。

古澤ひかり(以下、古澤) 私と島田さんは、昨日一緒にブロック積みましたよね。

島田静恵(以下、島田) あー、そうね! 思い出した。その前の日は雨の中、ブロックを300個、2階までかつぎあげた。

福吉 がんばったね。

島田 がんばったよね。

古澤 うちの会社は左官屋さんにしては、業務内容が多い気がします。

福吉 そうだね。左官工事以外にも、防水工事、ブロック、タイル工事もあるからね。

島田 たまに本社でサンプルを作ることもあるけど、それは月に1回くらいかな?

福吉 そのときによってですよね。現場が終わってから「この人空いてる」という理由で、サンプル制作が入ることもあれば、現場に行かず何日も本社でサンプル制作が続くときもあるし。

施主や内装会社に確認や提案をするため、床や壁のサンプルをつくることもよくある

左官の1日

古澤 みなさん現場での勤務時間はどのくらいですか?

壁を塗る3人。本社内に練習スペースがある

壁を塗る3人。本社内に練習スペースがある

福吉 現場での定時は、基本8時から5時まで。朝6時半には集合だから早起きだけど、寝るのはだいたい12時くらいかな。

島田 私もそれくらいです。睡眠時間は4~5時間が平均。

古澤 私は何時に寝てるかわからないです。あんまり気にしてないですね。

福吉 眠ったときが寝た時間(笑)。休みは週2回休んでもいいけど、実際のところは基本週1回だね。

島田 基本はこのタイムスケジュールだけど早出もあれば、もっと遅くなることもあるよね。忙しいときは週1回の休みもなくなる。夜に作業することもあるし、塗ったセメントが乾かないから終わらないといった急な残業も多い。

福吉 だいたい夕方のメールが届くまで、翌日どこに行くのかもわからないしね。しかも場所とメンバーしかわからないから、現地で何をするかは朝にならないとわからない。

1日のスケジュール例

  • 6:00会社に集合。
    準備をして現場へ移動
  • 8:00朝礼。作業開始
  • 10:00休憩
  • 10:30作業
  • 12:00昼食、休憩
  • 13:00作業
  • 15:00休憩
  • 15:30作業
  • 16:30片付け開始
  • 17:00作業終了。
    現場から会社へ移動
  • 17:30会社到着後、片付けや着替えをして帰宅

古澤 でも水汲みと掃除は必ずしていますね。それ以外は現場によって全然違います。でも私の場合、1日の作業の内訳を思い返すと、塗ってる時間の方が少ないかも。

福吉 それは日によって違うでしょう。例えば土間の場合は、ならし終わったあとに押さえる工程があるよね。でも普通に塗って仕上げるだけの壁なら、ずーっと塗ってるし。

古澤 朝礼はない現場も多いですけど、たいてい「おはようございます」って挨拶をして、その日の現場を仕切るリーダー的な職員の「職長」さんが今日の作業内容を言って、人数を言って──。

古澤 他の会社みたいに職長という職位があって手当てがあるわけではなく、その現場の中で仕切れる人がやっていますよね。

福吉 同じ現場に通う回数もメンバーもまちまち。毎日、違う現場へ行くことも多い。大きい建物になれば、何日も通うこともあるけど......あまりないよね?

島田 現場は店舗が多いし、その場合工程がキツいから。それに自分たちの後、別の業者が別の仕事をしてるから「これが終わったら数日後にまた行く」という感じが多い。あと、休憩は欠かせないですよね! いつもおせんべいかお団子を食べてます。

福吉 確かにせんべい食べてる(笑)。よく持ってきてくれる人がいるんだよね。

たいへんな季節

福吉奈津子さん

福吉奈津子さん

島田 季節でいうと夏はやばいよね。空調がある現場もあるけど、着替えを何枚持っていっても足りないくらい汗をかく。窓や扉を全部空けてても、真夏だと40度いきますもんね。

古澤 外に粉塵を巻き散らかさないために、基本は密閉なんですよね。

島田 おしゃれなガラス張りにしてる建物だと、ビニールハウスの中にいるみたいに暑くなる。私は冬が好きだな。

古澤 福吉さんは寒いのが苦手ですよね。

福吉 そうだね。

島田 古澤さんはどんな季節でも気丈に振る舞っている。

古澤 冬は寒いものだし夏は暑いものだと思ってるから、あまり気温について考えたことがないんですよね。夏の現場よりも、暑い日にクーラーがガンガンかかった部屋にいるほうがつらいです。

島田 なるほど。私は暑すぎて眠くなってくるんだよね、本当に。

心がけていること

古澤 私は仕事中、余計なことを言ってしまいそうだから、なるべく喋らないように心がけてますね。でもわからないことがあるときは、勇気を出して聞くようにしています。

島田 聞いても怒られるし、聞かなくても怒られる。どっちにしても怒られるからね(笑)。

福吉 そこは察するの。島田は絶対怒られてるよね。

島田 すごく怒られたのは、2年目くらいの頃、普通に接着剤を塗ってたら、「その接着剤の塗り方はなんだ!」ってめっちゃ怒られました。それでも仕事は楽しいですよね。他の仕事をしていたら、きっと退屈で「やだなー」って終わっていたかも。

社内には土壁塗りの練習用の壁がある。材料をこねた後、手元の板にのせ、こてで塗る

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会社とのかかわり

古澤 月に1回くらい全社の会議があるけど、普通の会社とは違いますよね。

島田 クレームや事故の報告とかね。あと社長から今月の目標。冠婚葬祭のお知らせとか。

古澤 今の会社の会議はわかりやすい気がします。前の会社でも会議はあったけど、粗利が○○で目標に対して○%で......といった内容で、9割意味がわかってなかった。今は100%意味がわかる。

島田 確かに意味がわからないってことはないね(笑)。

仕事の楽しさ

古澤 みなさん、左官という仕事のどんなところがおもしろいですか?

イラスト-01 現場は面白い

島田 物を作っているときは楽しいです。カッターを持ってこれを切る、とか、それだけでも楽しいくらい。単純すぎる(笑)?

古澤 私も現場では楽しいことが多いですね。おもしろい人がいたり、休憩時間があったり。何よりパソコンにさわらなくていいのが一番大きいです。

島田 それで前の会社を辞めたくらいだもんね(笑)。そんなに嫌いなんだ。

古澤 嫌いですね。すごいストレスになります。

福吉 仕事は楽しいけど、終わった現場に意識して足を運ぶことはしないよね。他の現場に行くときに通ったりとか、近所で仕事したりといった偶然のタイミングがあれば、目にすることもあるけれども。

島田 でも先日、二子玉川の施工した現場に行きましたよ! 壁が仕上がったときは見たけれど、商品が陳列されている状態で見たら、ほとんど隠れていました......。

福吉 でき上がった後、現場を見に行った方がいいとは思うけど、他にやることがいっぱいあるから休日に行くのは難しいよね。週1日だし。

古澤 たぶん会社員の人が、休みの日に積極的に会社へ行こうと思わないのと一緒だと思います。

島田 休みの日でも、私は旅館の壁とかを目にすると気になっちゃうな。大変だったろうな、とか。

福吉 ああ、それはわかる。よく塗ったなあ、とかね。どうやって塗ったかもわかるしね。

左官の道を選んだ理由

島田 お二人はなぜ左官になったのですか? 前職は別の仕事だったんですよね?

イラスト-02

福吉 私がこの会社を選んだ理由は、女性がいる建築業界の会社を探していて、ホームページで検索したら一番最初に出てきたからだね。

島田 そうなんですか?

古澤 初めて聞いた(笑)。

福吉 左官になろうと思っていたわけじゃなくて、ただ女性がいるという理由だけで入っちゃった。

島田 その前は飲食関係だったんですよね。

福吉 飲食の前に造園で働いていたんだけど、そこが男性2人の中に女性一人だったから人間関係が難しくて。ほかに女の人がいる会社だったら、もっとうまくやれるのかな、と思って仕事探しをしたのよね。

島田 私は最初から左官をやろうと思っていました。

福吉 いつ頃から?

イラスト-03

島田 私の父親が内装業を営んでいるんです。それを見ているからか、小さいころから建築が好きで、子供心に楽しそうな仕事だなって思ってました。そのとき母親から「なるんだったら宮大工になれば?」って言われたんですよ。でも宮大工は特殊な技術が必要だからさすがに難しい。その後左官という仕事もあるんだと知って、そこから「左官がいいな」と思い始めました。

福吉 左官がいいなと思ったのって、いつ頃?

島田 中学生ですね。古い建物も好きだったので、そういうのに携われたらいいなあと漠然と思っていたんだけど、宮大工より左官のほうが身近じゃないですか。

福吉 確かにね。左官の会社は他にもあると思うけど、どうして原田左官を選んだの?

島田 就活のとき、他の左官会社にもアプローチをかけたんですけど、「女性は経験がないと雇えない」って言われたんです。それでホームページ検索したら、原田左官が出てきて。たぶん左官で検索すると1番上くらいに出てくるんですよね。

福吉 へえ、「建築」「女性」の検索でも上のほうだったけど、左官だけでも上のほうに出るんだね。古澤さんは?

建設会社から転職

古澤 私は専門学校卒業後、建設会社に就職して施工管理業務を2年間やっていました。いわゆる現場監督だったのですが、パソコンを使った仕事もけっこうたくさんあって。それが嫌で、もうパソコンは触りたくないなと、左官屋さんになることにしたんです。

イラスト-04

福吉 家から会社、近いんだっけ?

古澤 超地元です。自転車で通ってますね、近さも就職の決め手です(笑)。

福吉 それ、一番いいよね。

島田 でも近いところなら、ほかにも選択肢がありそうだけど。

古澤 専門学校は建築系だったんです。あと前の会社の仕事で、ちょっとだけ左官のおっちゃんに世話になったこともきっかけです。現場に放置されてた私に、「ひかりちゃん、こっち手伝ってよ」とか話しかけてくれたり、世間話してくれたりして。

島田 そういうの、助かるよね。

古澤 あと土間にコンクリートを打つとき、土間をならす様子を見てるのが好きだったんですね。羊羹みたいにまっ平らにツルってなるのを見てるのが好きだったんです。だから転職を考えたときに「左官屋さん、やってみようかな」かなと思いました。福吉さんは?

福吉 私の場合、この会社に就職したのが18、19歳だったから、仕事についてそんなに真剣に考えていなかったな。自分の夢も特になかったし、高校しか卒業してないし。手っ取り早く、お金稼げればいいかなぁという理由で選んだ。「左官」になろうと思っていた二人は、入ってみてどうだった? こんなはずじゃなかった、みたいなことはあった?

島田 うーん、どうですかね。例えば「こんなことするために入ったんじゃない」ってことですよね。思うときも確かにあるけど、それって何の仕事をしていても同じじゃないですか。入ってすぐに、自分が思ってるやりたいことをできると思って入ってないし。私はまだ5年目だし様子見なところもありますね。

福吉 探ってるんだね。

島田 探ってます。実際に、やりたいことができなくて辞めた人もいるしね。

古澤 確かに「イメージと違う」って辞めていく人もいるって社長が言ってました。

女性先輩の印象

福吉 女性の先輩に対して、怖いと思ったりした?

島田 怖かったです。女の人は優しいかなって思っていたら、怖かったです(笑)。

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん

古澤 そうですか? 私はみなさんすごく優しいと思いますよ。怖い人はいないかもしれない。

島田 まじかよ! 恐いよ、普通に恐かった。

古澤 どう接したらいいかわからない人はいても、怖い人はいなかったです。

島田 さすがゆとり世代(笑)! 動じないところが特に。

古澤 ゆとりですが何か?(笑) 福吉さんは恐い先輩いました?

福吉 私が入社した時、先輩は2人しかいなかったんだけど、そんなに恐くなかったかな。

島田 でも男女関係なく愉快な人が多いよね。社外ではたまに「女だから」という目でみられることもあるけど、社内ではそういうこともないし。

福吉 ずっと昔から誰かしら社内に女性の左官がいるから、みんな女性がいることに対して「普通」だよね。

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見習い期間は4年

左から福吉奈津子さん、古澤ひかりさん。テーブルの上にあるのは塗りのサンプル

左から福吉奈津子さん、古澤ひかりさん。テーブルの上にあるのは塗りのサンプル

福吉 今の制度だと、見習いを育てるために、一人ずつ親方がついてるんだよね。今の1年生は少なくとも半年間は親方となる人と一緒にいて、仕事を教えてもらう。

島田 私は1年半くらいだったかな?

古澤 私は半年で、現場には一緒に行かなくなりました。何もわからないうちにいろいろな人から仕事の話を聞くと混乱するからという理由で、会社が新人を同じ人につかせて基礎を学ばせているんですよね。

島田 今親方につくような人は若い人が多いから、昔気質の「見て盗め」という人はいないよね。古澤さんの親方はどうだった。

古澤 私は女性の先輩についたんですよね。すごく丁寧に教えてもらいました。物腰のすごい柔らかい人で怒鳴ったりされたことは一回もないです。「今のはいけません」と優しく注意をされていました。

島田 私も自分の親方から怒られたことあるけど、恐くなかったな。お父ちゃんキャラだったんですよね。

福吉 こっちがミスすると「まーたやったぁー」ってよく言うよね(笑)。

島田 それそれ!

古澤 普通の会社と一緒で、どの人の部下になるかで全然違いますよね。

島田 福吉さんは親方にならないんですか?

福吉 私には小さい子どもが2人もいて、いろんな制約があるから親方はやらないことになってるんだよね。他人の面倒みてる場合じゃないという(笑)。島田さんはちょうど独り立ちしたばかりだよね。おめでとう。

島田 ありがとうございます。4年の修業期間を終えて、5年目に入りました。

独り立ち記念

古澤 独り立ちしたら会社から記念のフォトブックがもらえるんですよね。いいなあ。

島田 写真を見ると、まあ、自分も成長したなあって感じますよね。古澤さんもあと数年したらもらえるよ。

古澤さんが手にしているのが、先輩たちが独り立ちしたときにつくられた記念フォトブック

古澤さんが手にしているのが、先輩たちが独り立ちしたときにつくられた記念フォトブック

古澤 はい。修業期間の働いている写真は先輩が撮ってくれるんですが、それ以外のおもしろい写真も載ってるんですね。

島田 変なことばっかりしてるとそれしか載らないよ? 絶対。だってY先輩のフォトブックには、左官なのに壁を塗ってる写真が1枚もないんだよ。食レポになってる(笑)。

古澤 本当だ。島田さんのはいろんな現場の写真があるのに、Yさんのは背景が全部同じ(笑)。

島田 私の場合、写真を撮ってくれていたのが一緒に現場へ行った人だったからね。見習い期間が終わるとお祝いの会をやったり、建材屋さんなどからいろんな道具をもらえたりしてうれしかったですね。ようやく1人前になれたかって感じでした。まだまだですけどね。あと、4年目まで給料が上がらなかったのが、5年目からは上がったのがうれしいですよね。

島田静恵さん

島田静恵さん

古澤 見習いの間は「給料をもらいながら仕事させてもらえている」という考え方ですよね。同年代と比べてしまうと......比べてはいけないと思いました。

島田 1年目はそんなに一般的な水準と変わらないと思うんですよね。でも一般的な会社は2年目以降、徐々に上がっていくじゃないですか。私たちにはそういうのがない。

古澤 でもお金を出してまで左官の技術を学ぼう、という人はいない気がします。

島田 いるよ! 社内にも3万円くらい払って、静岡まで土壁の先生に習いに行く人が。

福吉 でも今は現場で覚えるよね。手取り足取りまではいかなくても、現場では教えてもらえるタイミングがあるからね。そのとき、絶対教えてくれるから。

島田 確かにそうですね。

福吉 私が見習いの頃は一人で行くことはほとんどなかったけど、今は見習いさんでも一人で現場に行かせるようにしているよね。私の時は、見習い明け近くになってようやく一人で行くようになったという感じだった。

島田 古澤さんは、一人で現場に行くこともあるんだよね。

古澤 一人のことも多いですね。車(バン)の運転ができるようになってからは、だんだん運転する距離が伸びています。うちの会社は運転は必須ではないんですよ。私も入社したときには社長から運転しなくてもいいって言われていたんです。運転免許は持っているけど自信がないから、人の命を乗せて走ることはできないって伝えていました。でも大丈夫って言われて運転したんですよね。初めて一人で現場に行ったときは、無事到着できるかな、車線変更できるかなって不安でしたね。今はだいぶ慣れました。この車の運転ができるようになったことがこの会社に入社してよかったと思う点の1つですね。

福吉 ひとりで行く時に気を付けていることは?

古澤 忘れ物をしないように、と、駅近じゃなきゃいいなあ、ということでしょうか。

福吉 たしかに駅近の現場は車を停める場所探しが大変だからね。

島田 重たいものがないといいなあ、ってことくらいです。駅近もわかります。

古澤 車のことを気にしているの、自分だけかと思ったけど、みんなも気にしてるんですね。よかった。


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