企業ビジョンを浸透させ、イノベーションが渦巻く場のつくり方
――価値創造の源泉は「ブレないコンセプト」と「細やかな工夫」
企業ビジョンを浸透させ、イノベーションが渦巻く場のつくり方
――価値創造の源泉は「ブレないコンセプト」と「細やかな工夫」
わたしたちは、オープンイノベーションを最大限に発揮することが製品の研究開発を強化する上で重要な要素だと捉えています。 そこで、宮城県大崎市にある仙台開発センター(古川)内の既存棟3棟を取り壊し、「緑豊かな古川の地で、世界中の知と技術を融合し触発するイノベーションコア」をコンセプトとするR&D棟を新設します。 新たな働き方を実現する最先端オフィスには、これまで各地に分散していたIC設計、車載センサー並びにコンポーネントなどの開発機能を集約します。
4フロアにわたる広大な建物の中で働く社員たちには、コミュニケーション活性化によって化学反応を起こすことを期待しています。 執務エリアと試作・実験エリアを近接させつつ、そこにインフォーマルなコミュニケーションが生まれる工夫を凝らすことで、ここへ来ることに価値を感じられる環境の実現を目指します。 そして企業理念である「人と地球に喜ばれる新たな価値を創造」する場にしたいです。
新オフィスにお客様が求めるものは、部門を超えた交流や組織間シナジー、新しい価値の創出やイノベーション――それらの実現に向けて、わたしたちが着想した空間コンセプトが「KYO-SO(共想・共奏・共創)」です。 しかし、単に「KYO-SO」という言葉を標榜するだけでは、文化として浸透させることが難しいのは明白です。 そこで、実際にその場を使う社員にもスムーズに馴染むように、お客様の大切にする企業ビジョンである3つの価値「Right・Unique・Green」から「KYO-SO」を促すベースを設計しました。
「Right」は、フロアゾーニングの工夫やABWレイアウトで、多様な環境の中から目的に合った“最適な場” を直感的に選択できること。 「Unique」は、建築空間や働き方に合わせた“独自性の高いユニークな機能” を選択できること。 それを中央階段まわりに設けた「ワイガヤ」エリアで表現します。 「Green」は、人や自然環境に配慮した“優しさを感じる環境” で快適に過ごせること。 具体的には多彩な配色、インテリアグリーン、環境配慮製品の活用といった方法で落とし込みました。 この3つの考え方を主軸とし、そこで働く人々が自然と「KYO-SO」できる空間を目指しています。
仙台開発センター(古川)のある古川駅は新幹線も停車する交通の要衝でありながら、周りは山々に囲まれのどかな雰囲気を残します。 そんな自然環境に恵まれた地にそびえ立つR&D棟――企業ロゴのブルーが映える白を基調とした巨大な建物です。
日本を中心にアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、ASEANと世界のものづくりを支える事業を展開する同社には、世界各国からさまざまなお客様が訪れます。 そんなお客様をまずお迎えするのが、アルプスアルパインが製造している電子部品のスイッチで構成された世界地図。 まるで美術館に展示された壮大なアート作品のように、ゆとりあるエントランスホールを彩り、訪れたお客様の目を惹きつけます。
さらに注目したいのは、海外ゲストから高い人気を誇る和室の8人用ゲストルーム。 1階にはゲストルームが複数あり部屋ごとに異なる設えになっていますが、この部屋は彫刻欄間や障子、床の間など和室の美しさが見事に作りこまれています。
この建物は中央の吹抜けエリアを中心に、階層が幾重にも重なる複雑なフロア構造をしています。 広場のような吹抜けエリアには天窓からの光が差し込み、誰もが気軽に立ち寄れるコミュニケーションの中心地となっています。 さらに建物全体で回るようにフロアを移動する回遊動線が出会いを生み出し、社員の個性や才能を発揮させることに一役買っています。
1階から4階までの各フロアをつなぐ階段の途中には、それぞれオープンエリアが設けられています。 それらの空間をミーティングやちょっとした雑談の場所として活用することで、階を超えたコミュニケーションをより活性化させます。
3階・4階には、なにやら台形のボックスのような特徴的な造形物が。 ここは「3A1」や「3A2」と呼ばれる会議室。 近未来なデザインが訪れた人々を魅了し、新たな発想を生み出す場になっています。
中央階段まわりには、「ワイガヤ」と称されたコミュニケーションエリアがあります。 各階ごとに異なるテーマが設定されており、2階は「出会う・つながる」がテーマ。 カジュアルで落ち着いた雰囲気で、さまざまなコミュニケーションができる空間となっています。 さらに2階は他拠点から来た人がクイックに利用できるタッチダウンエリアとしての機能も。 外部からの刺激を受けることで更なるイノベーションが起こりそうです。
3階は、「育てる・極める」がテーマのワイガヤエリア。 集中してチームコミュニケーションをとれる、ゆったりとしたソファ席ややぐらを配置。 より集中してアイデアを醸成したり、チームでの意見交換がしやすいフロアです。 4階は、天窓と大きなテラスが広がる「切り換える・ひらめく」ワイガヤエリア。 外と中のつながりが意識された光降り注ぐ開放的な空間です。
2階と4階の大部分を占める執務エリアは、中央吹き抜けから窓側に向かって層のように機能が変化するレイアウト。 吹抜けに近いエリアはクイックに働ける席、窓側に近づいていくとチームで働くための席と、多様な環境の中から直感的に最適な場が選べます。 執務エリア内の固定席や、ABWを活用したフリーアドレス席、ワイガヤエリア等もあわせると社員全員が出社しても座れるように席が配置されています。
さらに個人やグループでも利用できるリフレッシュスペースも用意されています。 3階のリフレッシュスペースは〇と△で構成された空間。 丸いスツールには、バランスボールのように凝り固まった体を自然とほぐしてくれる効果があります。 デスクワークで長時間同じ姿勢が続くときもここに行けば心身ともにリフレッシュし、自由で柔軟な発想が生まれるでしょう。 4階は〇と□で構成されたポップでカラフルな空間。 フロアごとに色調を変えることで、それぞれの空間を使ってみたくなる仕掛けです。
3階は、主に実験や試作評価を行うエンジニアが働きやすいフロア。 窓側に専門的な作業を行う個室を多く設けていますが、フロアの大部分は壁のないオープンな空間で、エンジニアもチームや関連部署と連携しながら研究開発を行います。 デスクを規則的に配置することで、部署や個人を限定することなく自由に空間を活用できます。 実験台は特注対応で上棚を取り外せるようになっていますが、これは同じ実験台を別の部署が異なる目的で使うシーンを考慮してのこと。 可変性に富んだ実験空間は、エンジニアにいつも最適な環境を提供し作業効率を高めてくれます。
また、拠点集約前は部署ごとに部屋が分かれ閉鎖的でしたが、集約後はワイガヤエリアで積極的に他部署とのコミュニケーションをとることもできるように。 やぐらを使った空間では、試作品や製品を持ち寄りチームメンバーとスピーディーな検討会も行われています。
1階には500名以上が同時に利用できる豊富なメニューが自慢の社員食堂があります。 ここは仲間と食事をとりながらお喋りするシーンがとてもよく似合う、カジュアルで賑やかな空間。 食堂から中階段を上って2階のカフェに訪れると、淹れたてのコーヒーを楽しむこともできます。 食堂全体を上階の執務フロアからも眺められるので、混雑状況がすぐに把握できます。
4階のテラスでは、自然の風を感じながらほっと一息。 業務で疲れた頭を休めてリフレッシュできます。 北西側リフレッシュエリアもテラスに面しており、大自然を見ながらチームで会議するなど、普段とは異なる刺激に脳内も活性化されそうです。
建物のあらゆる空間が回遊動線でつながり、人と人との「KYO-SO(共想・共奏・共創)」が生まれるスポットがそこかしこに点在しています。 社員が多様な空間の中から自分が心地よく働ける場所をみつけ、社内外を問わずアイデアを組み合わせることで、新たな社会的価値を創造していくことでしょう。
今回は4フロアにわたる広大な建物の中でイノベーションを発揮するため、建物全体でゾーニングや動線設計に工夫を施した物件でした。 建物スケールに圧倒されるかもしれませんが、大切なのは企業の文化やビジョンに合った空間コンセプトをしっかりと設計し、それらを内装インテリアに工夫しながら落とし込んでいくことです。 そうすることで、そこで働くワーカーは自然とその空間に馴染みやすくなり、よりその空間に愛着を持つことができます。 これは物件規模に関わらず期待できる効果なので、是非参考にしてみてください。
Project’s Data
- 業種
- 電機メーカー
- 企業名
- アルプスアルパイン株式会社
- プロジェクト名
- アルプスアルパインR&D新棟
- WEBサイト
- https://www.alpsalpine.com/j/
- 建築設計・施工
- 株式会社竹中工務店