オフィスづくりのコラム
COLUMN
オフィスの「食」はこう変わった!
Z世代の従業員が求める食事のかたち
昔は「とりあえずお腹を満たす」ことが目的だったオフィスの「食」。しかし今では、従業員の健康を支え、チームのつながりを生み、さらにはその会社らしさまで表現する、多機能な要素として進化しています。
本記事では、世代間でのオフィスの食に関する価値観の違いや最新トレンド、実際の企業事例などを紹介します。
目次
- こんなに違う?! 新入社員とベテラン従業員の食に対する価値観
- 会社としてオフィスワーカーの食をどう支える? オフィスでとる食のかたち
- オフィスでの食事の場が進化する! 最新事例をご紹介
- オフィスの食事の場が組織力を高める
1. こんなに違う?! 新入社員とベテラン従業員の食に対する価値観
オフィスの「食」は、世代によってまったく異なる価値観で捉えられています。特にZ世代の新入社員と、かつて新人だったベテラン従業員とでは、食べる目的も時間も場所も大きく変化しました。ここでは、新旧世代のオフィスワーカーがどのように「食」と向き合っているのか、具体的な違いを5つの視点から紹介します。
<新入社員とベテラン従業員の「食」への価値観の違い>
- 食べる"目的"がそもそも違う
- 食べる時間と場所が自由になった
- メニューに求めるものが違う
- 「食」を通じたコミュニケーション
- 「食」に対する企業への期待値
●食べる"目的"がそもそも違う
食事に対する根本的な考え方は、世代によって大きく変わりました。ベテラン従業員の若かりし頃は、食事とは「仕事の合間の燃料補給」であり、早く食べて業務に戻ることが当たり前でした。その一方で、Z世代の従業員は、「食」そのものにリフレッシュや気分転換の意味を見出し、誰とどこで食べるかも含めて食事の時間を大切にしています。
例えば、ランチタイムは業務から一時的に離れ、好きな人とゆっくり会話を楽しむ時間。さらに、1日3食をきっちり取るのではなく、自分の空腹感や気分に応じてこまめに食べるスタイルも一般的になりつつあります。このような価値観の違いは、オフィスの食の空間づくりにおいても重要な視点です。
●食べる時間と場所が自由になった
かつては「12時ぴったりに社員食堂へ直行」が定番だったオフィスランチですが、Z世代にとってはその常識はもはや過去のもの。今ではフレックスタイム制やリモートワークが浸透し、働く時間もスタイルも多様化しています。それに伴い、食事をとる時間も場所も、より自由に柔軟に変化しているのです。
Z世代は「自分のタイミングでサクッと一人で食べたい」と考える人もおり、ラウンジやソファ席、テラス、デスクなど、自分にとって心地よい場所を選んで食事をします。この自由度の高さが、食事の時間をストレスなく快適にし、仕事のパフォーマンスや満足度向上にもつながるのです。
●メニューに求めるものが違う
食事の内容に対する期待も、世代によって大きく変化しました。ベテラン世代は「大盛り」「コスパ重視」といった実用性重視の傾向が強いのに対し、Z世代は「健康」「多様性」「選択肢」を重視します。特に社員食堂では、アレルギーへの配慮やハラルフード、低糖質、高タンパクなど、幅広いニーズを満たすメニューに対応する企業もみられます。
また、味や見た目だけでなく、従業員の健康などを気にかける姿勢も大切です。この姿勢が企業に対する信頼感や満足感を高めることにつながります。単においしいだけではない、個人に寄り添ったメニュー設計が、企業のブランディングにも直結しています。
●「食」を通じたコミュニケーション
食事は単なる栄養補給ではなく、人と人とをつなぐ重要なコミュニケーションの機会です。ベテラン世代の食事の交流といえば「飲みニケーション」という言葉もありましたが、Z世代は「夜の予定はプライベートに使いたい」「強制的な集まりは避けたい」といった価値観を持つ傾向が強くなっています。そのため、現在では朝ごはんを持ち寄る「朝活」やスイーツを囲んで雑談する「おやつ会」など、気軽でカジュアルな交流の場を企業で実施する例も増えてきました。
オカムラでもバウンダリースパニングの一環として、部署を超えてスイーツを楽しむ会を実施しており、自然なコミュニケーションの場として機能しています。バウンダリースパニングとは、外部環境との橋渡しをする機能で、製品イノベーションや新製品開発において、組織内の各部門が外部環境の関連領域と連携を持つことを指します。
今や「食」を通じたコミュニケーションは、業務外での接点を生み、組織全体のつながりを強くする重要なツールなのです。
●「食」に対する企業への期待値
オフィスの「食」に対する企業の姿勢も、世代によって受け取られ方が大きく異なります。ベテラン従業員にとっては、社員食堂やランチ補助などは、あれば嬉しい福利厚生の一環でした。しかし、Z世代にとっては会社が従業員をどれだけ大切にしているかを測るバロメーターと捉えられることも少なくありません。
例えば、社員食堂があることで感じるのは、単なる利便性だけでなく、「自分たちの健康や快適さを考えてくれている」という信頼感につながります。逆に「何もない」「選択肢が限られている」といった食環境は、学食が充実していた学生時代と比較され、企業への残念ポイントにもなりかねません。今の若手従業員にとって食環境の整備は、エンゲージメント向上や就職先選びにも直結する重要な要素なのです。
2. 会社としてオフィスワーカーの「食」をどう支える? オフィスでとる食事のかたち
もはや従業員全員が同じ時間・同じ場所で一緒に食事をする時代ではありません。社員食堂だけでなく、置き社食やおやつサービス、自販機の充実など、さまざまなスタイルが導入され、従業員一人ひとりのニーズに応える柔軟な食環境が求められています。
ここでは、「提供方法」「食の内容」「空間・体験」という3つの視点から、今のオフィスに導入されている食のトレンドと、その背景にある考え方を見ていきましょう。
<オフィスワーカーを支える食事環境>
- 提供方法:多様な勤務スタイルに対応
- 健康志向・多様性に配慮した「食の内容」
- 食を通じた空間づくりと体験
●提供方法:多様な勤務スタイルに対応
働き方が多様化する今、オフィスにおける「食」の提供方法には柔軟さが求められています。従業員全員が決まった時間に同じ場所で食事をとる時代は終わり、それぞれの勤務スタイルやライフスタイルに合った食を選択できる環境づくりを重要視しなければなりません。
例えば以下のように、食の提供方法も多様化しています。
■企業での食の提供方法
種類 |
特徴 |
ニーズ |
効果 |
食堂 |
・定食スタイルやカフェ風など形式が多様化 ・懇親会や社内イベントに利用(アルコール提供を含む) |
・しっかり食べたい、温かい食事をとりたい層に対応 ・社内交流やイベントで一体感を高めたい層に対応 |
・健康促進(栄養管理) ・部署を超えた交流促進 ・リフレッシュ効果 ・社内コミュニケーションの強化 |
置き社食 |
・安価・時短でバランスの取れた食事を提供 |
手軽さ、コスパ、健康的な食事を重視する層に対応 |
・業務効率化(移動時間削減) |
おやつ |
・飴、ナッツ、グラノーラバー、ドーナツなどのちょっとしたおやつを提供 |
軽くつまみたい、気軽にリフレッシュしたい層に対応 |
・コミュニケーションの活性化 |
自販機・ウォーターサーバー |
水、コーヒー、スポーツドリンク、ゼリー飲料などを常備 |
最低限のインフラ整備による安心感 |
・熱中症対策 ・午後の眠気対策や集中力維持 |
このように、多様なニーズに合わせた食の提供スタイルを用意することで、従業員一人ひとりが自分に合った方法で「食」を取り入れられ、結果として出社意欲や満足度、企業へのエンゲージメントの向上につながります。また、無料/有料の仕組みや補助制度も工夫次第で、さらに利用率や評価を高める要素となるでしょう。
●健康志向・多様性に配慮した「食の内容」
従業員が健康で安心して働ける職場づくりには、日々の食事環境が大きな影響を与えます。ここでは、「健康志向メニュー」と「アレルギー・宗教配慮」の2つの観点から、今社員食堂に求められる食の内容を解説します。
健康志向メニュー
企業が健康経営を推進する中で、従業員の健康維持を支える食事内容はとても重要です。現在ではメタボ予防や生活習慣病対策、高たんぱく・減塩・糖質制限など、健康に配慮したメニュー設計が進んでおり、オフィス食の標準となりつつあります。
さらに、健康診断の結果と連動したメニュー提案を行う企業もあり、従業員一人ひとりの状態に応じた最適な食事支援は、さまざまな企業で取り入れられるようになりました。このような取り組みは、従業員の健康維持だけでなく、集中力・パフォーマンス向上、長期的な医療費削減といった効果も期待されています。
アレルギー・宗教配慮
従業員のバックグラウンドが多様化する中で、誰もが安心して食事できる環境を整えることは、企業にとって不可欠な課題です。アレルゲンの除去対応やハラル認証の取得といった取り組みは、従業員の健康を守るだけでなく、組織の信頼性や包摂性を示すものでもあります。
例えば、入社時に収集したアレルギー情報をセキュリティカードと連携し、社員食堂の予約時に個別対応メニューを提供している企業もあります。このような仕組みがあれば、食事に制約がある従業員も不安なく利用でき、安心感のある職場環境づくりにつながるでしょう。
企業がこうした配慮を徹底する姿勢は、「一人ひとりを尊重している」というメッセージとなり、従業員のエンゲージメント向上にも大きく貢献します。
●食を通じた空間づくりと体験
さらなる交流を後押しするために、企業が空間の工夫やちょっとした体験の仕掛けを用意することも大切な取り組みです。「食」をきっかけに、気軽に集まりたくなる空間や、関わりたくなる仕組みを整えることで、より活発で前向きなコミュニケーションが育まれていきます。
食×コミュニケーション空間
ラウンジやカフェなど、雑談が自然に生まれる共用スペースの存在は、従業員同士の距離を縮める重要な要素です。昼は食事スペースとして、夜はバーとして使える二毛作型の設計も増えており、時間帯や用途に応じて柔軟に活用できる空間が求められています。
さらに、企業がこうした空間に「会話が生まれやすい丸テーブル」「観葉植物や間接照明による居心地の良さ」などを取り入れ、従業員の交流を促すことも重要です。これにより職場内での偶発的な会話やコラボレーションが生まれやすくなり、組織の一体感を高めることも期待できるでしょう。
食×体験の取り組み
食そのものを体験として楽しめる仕掛けも、従業員のエンゲージメントを高めるうえで効果的です。例えばオカムラでは、従業員交流を目的とした「いちごを育ててみんなで食べる」プロジェクトを実施し、部署を越えたつながりや、普段関わることの少ない従業員同士の会話が生まれています。
また、季節の食材をテーマにしたイベントや、従業員参加型の料理企画なども有効です。食材を選ぶ、調理に関わる、味わうといったプロセスを共有することで、形式にとらわれないインフォーマルなコミュニケーションが育まれ、新たな連携やアイデアの種が生まれます。
3. オフィスでの食事の場が進化する! 最新事例をご紹介
オフィスにおける「食」のあり方は、空間や体験を含めたトータルな価値として進化しています。ただ空腹を満たすだけでなく、働く人々の健康、コミュニケーション、そして企業文化を支える役割を果たす場として再定義されているのです。ここでは、そんな進化を遂げたオフィスの最新事例を4つ紹介します。
<オフィスでの食事の場 最新事例>
- ワークスペース・イベントなど多目的に活用される従業員食堂
- 「会社に来たくなる」オシャレで本格的なカフェスタンド
- 食堂とカフェを改装して従業員同士のコミュニケーション活性化の場に
- 「オフィスコンビニ」の導入で人が自然と集まる空間に
●ワークスペース・イベントなど多目的に活用される従業員食堂

日東電工株式会社 様では、近隣に飲食店が少ないという立地上の課題を背景に、社員食堂を積極的に活用しています。その設計は、単なる食事スペースにとどまらず、多様な働き方とコミュニケーションを支える多目的空間として機能しています。
食堂内には、ロングテーブル、ファミレス風のボックス席、カウンター席など、さまざまなスタイルの座席を配置。ランチタイムには多くの従業員が食事を楽しむ一方、オフピークの時間にはミーティングや個人作業、雑談の場としても活用され、自由で柔軟な使われ方を実現しています。
食堂奥にはソファやハイカウンターを備えたリフレッシュエリアも併設。軽食を片手に部門を超えた自然な交流が生まれる場所となっています。自動販売機やコーヒーマシンも充実しており、「ちょっとひと息」の時間が、社内の風通しをよくする役割も果たしている好事例です。
「これからのNittoを支えていく」若手中心のプロジェクトとともに|日東電工株式会社
●「会社に来たくなる」オシャレで本格的なカフェスタンド

エイベックス株式会社 様では、出社したくなるオフィス空間づくりの一環として、本格的なカフェスタンドを導入しました。ブルックリンの街角を思わせるような洗練されたデザインが印象的で、訪れる従業員に特別感を与えています。
カフェスタンドには、専門スタッフがサーブする香り高いコーヒーや、目の前で搾るフレッシュなオレンジジュース、新鮮なサラダなどがショーケースに並び、まるでカフェに訪れたかのよう。ランチタイムには、自社で運営する飲食店から届くお弁当を楽しみに、多くの従業員が自然と集まる空間となっています。
こうした空間は、単なる食事の提供にとどまりません。オンラインでは味わえない体験を提供することで出社の価値を高め、オフィスの魅力そのものを引き上げる役割を果たしています。
●食堂とカフェを改装して従業員同士のコミュニケーション活性化の場に

株式会社ヨコオ 様では、従業員で構成されるプロジェクトチームが空間デザインから運用までを担っています。あらゆる場所からきた車両がスピードを落とすことなく目的地へと向かう高速道路をイメージした設計で、食堂が新しいコミュニケーションの場所として生まれ変わりました。提供カウンター前の高速道路のような直線通路が印象的です。
その横にはクイックイートコーナーを設置し、ハイカウンターでサクッと食事を済ませて業務に戻れます。可動式の机を採用することで、イベント時や混雑時にはレイアウトを変更することも容易にできるデザインです。
奥の喫食スペースは、床のデザインで空間をゆるやかに仕切ることで開放的かつ明るい雰囲気の空間に仕上げています。窓際のファミレス席には、グリーンやカーテンで仕切りをつけることで半個室のようなプライベート感を実現しました。メニューも豊富に揃えることで、平均6割程度だった利用率が現在では9割以上に増加した成功事例です。
90%以上の従業員に毎日利用される社員食堂のヒミツ|株式会社ヨコオ
●「オフィスコンビニ」の導入で人が自然と集まる空間に

日本電子計算株式会社 様では、リフレッシュスペースに社員専用の「オフィスコンビニ」を導入しました。コーヒーやスナックなどの軽食を気軽に購入できるこの仕組みが、従業員の交流を促進する新たな場となっています。
カフェカウンター風のデザインが施された空間には、鳥のさえずりなど自然音が流れ、リラックスした雰囲気。従業員たちは業務の合間にここでひと息つき、コーヒーを片手に立ち話をしたり、軽く雑談を交わしたりするなど、カジュアルなコミュニケーションが自然と生まれています。
大がかりな設備ではなくても、ちょっとした仕掛けや演出次第で、オフィスの中に心地よい交流空間をつくることが可能であることを示す事例です。
「あったらいいな」を叶えて
4. オフィスの食事の場が組織力を高める
オフィスでの「食」は、もはや単なる福利厚生ではなく、従業員の健康を支え、パフォーマンスを引き出し、そして組織のコミュニケーションを活性化するための重要な要素です。社員食堂や置き社食、おやつの提供といった施策は、空腹を満たすだけでなく、部署や世代を越えたつながりを生み出し、職場に一体感と活気をもたらします。
また、健康志向や多様性への配慮、空間や体験づくりといった観点から、「食」の価値を見直すことは、働く人々に安心と信頼を提供することにもつながります。働き方が多様化し、リモートやフレックス勤務が一般化するなかで、オフィスの「食」は常にアップデートされるべき領域です。
従業員一人ひとりのニーズに寄り添いながら、「食」を通じて心地よくつながれる環境を整えることが、企業のエンゲージメントやウェルビーイング、ひいては採用力の強化にも直結していくのです。
オフィスの食を見直すことで、組織はもっと強く、もっと魅力的になれるでしょう。従業員が「集まりたくなる」「話したくなる」「働きたくなる」空間を考えてみませんか?
イラスト:Masaki