オフィスづくりのコラム
COLUMN
オフィスカジュアル、どこまでOK?
エンゲージメントを高めるファッションの力
オフィスを快適な空間に刷新したのに、なぜか社員の雰囲気が変わらない......。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。服装は、企業カルチャーや柔軟性を直感的に伝える手段です。若手人材の採用や定着につながるだけでなく、社員のエンゲージメント向上にも貢献します。
この記事では、オフィスファッションの「歴史」と「今」、業種別の傾向、導入する際のポイント、カジュアル化がもたらす効果について解説します。
<目次>
1. オフィスファッションのカジュアル化の歴史
かつてはスーツやジャケットが当たり前だったオフィスファッションも、時代とともに大きく変化してきました。特に2000年代以降は、社会や働き方の変化を背景に、服装の自由度が徐々に広がっています。
IT企業の台頭により、柔軟な働き方や自由な服装が注目されはじめ、企業のカルチャーとして「快適さ」や「自分らしさ」が重視されるようになりました。さらに、2005年からのクールビズでは、環境対策の一環として夏場のノーネクタイ・ノージャケットが推奨されました。
2011年の震災では、電力不足への対応としてより涼しく実用的な服装が求められ、さらに2019年の働き方改革では、服装の選択も「働きやすさ」の一部として見直され始めます。そしてコロナ禍を経た2023年以降、多様性や個性を尊重する価値観が広がり、テレワークやハイブリッド勤務の浸透とともに、服装のカジュアル化は一層進みました。
こうした流れの中で、オフィスファッションは、単なる服装ルールを超えて、企業の柔軟性や文化を表現する重要な要素となってきています。
2. 業種・職種によって服装は異なる
オフィスカジュアルが広まりつつあるとはいえ、服装の基準は業種や職種によって大きく異なります。
ファッションブランドPLST(プラステ)を展開する株式会社プラステの「働く女性の服装に関する調査」によれば、10年前にはスーツや制服などの定型スタイルが主流だったのに対し、現在では「カジュアル」や「オフィスカジュアル」が過半数を占めるようになっており、業種別でも明確な変化が見られます。
ここでは、代表的な業種ごとのスタイルと、職種による服装の違いを解説します。
<代表的なスタイルと業種の例>
- フォーマル(例:金融・銀行・保険業界)
- オフィスカジュアル(例:IT・メーカー・不動産業界)
- カジュアル(例:広告・ベンチャー・クリエイティブ業界)
フォーマル(例:金融・銀行・保険業界)

信頼性が求められる金融・保険などの業界では、現在もスーツやジャケットなどのフォーマルスタイルが多く見られます。特に営業や顧客対応など、社外との接点が多い職種ではきちんとした印象が重視されます。ただし、前述の調査では、金融業界でもオフィスカジュアルが増加傾向にあり、徐々にスーツ一辺倒ではなくなりつつあります。
オフィスカジュアル(例:IT・メーカー・不動産業界)

社内業務が中心で、自律的な働き方が求められる業界では、オフィスカジュアルが広く採用されています。ジャケットにチノパン、襟付きシャツなど、きちんと感を保ちつつ動きやすいスタイルが好まれます。前述の調査でも、不動産・IT業界ともに、10年前の「スーツ中心」から「オフィスカジュアル中心」へと大きくシフトしており、服装の自由度が着実に広がっていることがうかがえます。
カジュアル(例:広告・ベンチャー・クリエイティブ業界)

個性や発想力が重視される職場では、服装も自由度が高く、ジーンズやスニーカーなどのカジュアルスタイルも許容されやすい傾向があります。前述の調査では、「オフィスでジーンズをはくことが"あり"」と答えた人が8割近くにのぼり、10年前と比較して着用率が増加しています。最近では、きれいめなジーンズや機能性を備えたデニムなど、オフィスに適したカジュアルアイテムの選択肢も広がっています。
横断的な職種ごとの服装の傾向
服装の傾向は業種だけでなく、職種によっても異なり、以下のような傾向が見られます。
<職種ごとの服装の傾向>
- 社外との接点が多い職種:顧客対応や営業職などは、第一印象や信頼性が重視されるためフォーマル寄りの服装が多くなる傾向
- 社内業務が中心の職種:バックオフィスや開発職など、社内での作業が中心となる場合は、動きやすさや快適さを重視したカジュアル寄りの服装が好まれる
- クリエイティブな職種:デザインや企画、マーケティング職など、発信力や個性が求められる職種では、自由なスタイルで自己表現することがプラスに働く場合もある
このように、業種+職種の特性に合わせた服装の選択が、業務効率や働きやすさにつながります。
3. 服装とオフィス空間をリンクさせることの重要性
服装は、働き方や空間にあわせて適切なかたちを選択することが重要です。たとえば改装をして空間を新しくしても、社員の見た目や行動が以前のままでは、職場の雰囲気や意識は思うように変わりません。働き方や空間の変化とあわせて、社員の日常に密接した「服装」にも変化をもたらすことで、より効果的に組織の意識改革を促すことができます。重要なのは、働き方の変化に合わせて、服装のあり方も柔軟に見直していくという視点です。
特に以下のような働き方の変化があったときは、服装の見直しにも適したタイミングでしょう。
<服装を見直しやすいタイミング>
- オフィスの移転や改装
- 固定席からフリーアドレスへの移行
- 毎日の出社からテレワークの導入
- 9〜17時の定時勤務からフレックスタイム制への変更
このような働き方へのシフトと同時に服装を見直すことで、空間の効果を最大限に引き出すことができます。空間・働き方・服装という3つの要素が連動することで、企業が目指すカルチャーや価値観がより自然に表現され、社員にも浸透していくのです。
4. オフィスファッションをカジュアルにする際のポイント
オフィスファッションのカジュアル化には多くのメリットがありますが、いきなり自由化してしまうと、かえって現場に混乱を招くこともあります。ここでは、実際にカジュアル化を進める際のポイントを紹介します。
目的を明確にする
まず大切なのは、「なぜ服装を自由にするのか」という目的を明確にすることです。働きやすさの向上を目指すのか、採用力を高めたいのか、それとも企業ブランディングの一環なのか、といったことなど、目的によって許容範囲やガイドラインの内容も変わってきます。明確な意図が共有されていれば、社員も納得感を持って取り組むことができます。
ガイドラインや見本を示す
自由とはいえ、「何でもOK」では不安を感じる社員も少なくありません。導入初期には、ちょうどいい服装の例を写真やイラストで示すなど、具体的なイメージを共有することが有効です。最初から細かいルールで縛りすぎず、徐々に調整しながら運用していくことが、現場の納得感と柔軟性の両立につながります。
ワークショップや説明会を実施する
服装のカジュアル化を社内に定着させるには、単にルールを伝えるだけでなく、実際の事例を交えながら社員の理解を深める機会が有効です。
オカムラでは、オフィスカジュアル導入時にアパレルの専門家を招いたワークショップを実施。コーディネートのポイントを学べるほか、社員によるファッションショーのようなイベントを通じて、服装の多様性をポジティブに捉える雰囲気づくりを行いました。特に、スーツからの脱却に戸惑う男性社員にとっては、「実践的な参考になった」と好評でした。

5. オフィスファッションのカジュアル化がもたらす効果
オフィスファッションのカジュアル化は、単なる「服装の自由化」ではありません。社員の意識や組織文化、さらには採用活動にまで影響を与える企業にとって重要な施策です。ここでは、カジュアル化によって得られる主な効果を、社内・社外の視点から順に解説します。
<オフィスファッションのカジュアル化による効果>
- ライフスタイルと両立しやすい
- 従業員の働きやすさとエンゲージメントが向上する
- 企業文化や組織の雰囲気が変化する
- 「働きやすい会社」というイメージの定着
- リクルーティングへのプラス効果
ライフスタイルと両立しやすい
オフィスカジュアルを導入することで、日常生活とのバランスも取りやすくなります。スーツを揃えるコストや毎朝の準備にかかる時間が減ることで、経済的・精神的な負担が軽減され、通勤のストレスも緩和されます。また、業務後の予定にそのままの服装で出かけられるなど、仕事とプライベートを無理なく行き来できることも、社員満足度の向上につながるでしょう。
従業員の働きやすさとエンゲージメントが向上する
服装の自由度が高まることで、社員は「自分らしく働ける場所」という安心感をオフィスに抱きます。これにより心理的安全性が高まり、職場でリラックスして過ごしやすくなるのです。リラックスできる環境は、コミュニケーションの活性化や新しいアイデアの創出にもつながり、結果としてチームの生産性向上はもちろん、働きやすさやエンゲージメントの向上にも寄与します。
企業文化や組織の雰囲気が変化する
社員一人ひとりの意識が変わることで、組織全体にも少しずつ変化が生まれます。形式や慣習にとらわれず、柔軟な思考や多様性を尊重するカルチャーが育ちやすくなり、「自社らしさ」が自然と社内に浸透していくようになるでしょう。服装の自由が象徴するのは、単なる見た目の変化ではなく、「社員を信頼し、任せている」という組織の姿勢です。このメッセージが共有されることで、職場の空気そのものがポジティブに変わっていきます。
「働きやすい会社」というイメージの定着
服装の自由化を通じて、多様性を受け入れ、社員一人ひとりの価値観を尊重する姿勢を社内外に示すことができます。それは、「この会社は柔軟で、社員に寄り添っている」という印象につながり、結果として企業ブランドの向上にも寄与します。こうした企業イメージは、離職率の低下や転職市場での評価向上にもつながり、長期的に組織の安定性や成長性を支える要素となります。
リクルーティングへのプラス効果
企業文化が柔軟に変化することで、リクルーティングにもプラスの効果が生まれます。特にZ世代やミレニアル世代の求職者は、「働きやすい雰囲気」や「自分らしくいられる環境」を重視する傾向が強く、服装の自由度は企業選びの大きな判断材料です。服装のカジュアル化は、そんな柔軟なカルチャーの象徴となり、応募へのハードルを下げ、優秀な人材の獲得につながります。
6. 服装の自由化は組織文化を変える第一歩
オフィスの雰囲気を一新するために空間を整えたものの、社員の見た目や行動が従来どおりのままでは、理想とする状態に近づいたとはいえません。空間や働き方の変化と連動して「服装」を見直すことが、社員の意識や組織の文化までポジティブに変え、社員のエンゲージメントを高めるきっかけになりえます。
オフィスファッションのカジュアル化は、自分らしさを表現できる安心感や組織全体に広がる柔軟な雰囲気を醸成し、結果的に働きやすい職場づくりを後押しする力を持っています。オフィスの働き方や空間を整えたものの、社内の雰囲気が思うように変わらない場合は、服装の自由化を取り入れてみるのも有効な選択肢です。
また、空間づくりや制度の工夫など、オフィス運用の見直しによって組織文化をより前向きに変えることもできます。「オフィス運用の新常識」では、これからの働き方に合わせたオフィスの整え方を紹介しています。
よくある質問
Q:業種や職種によってもオフィスの服装は違うのでしょうか?
A:はい、異なります。金融業界など信頼性が重視される業界ではフォーマルが多い傾向がありますが、ITや広告業界などではオフィスカジュアルや個性を活かしたスタイルが多く見られます。また、社外対応が多い職種はフォーマル寄り、社内業務が中心の職種はカジュアル寄りといった傾向もあります。
Q:オフィスカジュアルを導入するメリットは何ですか?
A:服装の自由度が高まることで、社員の心理的安全性や働きやすさが向上し、社員のエンゲージメントにも良い影響を与えます。組織の雰囲気が柔らかくなるほか、「自分らしく働ける会社」として柔軟な会社であるというイメージが社内外に定着し、求職者にとっての魅力アップにもつながるでしょう。
Q:オフィスカジュアル導入のポイントを教えてください。
A:まずは目的を明確にし、ちょうどいい服装の見本やガイドラインを用意するのが効果的です。最初から厳しく縛りすぎず、徐々にルールを調整していくことで、現場の混乱を避けつつ定着しやすくなります。ワークショップや説明会で理解を深める機会をつくるのも有効です。
イラスト:Masaki
