オフィスづくりのコラム
COLUMN
オフィス改革とは?
組織を変える空間づくりのポイント【事例付き】
テレワークやフリーアドレスの普及により、オフィスは「出社して働く場」から、「人が集まりたくなる空間」へと進化が求められています。近年は、レイアウト変更や設備の見直しに取り組む企業も増えてきましたが、真に働き方を支える空間を実現するには、「どんな働き方を目指すのか」という視点や、従業員の声を反映した設計が重要です。
本記事では、オフィス改革の定義や背景をはじめ、企業にもたらす5つの効果、成功させるためのステップや具体的なアイデア、さらに実際の成功事例を解説します。
1. オフィス改革とは? なぜ今必要なのか
オフィス改革とは、従業員が働きやすく、能力を最大限に発揮できる環境を整える取り組みです。近年、テレワークの普及やデジタル化の加速、多様な人材の活躍推進といった社会的な変化により、従来のように「出社して個人のデスクで作業する」ことを前提としたオフィスのあり方は見直されつつあります。かつては業務をこなすための場所だったオフィスは、「人が集まりたくなる空間」「創造性や交流を生む場」へと、その役割が大きく変わりました。
しかし、このような変化にうまく対応できていない企業も少なくありません。例えば、テレワークの導入後に出社率が下がり、「オフィスが有効活用されていない」「従業員同士の偶発的な交流が減ってしまった」という声も多く聞かれます。こうした課題を解決する手段として注目されているのが、オフィス改革なのです。
2. オフィス改革で得られる5つの効果
オフィス改革は、単に空間を整えるだけでなく、組織や働き方そのものに多面的な好影響をもたらします。ここでは、オフィス改革によって得られる代表的な5つの効果について紹介します。
<オフィス改革で得られる5つの効果>
- 生産性と創造性の向上
- コミュニケーションの活性化
- エンゲージメント向上
- デジタル化の推進
- 企業ブランディングの強化
●生産性と創造性の向上
オフィス改革によって最も実感しやすい効果の一つが、生産性と創造性の向上です。業務特性に応じて空間を設計し、集中と交流を柔軟に切り替えられるレイアウトを導入することで、従業員一人ひとりが働きやすくなります。
例えば、個人作業に没頭できる静かなブースや、チームでのディスカッションに適したオープンスペースなど目的に応じた場を整えることで、業務効率が高まり、質の高いアウトプットにつながります。働く環境を見直すことで、日常的な仕事のなかから新しい価値が生まれる可能性が広がるでしょう。
●コミュニケーションの活性化
オフィス改革は、従業員同士のコミュニケーションを自然に生み出す場づくりにも貢献します。部署や役職を越えた偶発的な会話が生まれるように動線を設計したり、共用エリアを戦略的に配置したりすることで、これまで接点のなかったメンバー同士の交流が促されるのです。カフェスペースやライブラリー、リフレッシュエリアなどは、「話しやすい雰囲気」をつくり出し、心理的な距離を縮める効果もあります。
円滑なコミュニケーションは業務の効率化だけでなく、チームの一体感やコラボレーションの質にも影響します。日常的な「ちょっとした会話」が新しい気づきや連携につながるようなオフィス環境こそ、現代の働き方にフィットした空間といえるでしょう。
●エンゲージメント向上
オフィス改革では、物理的な空間を通じて従業員のエンゲージメントを高めることが可能です。視線・音に配慮したレイアウトや、集中・交流・休憩など目的に応じて選べるスペースを整えることで、従業員は「自分らしく安心して働ける」と実感できます。こうした環境が従業員の心理的安全性を高め、自由に意見を出し合ったり、他部署とのコミュニケーションを活発にしたりする土台になるのです。結果として、従業員の会社や仕事に対する愛着・信頼感が高まり、組織全体の一体感やモチベーションも向上します。
フリーアドレスやハイブリッドワークが広がるなかで、従業員が「いつでも戻ってこられる居場所」としてオフィスの存在を実感できることは、エンゲージメントを高めるうえで重要な要素といえるでしょう。
●デジタル化の推進
オフィス改革は、働き方のデジタル化を加速させる基盤づくりにもつながります。紙書類や固定端末に依存した従来のオフィス環境から脱却し、より柔軟で効率的な業務遂行を実現するためには、空間そのもののアップデートが欠かせません。例えば、オンライン会議に対応した個別ブース、クラウドアクセスを前提としたネットワーク環境、共有ディスプレイやワイヤレス機器の整備などが挙げられます。
こうした環境整備により、オフィスとリモートの垣根がなくなり、どこからでも円滑に業務を進められる体制を整えられます。DXを推進する企業にとって、オフィス改革は「リアルな場」から始める変革の第一歩といえるでしょう。
●企業ブランディングの強化
オフィスは、企業の価値観や文化を体現する「ブランドの発信拠点」としても機能します。オフィス改革により、理念やビジョンを空間に落とし込むことで、社内外に一貫したメッセージを伝えることが可能です。来訪者に対しては、「企業らしさ」や「世界観」を視覚的に印象づけることができ、採用活動や営業活動の場においても効果を発揮します。
また、従業員にとっても、自社の姿勢が感じられる空間で働くことは、誇りや愛着を持つきっかけとなり、エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。さらに、オウンドメディアやSNSで「見せられるオフィス」として活用することで、企業ブランディングを強化する重要なコンテンツ資産にもなります。
3. オフィス改革の進め方
オフィス改革は、単なるレイアウト変更ではなく、「どんな働き方を実現したいか」を明確にした上で空間を再構築するプロジェクトです。そのためには、感覚的なリニューアルではなく、段階的かつ目的志向のある進め方が欠かせません。
ここでは、オフィス改革を成功へ導くための3つのステップを紹介します。
<オフィス改革3つのステップ>
- ステップ1:現状の課題・目的を明確にする
- ステップ2:コンセプトに基づいて空間を設計する
- ステップ3:運用設計と定着支援を行う
●ステップ1:現状の課題・目的を明確にする
オフィス改革の第一歩は、自社の現状を正しく理解することです。これまでのオフィスがどのように使われていたのか、どんな不満やニーズがあるのかを把握することで、改革の方向性が明確になります。
具体的には、入退室ログや会議室の利用状況などの定量データに加えて、従業員アンケートやインタビューといった定性的な意見を収集することが重要です。これにより、オフィスの活用実態や課題、従業員が理想とする働き方を多面的に捉えることができます。
例えば、「出社したくなるオフィスにしたい」「部署横断で連携しやすくしたい」など、企業が目指す働き方や空間のビジョンを言語化することで、その後の設計・運用の軸がぶれにくくなります。最近では、従業員が構想段階から参画するプロジェクト型の進め方も注目されており、エンゲージメントの向上にもつながっています。
●ステップ2:コンセプトに基づいて空間を設計する
課題と目的が明確になったら、それらをもとにオフィスのコンセプトを策定し、空間設計に反映させていきます。ここで大切なのは、「誰のための空間か」「どんな行動を促したいか」といった視点を持ち、単なる見た目や流行にとらわれない設計を行うことです。
具体的には、ゾーニング(空間の機能分け)、レイアウト、内装デザイン、家具・什器の選定まで、コンセプトに基づいて決めていきます。例えば、集中・交流・休憩といった多様な行動が自然に切り替えられるよう、エリアごとの役割を明確に設計することが重要です。
また、企業のブランドイメージや理念を空間に反映させれば、社内外に強いメッセージを発信することもできます。「その企業らしさ」を感じられる空間は、従業員のモチベーションを高めるだけでなく、来訪者の印象にも大きな影響を与えるのです。
●ステップ3:運用設計と定着支援を行う
オフィス改革は、空間を整えるだけで終わりではありません。新しいオフィスが「実際に使われて、定着すること」が成功といえます。そのためには、導入後の運用設計と継続的な定着支援が欠かせません。
例えば、フリーアドレスを導入する場合には、「座席予約のルール」や「個人ロッカーの使い方」などを事前に明文化し、誰でも迷わず利用できるようにすることが大切です。また、初期段階では社内向けのオフィスツアーや操作トレーニング、FAQの共有などを通じて、不安や混乱を最小限に抑える工夫も欠かせません。
さらに、オフィスがどう使われているかを定期的に分析し、ルールや運用方法を柔軟に見直していくことも重要です。環境は一度つくって終わりではなく、変化に対応しながら育てていくものです。こうした継続的なサポート体制を整えることで、新しいオフィスはより効果的に機能し、従業員にとって本当の意味での「働きやすい場所」になっていきます。
4. オフィス改革のアプローチ方法
オフィス改革を進める上で、どんな工夫を取り入れればよいのか悩む担当者も多いのではないでしょうか。ここでは、実際の企業でも取り入れられている具体的なアプローチ方法をご紹介します。自社の課題やビジョンに合った方法を組み合わせて、最適な空間づくりを目指しましょう。
<オフィス改革のアプローチ方法5つ>
- フリーアドレス/ABWの導入
- ペーパーレス化
- 集中スペースの導入
- ミーティングスペースの充実
- リフレッシュスペースの導入・強化
●フリーアドレス/ABWの導入
フリーアドレスやABW(Activity Based Working)は、働く場所を固定せず、業務内容や気分に応じて最適な場所を選べる仕組みです。従業員一人ひとりが自律的に働ける環境を整える上で、効果的な施策といえます。
このような仕組みにより、無駄な席の空きや固定席による非効率を解消できるだけでなく、自然な人の流れやコミュニケーションの活性化も期待できるでしょう。また、「今日は集中したい」「今日はチームで動きたい」といったその日の業務や気分に応じた選択が可能になることで、ストレス軽減やパフォーマンス向上にもつながります。
導入の際は、座席予約システムや個人ロッカー、フロアマップや空席状況をリアルタイムで表示できるデジタルサイネージを活用することで、よりスムーズな運用が可能です。
●ペーパーレス化
オフィス改革の一環として、紙資料をデジタルに置き換えるペーパーレス化も有効です。単に書類を減らすだけでなく、オフィス環境や働き方に多くのメリットをもたらします。
まず、紙の保管スペースが不要になることで、収納のために使われていたスペースを会議室や集中ブースなど、より価値の高い用途に転換が可能です。見た目にもすっきりとした空間になり、整理整頓された印象を与えることができます。
さらに、資料の共有や検索がデジタル化されることで、業務効率の向上や情報セキュリティの強化にもつながるでしょう。特にリモートワークやハイブリッドワークが広がる中で、どこからでもアクセスできる仕組みは、業務のスピード感を高める重要な要素となります。
●集中スペースの導入
オフィスの中でも、静かに集中して作業できる環境は、生産性を高める上で欠かせません。特にハイブリッドワークの広がりにより、オフィスを「集中の場」として活用する従業員が増えている今、集中スペースの導入はとても重要です。
例えば、音や視線を適度に遮る設計の集中ブース、パーティションで囲まれた一人用のブースなどを設けることで、周囲の影響を受けずに業務に没頭できる環境が整います。これらは資料作成や企画の練り上げ、重要な判断が求められる作業などに最適です。
また、集中しやすい空間の存在は、従業員のストレス軽減や時間管理の意識向上にもつながります。多様な働き方に対応するオフィスづくりの中で、「静けさと集中」が保証されたエリアの重要性は今後ますます高まるでしょう。
●ミーティングスペースの充実
オフィス内での打ち合わせや会議のスタイルは多様化しており、それに対応できるミーティングスペースの整備は欠かせません。目的や参加者の人数、対面・オンラインの有無に応じて、柔軟に使える空間が求められています。
例えば、WEB会議に対応した防音性の高い小会議室や、気軽に話し合えるスタンドミーティング用のスペース、少人数でアイデア出しができるラウンドテーブル形式の部屋など、多様なニーズに合わせた設計が効果的です。
また、AV機器やホワイトボード、モニターなどの設備を充実させることで、会議の質と効率が向上します。ミーティングのための空間をただ確保するだけでなく、使いやすく整えることが、チームワークの強化や意思決定のスピードアップにつながります。
●リフレッシュスペースの導入・強化
働きやすいオフィスづくりにおいて、休む場所の存在も重要です。リフレッシュスペースの導入や強化は、従業員の心身のリフレッシュを促すだけでなく、偶発的なコミュニケーションの創出にもつながります。
例えば、カフェのようにくつろげる空間や、軽く体を動かせるエリアなどは、業務の合間にリラックスするだけでなく、部署を超えた従業員同士の自然な会話や情報交換が生まれる場として有効です。
さらに、気分を切り替えやすい環境が整っていることで、集中力の回復や創造的な発想にもつながります。働く場に「余白」をつくることは、組織全体の生産性とエンゲージメントの向上にも寄与するのです。
5. オフィス改革の成功事例
オフィス改革の効果を実感するには、他社の取り組みや工夫から学ぶことも重要です。ここでは、実際にオフィス改革を通じて成果を上げた企業の事例を紹介します。それぞれの企業が抱えていた課題に対して、どのような空間設計や仕組みを導入したのか、またその結果どのような効果があったのかを知ることで、自社に合った改革のヒントが見つかるはずです。
<オフィス改革の成功事例>
- 部署間のコミュニケーション活性化・ペーパーレスな働き方を実現したワンフロアオフィス
- タテ・ヨコ・ナナメにつながる「来たくなるオフィス」
- 生産性の向上と従業員同士の交流を共存させる空間
●部署間のコミュニケーション活性化・ペーパーレスな働き方を実現したワンフロアオフィス

株式会社朝日新聞社 名古屋本社 様では、部署間のコミュニケーションをより活性化させることや、紙中心の業務スタイルを見直すことを目的に、フリーアドレスを導入したワンフロア型のオフィスへと刷新しました。
フロア全体を見渡せるオープンな空間設計により、物理的な垣根をなくし、従業員同士のカジュアルな交流が生まれやすい環境を実現しました。特に、中央に設けられたラウンジスペースは、部署を越えたコミュニケーションの拠点として機能しています。
また、オカムラが主催する文書削減ワークショップを繰り返し実施し、全社的な方針と現場の運用を丁寧にすり合わせ。新聞を1ヵ所に集約するなど、紙の削減と環境配慮を両立した空間を設計しました。さらに、家具や内装材にはリサイクル資源を活用するなど、サステナブルな視点も取り入れています。
「風通しの良さ」を強みとする、垣根のないワンフロアオフィス|株式会社朝日新聞社 名古屋本社
●タテ・ヨコ・ナナメにつながる「来たくなるオフィス」

中外製薬株式会社 様では、リモートワークでは得られない「対話によるコミュニケーション」を重視し、従業員が自然と集まりたくなるオフィスの実現に取り組みました。そのコンセプトは、『新しい交流が生まれ育つ場』です。
従業員が気軽に立ち寄れるカフェエリアを新たに設け、食事やコーヒーを楽しみながら、偶然出会った同僚とリラックスした会話ができる空間を創出。こうした非日常的な交流が、部署や役職を越えたつながりを生み出しています。
さらに、イベントや社内発表会などに活用できる多目的スペースを整備し、意図しない出会いや刺激が生まれる仕掛けも導入。こうした「タテ・ヨコ・ナナメ」のつながりが促進されることで、従業員同士の関係性が深まり、新たな発想や気づきが生まれるオフィスへと進化しています。
来たくなるオフィスの魅力は『ヨコ・タテ・ナナメ』のつながり|中外製薬株式会社
●生産性の向上と従業員同士の交流を共存させる空間

ダイコク電機株式会社 様では、「業務に集中できる環境」と「従業員同士が自然に交流できる空間」の両立を目指し、オフィスを全面的に見直しました。コンセプトは、仲間同士がつながり高め合う「輪」と、普段の業務環境から離れて心を切り替える「和」の共存です。
ワークエリアでは、集中しやすいレイアウトと機能的なデスク環境を整備。一方で、すぐ隣に設けられたコミュニケーションエリアでは、チームや部門を越えて気軽に交流できる場が設けられ、業務中でも自然な会話が生まれる仕掛けとなっています。
これらのエリアは完全に分断するのではなく、シームレスにつながる設計とすることで、仕事のモードからコミュニケーションへの切り替えがスムーズに行える点が特徴です。生産性と関係性、どちらも大切にする空間づくりが、働きやすさと組織の活性化を両立させています。
6. オフィス改革は組織の未来をつくる第一歩
オフィス改革とは、単にデスクや会議室の配置を変えることではありません。「どんな働き方を支援したいのか」「従業員が心地よく働ける空間とは何か」といった問いに向き合い、空間を通じて組織文化や行動を変えていく本質的な変革です。
テレワークの定着やDXの加速、多様な価値観を持つ人材の活躍が求められる今、オフィスは「効率の場」から「創造と交流の場」へとその役割を変えつつあります。オフィス改革によって、生産性の向上やコミュニケーションの活性化、ブランディングの強化といった多くのメリットが期待できますが、それを実現するためには明確なビジョンと段階的なプロセスが欠かせません。「自社にとって本当に必要なオフィスとは何か」、その問いに向き合うことが、これからの企業の成長を支える重要な一歩となります。
オフィス改革を成功させるためには、空間づくりの知識だけでなく、働き方への理解や組織の課題に対する洞察も欠かせません。これから改革に取り組みたい企業の担当者向けに、基礎から実践までを学べる「ゼロから始めるオフィスづくりの入門書」をご用意しましたので、ぜひご活用ください。