オフィスづくりのコラム
COLUMN
インナーブランディングとは?
企業理念が伝わる組織づくりの方法
リモートワークや副業の普及により、一つの企業に長く勤める働き方から、自分に合った価値観で企業を選ぶ方向へと変わりつつあります。オフィスで顔を合わせる機会が減り、理念やビジョンが自然と伝わりにくくなった今、従業員の共感を得る仕組みづくりが重要になっています。
そこで注目されているのがインナーブランディングです。本記事では、インナーブランディングの定義やメリット、具体的な手法、空間デザインを活用した企業事例をご紹介します。
目次
1. インナーブランディングとは従業員に企業理念を浸透させる取り組み
「インナーブランディング」とは、企業が掲げる理念やビジョン、価値観を従業員一人ひとりに浸透させ、自らの行動に落とし込んでもらうための取り組みです。社外向けにブランドイメージを発信する「アウターブランディング」に対して、インナーブランディングは社内に向けた活動であり、組織の内側から企業のブランド力を高めていくアプローチといえます。
現代では従業員の価値観や働き方が多様化し、単に情報を伝えるだけでは、企業の理念が伝わりづらい時代になりました。そのため、インナーブランディングで理念やビジョンを従業員に伝えることで、従業員のエンゲージメントを高めようとする企業が増えてきています。エンゲージメントとは、従業員が企業や仕事に対して思い入れや前向きな気持ちを持つことです。
インナーブランディングによってエンゲージメントを高めることで、従業員の行動と企業の方向性が一致し、組織全体の一体感や競争力の向上へとつながっていくのです。
2. インナーブランディング活用のメリット
インナーブランディングは、単に企業理念を伝えるだけの活動ではありません。従業員一人ひとりの行動や意識に変化をもたらし、企業全体にさまざまなプラスの効果をもたらす戦略的な取り組みです。
ここでは、インナーブランディングがもたらす主な3つのメリットを紹介します。
<インナーブランディング活用によるメリット>
- 強い組織文化が形成される
- 従業員のエンゲージメントが向上する
- アウターブランディングのベースができる
●強い組織文化が形成される
インナーブランディングにより、企業の価値観や行動指針が従業員に共有されることで、組織全体に一貫性のある文化が根づきます。誰もが同じ基準で判断・行動できる環境が整えば、意思決定のスピードが上がり、社内の無駄な摩擦も減少するでしょう。
また、明確な組織文化がある企業は、外部環境の変化や不測の事態にも柔軟に対応しやすいという特長があります。日々の業務の中で従業員が価値観に基づいた行動を積み重ねることで、組織としての持続力や一体感が高まり、長期的な企業成長の基盤が築かれていくのです。
●従業員のエンゲージメントが向上する
インナーブランディングで企業理念や価値観が従業員にしっかりと伝わると、自分の仕事の意義や企業の方向性への理解が深まります。その結果、「この会社で働いている意味がある」「自分の仕事が会社の目標に貢献している」と実感しやすくなり、従業員のエンゲージメントが向上します。
エンゲージメントの高い職場では、モチベーションが維持されやすく、結果として離職率の低下や定着率の向上といった効果も期待できます。従業員一人ひとりが企業の理念に共感し、自ら行動する組織は、外部から見ても魅力的に映り、採用力の強化にも寄与するでしょう。
●アウターブランディングのベースができる
インナーブランディングによって従業員が企業理念や価値観を深く理解し、日常業務の中で自然に体現するようになると、その姿勢や行動が社外にも伝わります。結果として、従業員の言動そのものが「企業らしさ」となり、外部に対して一貫性のあるブランドイメージをつくることが可能です。
このような企業文化が可視化されることで、採用広報やSNS、オウンドメディアなどを通じた情報発信にも説得力が生まれます。特に、企業と価値観がマッチした人材を惹きつけるうえで、内からにじみ出るブランディングは非常に効果的です。内側からブランドの信頼性と魅力を高めることが、結果的にアウターブランディングの成功を後押しする土台となります。
3. インナーブランディングの取り組み方
インナーブランディングは、一度情報を伝えて終わりではなく、計画的かつ継続的に実行していくことが重要です。ここでは、インナーブランディングを実践していくうえで押さえておきたい、4つのステップを紹介します。
<インナーブランディング4つのステップ>
- ステップ1:目標・課題を明確にする
- ステップ2:企業理念とビジョンを明確にする
- ステップ3:社内へ浸透させる
- ステップ4:効果測定のうえPDCAを回す
●ステップ1:目標・課題を明確にする
インナーブランディングの第一歩は、自社の現状を正しく把握し、何を目的に取り組むのかを明確にすることです。例えば、「従業員のエンゲージメントが低い」「理念が浸透していない」「部署ごとに価値観の温度差がある」など、組織の課題を可視化することで、取り組みの方向性が定まります。
そのうえで、「理念浸透度を◯%まで高める」「定着率を◯%改善する」といったように、できるだけ数値化された目標を設定することがポイントです。数値で管理することで進捗や効果を測りやすくなり、取り組みの精度も高まります。課題の抽出と目標設定は、インナーブランディング全体の土台となる重要な工程です。
●ステップ2:企業理念とビジョンを明確にする
インナーブランディングの軸となるのが、企業理念やビジョンです。これらが曖昧なままでは、従業員の理解や共感を得ることは難しく、結果として行動にも結びつきません。
まずは、理念やビジョンを従業員にとってわかりやすい言葉に整理し直すことが重要です。抽象的な表現ではなく、誰が読んでもイメージしやすく、社内外問わず共感できる内容に落とし込みましょう。
また、ブランドコンセプトやバリューといった形で明文化すれば、従業員の日々の意思決定や行動の指針として機能します。明確な理念は、単なるスローガンにとどまらず、組織を支える「共通言語」としての役割を果たすのです。
●ステップ3:社内へ浸透させる
企業理念やビジョンが明確になったら、それを社内に広く浸透させるための仕組みづくりが必要になります。単に資料を配布したり、経営層が発信したりするだけでは、従業員一人ひとりの意識や行動にはつながりにくいものです。効果的に浸透させるには、複数の手段を組み合わせて継続的にアプローチすることが求められます。
例えば、理念に基づいたワークショップの開催、社内報での共有、朝礼や1on1での繰り返しの対話などが有効です。企業規模や組織の特性に応じて、時間やコストとのバランスを見て、自社に合った方法を柔軟に選びましょう。
●ステップ4:効果測定のうえPDCAを回す
インナーブランディングを実施するときは、定期的にその効果を検証し、改善を重ねていくことが重要です。どれだけ丁寧に理念を発信したとしても、従業員に浸透しなければ意味がありません。
従業員に浸透させるには、定量・定性の両面からの効果測定が必要です。測定は、例えば「従業員アンケート」や「エンゲージメントサーベイ」を活用して理念浸透度を可視化したり、1on1などで現場の声を拾ったりすることで測定できます。測定結果からは課題や改善点を洗い出し、施策の内容やアプローチ方法を見直し、改善を繰り返すことで徐々に組織の一体感を高められます。
4. インナーブランディングの手法
インナーブランディングを実践するうえで重要なのは、「理念や価値観をいかに伝えるか」だけでなく、「体感させ、行動に結びつけるか」です。そのためには、制度やコミュニケーション、教育、空間設計など、複数の手法を組み合わせて多角的にアプローチすることが求められます。
ここでは、実際に活用されている代表的な手法を4つに分けて紹介します。
<インナーブランディングの手法>
- 制度・評価
- 社内コミュニケーション施策
- 教育・研修施策
- オフィス空間の活用
●制度・評価
理念や行動指針を評価制度や表彰制度に組み込むことで、従業員の行動を企業の価値観に近づけられます。例えば、理念に基づいた行動を評価・表彰する仕組みを設ければ、自然と理念が日常の行動に定着していくでしょう。制度とブランドの方向性が連動することで、従業員の意識づけが進み、企業文化の浸透が進みます。
●社内コミュニケーション施策
理念やビジョンを浸透させるには、社内での継続的な対話の機会が欠かせません。社内報や社内SNS、1on1ミーティング、朝礼などを通じて、繰り返し価値観を共有することが重要です。日常のコミュニケーションに理念を組み込むことで、従業員が自然と企業の方向性を理解し、行動に移しやすくなります。
●教育・研修施策
新卒や中途従業員向けの研修を通じて、企業理念や文化をしっかり伝えることは、インナーブランディングの基本です。研修やワークショップで理念を体感する機会を設けることで、従業員の理解と共感が深まります。入社時だけでなく、定期的なフォロー研修を行うことが、理念を継続的に意識する組織風土を育みます。
●オフィス空間の活用
オフィスのデザインやレイアウトも、理念や価値観を伝える手段の一つです。例えば、エントランスに企業のパーパスを掲げたり、ブランドカラーを各所に取り入れたりすることで、従業員が日常的に企業らしさを感じ取れる空間になります。視覚的・空間的な演出は、言葉以上に理念の印象を深める効果が期待できるだけでなく、来訪者へのブランディングにもつながる点がメリットです。
5. 空間を活用したインナーブランディングの成功事例
ここでご紹介するのは、オフィス空間を通じて企業理念や価値観を表現し、インナーブランディングを進めている3つの企業事例です。いずれも、空間デザインとブランディングを融合させたことで、従業員のエンゲージメント向上や企業文化の定着に成功しています。
<インナーブランディングの成功事例>
- レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン株式会社 様
- ユニ・チャーム株式会社 様
- 株式会社YEデジタル 様
●グローバルと日本らしさの融合で理念や価値観を表現したオフィス

レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン株式会社 様は、グローバル企業としての一体感と、日本法人としての独自性を両立させたオフィス空間を構築しました。インテリアには、北欧デザインと和のテイストを融合させた「Japandi(ジャパンディ)」スタイルを採用し、国内外の従業員や来訪者が共感できる空間づくりを実現しています。
また、企業のパーパスである「Unlocking the full potential of life(人生の可能性を最大限に引き出す)」を壁面に掲げることで、理念を日常的に意識できる工夫も施されています。視覚的なメッセージが従業員の行動指針となり、空間全体で企業文化を体現した事例です。
●色・展示・動線により共生社会の実現という想いを体感できる空間

ユニ・チャーム株式会社 様のエントランスは、コーポレートカラーであるイエロー・オレンジ・ブルーを取り入れたデザインが施され、企業の想いを直感的に伝えています。オフィス内には、空間を一周する動線上に取り組み内容を紹介する展示エリアが設けられており、理念を視覚的・体験的に理解できる設計になっています。やさしい色使いや温かみのあるインテリアにより、企業の雰囲気が空間全体から伝わってくるオフィスです。
●空間にサービスコンセプトを投影し、従業員・来訪者にブランドの透明性を訴求

カスタマーセンター「AQUA」は、サービスの「透明性」をテーマに設計されたオフィス空間です。アートアクアリウムから着想を得た「AQUA」という名称には、「見える化されたサービスで、お客様に安心を提供したい」という想いが込められています。
空間デザインには、「水」や「波」をモチーフにした柔らかな曲線と、白を基調とした透明感のある内装を採用。見学者には誠実な企業姿勢を印象づけるとともに、従業員にとっても心地よく働ける環境が整えられています。空間を通じてサービスの価値観を体現することで、インナーブランディングとアウターブランディングを同時に実現した好例です。
6. 理念を「伝える」から、「感じ取る」へ
インナーブランディングは、単に理念や価値観を伝えるだけではなく、従業員がそれに共感し、行動として体現するための取り組みです。従業員一人ひとりが企業の方向性に納得し、自発的に動ける状態をつくることで、組織の一体感が高まります。その手段は、評価制度や研修、社内コミュニケーションにとどまらず、オフィス空間を活用した演出にも広がっているのです。
特に移転や改装のタイミングは、企業の想いを空間に反映させる絶好のチャンスです。理念をかたちにすることで、従業員のエンゲージメントが向上し、結果として採用力やブランド価値の強化にもつながります。これからの組織づくりにおいて、インナーブランディングは経営の重要な柱となるでしょう。
理念を伝える空間を実現するには、設計の考え方や進め方を知ることが重要です。「ゼロから始めるオフィスづくりの入門書」では、オフィスづくりの基礎から実践ポイントまでを丁寧に解説していますので、ぜひご確認ください。