オカムラが描く、人財育成の新たな拠点「CROSSGATE」構築プロジェクト ――研修室、ラウンジ、カフェが織りなす「学びとキャリアの交差点」

株式会社オカムラ

オカムラが描く、人財育成の新たな拠点「CROSSGATE」構築プロジェクト ――研修室、ラウンジ、カフェが織りなす「学びとキャリアの交差点」

株式会社オカムラ

Project Data

プロジェクト名
オカムラ新研修室構築プロジェクト
面積規模
約520㎡
人員規模
最大受け入れ人数約150名
完成年月
2025年3月

Point !

2箇所に分かれていた社内研修室のうち1箇所の移転をきっかけに、それまで2箇所に分散していたことで生じていた課題の改善を図るとともに、「学び」と「キャリア」の促進を目指して空間づくりに取り組んだ事例です。
新たにつくったオカムラの人財育成の場「CROSSGATE」は、従来の"研修の場"としての機能だけでなく、学びを楽しみながら従業員の挑戦やキャリア設計の後押しもできる魅力的な環境を実現しました。「気軽に立ち寄れ、学びの機会を得られる場 」としての活用も見据えて、ライブラリーやカフェコーナーを設けています。社員同士の対話が自然と生まれ、学びや働き方への意識が高まる空間です。

2024年春、オカムラは新入社員が同じ場で学び合える環境をつくり、対話を通じて他者から学ぶこともできるよう、新宿と赤坂に分かれていた社内研修室(各、約30人と約80人規模)を統合したオカムラの人財育成の場「CROSSGATE」構築プロジェクトをスタートしました。

コンセプトは「学びとキャリアの交差点」。人財開発部の想いを出発点に、空間デザインを担当したチームと対話を重ねながら構想を具体化。単なる知識習得の場ではなく、社員一人ひとりが自身のキャリアと向き合い、成長への一歩を踏み出せる場所が完成しました。

このプロジェクトに込めた想いや背景、完成までの過程について、プロジェクトの中心メンバーであるオカムラの人財開発部・奥田香奈江と空間デザインを担当した河畑淳子が振り返ります。

(左から)奥田香奈江、河畑淳子

以前の社内研修室

the previous office
以前のオフィス
以前の社内研修室

ゾーニングと紹介するエリア

ゾーニングと紹介するエリア

Interview

Scene 1

「オカムラの人」らしい学びとキャリア自律を促す

はじめに、今回、新たな研修室を構築することになった 背景を教えてください。

奥田:そもそものはじまりは、2箇所に分かれていた社内研修室のうち、1箇所が移転することになったのがきっかけです。以前は研修室が2拠点に分かれていて、100名を超える新入社員研修などは1つの研修室だけで対応しきれず、やむを得ず2拠点をオンラインでつないで中継する形式を採用していました。ただ、新入社員からは「他拠点の同期とも直接話してみたかった」という声が多く挙がっていました。

また、私たち人財開発部としても、対話によって他者から学ぶ 「オカムラの人」らしい学びを研修の場に再現したいという想いがあったんです。
そこで新たに研修室を構築するならば、今年度受け入れる150人規模の新入社員研修に対応できる場所を希望していたところ、2024年の夏ごろにちょうどいい物件が見つかりました。

どのような経緯で、「学びとキャリアの交差点」というコンセプトに至ったのでしょうか。

河畑:まず、研修に立ち会う人財開発部のみなさんが「どんな空間にしたいか」という話し合いをされていましたよね。

奥田:はい。その中で、「研修で学んだことから自分の進む道を見つけてほしい」「この場をきっかけに、これからの自身のキャリアも考えてもらえたらいいね」「社員のみなさんが仕事に悩んで自分を変えたいと思ったとき、ヒントを得られる空間になれば」といった意見が出てきました。“学び"だけでなく“キャリア“についても意見が出たのは、我々がキャリア自律(※)を重視しているからです。

※個人が自らのキャリアについて主体的に考え、責任を持ち、自らキャリアを形成していく状態のこと。

河畑:そういった想いを共有してもらう中で、「研修という学びの場だけじゃなくて、キャリアについても考えられる複合的な空間になればいいな」と思い、「学びとキャリアの交差点」をコンセプトにしました。

エントランス。「学びとキャリアが交差(CROSS)する場所」「仕事に悩む自分を変えたいときに来て、また新しい自分になって実務へ戻っていく出入口(GATE)」という意味を込めて、「CROSSGATE」という施設名に。それぞれの頭文字(CとG)が絡み合い、学びの象徴である本をイメージさせるロゴになっている。

「キャリアについても考えられる複合的な空間になればいい」と思った理由を教えてください。

河畑:私自身が「主体的なキャリア形成」の大切さに気づいたからです。それまで、人財開発について専門的な知識はほとんどなかったのですが、人財開発部のみなさんとの話し合いの中で、人財開発の中核にあるキャリア支援がいかに重要であるかがわかりました。

加えて、「自分のキャリアを考えてもらえる空間にしたい」というみなさんの強い想いに応えたいとも思い、今回のコンセプトにしました。

奥田:数年前から、私たちは「オカムラキャリアジャーニー」という考え方のもと、従業員の成長を支援するさまざまな施策を浸透させてきました。だからこそ、「新たにつくる空間を活用してさらに発展できればいいな」という思いもあり、このコンセプトが生まれたんです。

Scene 2

「理想の空間」を起点に、必要な機能を形にする

河畑さんがプロジェクトに加わった8月時点で、すでに入居するビルは決まっていたそうですね。それ以降は、どのような流れで竣工まで進めたのでしょうか。

河畑:今回は、3月末までに竣工するタイトなスケジュールでしたが、まずは約1カ月間かけて 、「この場所をどういう空間にしていきたいか」を検討する企画や計画に時間を費やしました。

設計段階のレイアウト作成を早く進めようと急ぎがちなプロジェクトが多いと感じますが、企画や計画の段階でしっかりと検討することで、目的に合った効果的な空間設計が可能になり、結果としてより良い空間を効率的につくり出せると考えているからです。 そのあとは、家具や設備の配置を決めながら、設計作業を進めています。その中で、人財開発部と話し合いつつ、必要な機能や仕様などを決めていきました。

一般的な移転プロジェクトの流れ

奥田:通常の研修は30名程度の人数で行うことが多いため、150人規模の大空間をスライディングウォール(移動間仕切)で区切って、複数の小部屋としても使えるように設計を依頼しました。

その要望が叶ったことで、100名を超える大規模研修に対応できるだけじゃなく、30名規模の研修を2つ同時に開催することも可能になりました。これにより、これまで対応できなかった複数部門の研修を同時に実施できるようになり、休憩時間には事業部を越えた交流も活発になったんです。

研修室「Learning Area」は3部屋あり、スライディングウォールで間仕切りされている。研修の規模に合わせて部屋のサイズを調整可能。

奥田:また、必ずつくりたいと思ったのが、キャリアを考えるヒントとなる本が置いてある、ブックラウンジです。「研修室のみがある研修スペースではなく、キャリアについて考えることができたり、ほかの社員とコミュニケーションが取れたりする場もつくりたい」という話になりましたよね。

河畑:そうでしたね。ただ、物件を見つけた当初は、ラウンジまで考慮していませんでした。そこで、研修室とラウンジをうまく両立させるために、家具の選定や通路の取り方などを工夫し、限られたスペースを最大限に活用しています。

自由にくつろいだり、読書したりできる「Book Lounge」。研修の合間に社員が集まり、本をきっかけに会話が生まれることも。

限られた空間に欲しい機能を配置できるよう工夫されたのですね。

河畑:はい。企画や計画の段階では、「ここで何をしてほしいか」「どんな気持ちになってほしいか」をじっくり話し合いました。物件の条件に縛られるのではなく、まずは「理想の空間はどんなものか」という夢を広げるフェーズがあり、そこから実現に向けて設計や運営を固めていきました。そのプロセスを経たことで、取り入れたい機能をあきらめずに形にできたのだと思います。

まずは理想を描いたことが良かったのですね。そのあとの流れも教えてください。

河畑:同年の11月には設計図が完成して、2025年の年明けから工事がスタートしました。春からの新入社員研修に間に合うよう、タイトなスケジュールでしたが、3月中には無事竣工にこぎつけました。

工事期間中も人財開発部のみなさんとは密に連携を取り合い、「Book Lounge」に並べる本の選定や書店さんとのやり取りなども担当してもらいました。その内容をもとに、私たち設計チームが本棚のサインなどを仕上げています。

本棚の棚ごとには、オカムラグループの従業員一人ひとりが日々の行動の拠りどころとする「SMILE(Shine、More、Imagine、Link、Expertという5つのアプローチの頭文字を合わせた)」から、「Imagine(思いやりを持ち創造する)」「Link(多様性を愛し協力する)」などのテーマが設定され、書店員が選定した本が並ぶ。棚上部には、各テーマの解説が書かれたサインが置かれている。

今回のプロジェクトで、とくに注力された部分はどこですか。

河畑:ひとつは、いわゆる「研修室らしい」個室にデスクとチェアがずらっと並んでいるだけのような、無機質な雰囲気にしないことです。そのために、エントランス付近にカフェスペース「Coffee Stand」を設けたり、廊下にはソファを置いて、自然と人が集まり会話が生まれる「たまり場」のような空間を取り入れたりしています。

研修するだけの場所にならないように意識された空間は、学びや交流が生まれる仕掛けが散りばめられている。

河畑:また、研修室には用途が明確な備品置き場やハンガーラックをあらかじめ設計に組み込み、使い勝手がよくスッキリとした印象のまま空間を使えるようにしました。

奥田:備品置き場には、OCポータブルバッテリーの収納スペースも設計してもらいましたよね。全員がOCを使用することで、床に電源コードを這わせる必要がなくなり、これまでよく起きていた配線の引っかかりなどのトラブルが解消されました。

持ち運べるバッテリーを用意し、研修室のどこにいても電源を気にせずに作業ができる。

河畑:加えて、研修室には可動式の机や椅子を採用しているのもポイントです。講義形式のように登壇者に向かって一列に机を並べるスタイルだけでなく、複数人が向かい合って座るグループ形式のレイアウトにも柔軟に対応できます。

奥田:OCを使っているおかげで、床まわりがすっきりしていて、机や椅子の配置変更もスムーズです。レイアウトの自由度が高まり、利用目的に応じた環境づくりがしやすくなりました。研修の参加者など利用者のストレスを減らす工夫が随所に施された空間だと感じています。

レイアウトの自由度を高めた「Learning Area」。遮音性に優れたガラス壁を用いることで、開放感を保ちながらも、廊下を行き交う人が研修の様子を自然に視認できるよう工夫した。

Scene 3

「学び」と「キャリア」が深まる機能的な空間づくり

実際に空間をつくるとき、どのような工夫をしたのか教えてください。

河畑:研修室を中心としたインテリアは、時代の移り変わりに左右されないベーシックなカラーとマテリアルを選定しています。「学び」はどの世代にとっても重要で、誰もが落ち着いて自分の意見が言える雰囲気をつくりたかったからです。

奥田:導入するAV機器にもこだわり、研修参加者が負担を感じず、集中できる環境づくりを目指しました。

照明を落とさなくても文字がはっきりと見えるブラックスクリーンや、3面のスクリーンに異なる資料を投影できるタブレットなどを採用。在宅勤務でも同じ研修を受けられるよう、オンライン配信用の機材も設置した。

河畑:また、研修室の大空間を区切るスライディングウォールの格納スペースには扉を設け、空間を広く使えるように工夫しています。こういった小さな工夫によって空間のノイズを減らし、学びに集中できる環境を整えています。

スライディングウォールを設置するために、天井部分は補強工事をしている。部屋の後方に、スライディングウォールを収納するための格納庫も準備した。

奥田:研修の休憩時、自然と目に留まるカフェスペースの壁には、オカムラの人財育成を知る場として、モニターを設置し、多種多様な部門・職種の従業員に、キャリアジャーニーを紹介してもらうコンテンツも発信を始めました。これを見た社員に「自分もこういう人になりたい」と思ってもらえるきっかけになればなと考えています。

最小限の通路幅でも邪魔にならないよう、壁にくぼみをつくってモニターを設置。

河畑:ラウンジに併設したライブラリーは、壁一面を本棚にすると圧迫感が出てしまうのでソファを配置し、空間に余白を持たせています。

造作した壁面本棚。空間全体は、本が視界に入りやすく、会話が生まれやすくなるように工夫されている。

河畑:エントランスやライブラリーに設置したサイン(ロゴマークや案内板など)は、サイン専門のデザイナーさん に制作を依頼しました。効果的なサインは、訪れる人の行動にさりげなく影響を与え、空間の質を高めてくれるものだと考えています。重要な要素なので、特に目に入りやすいエントランスのサインは、施設名を決める初期段階から一緒に考えてもらいました。

すべての空間で同じフォントを使ったサインを設置し、一体感を演出。制作時は、壁に紙を貼り付けて文字サイズや色を入念に確認した。立体的なロゴマークがより引き立つよう、照明で照らしている。

研修室は、大きな窓やガラス壁が特徴のひとつです。その要素は、参加者にどのような効果をもたらしていると感じますか。

奥田:研修に、意欲的に取り組めるようになっているのではないかなと思っています。以前、もっと広くて天井が高い外部会場で研修を実施したこともあるのですが、そこは大きな窓がほとんどなく、圧迫感や閉塞感から研修の参加者に疲労の様子を感じることがありました。一方、「CROSSGATE」の研修室は開放感があって快適に過ごしやすいようで、受講している方が生き生きとしているように見えますね。

ラウンジと研修室の間には、ガラス壁を設置。ラウンジにはカフェテーブルやフルクローズ型ワークブースを置くことで、研修休憩時間中の参加者同志の交流やキャリアカウンセラーによる面談など、交流や対話をしやすい空間へと設えた。

Scene 4

デザインで人の心を動かすオフィス空間をつくる

完成した新しい研修室に対して、社内からはどのような反応がありますか。

奥田:今年の新入社員からは、「こんなに良い環境で学べるのは本当にありがたい」といった声が寄せられています。休憩時間には、カフェスペースや廊下のソファまわりで会話を楽しむ様子も見られ、期待どおりの効果が現れていますね。

また、「Book Lounge」では、研修の休憩時間などにオカムラの社員が本を手に取る姿をよく見ます。現在は研修利用がメインですが、今後は「学びとキャリアの交差点」というコンセプトのもと、学びやキャリア形成支援に関わる利用ができる場所として、全社員に開放していく予定です。

研修に参加された参加者からは、「一日研修を受けても環境によるストレスがほとんどなく、無機質な空間に閉じ込められているような感覚とはまったく違う体験だった 」という声も寄せられており、好評をいただいています。

会話がしやすくなるように、空間の設計ではどのような工夫をされたのでしょうか?

河畑:「Book Lounge」には大きなテーブルやラウンジチェアなど、さまざまなタイプの家具を設置していますが、いずれも2人以上で利用できたり、外から話しかけやすい向きに配置したりすることで、自然なコミュニケーションが生まれるよう工夫しました。

また、限られたスペースを有効に使うため、研修室へ向かうだけになりがちな通路にも居場所を設けています。その際には、高校生が休み時間、廊下で他のクラスの友人とおしゃべりするような気軽な交流の風景を思い浮かべながら計画しました。

「Coffee Stand」も幅広い年代の社員が安心して会話ができるよう、落ち着いたトーンでカラーリング。

河畑:私も利用したメンバーから嬉しい感想をもらうことが多いんです。そう言ってもらえる場所にできたのは、人財開発部のみなさんの強い想いがあったからこそ。要望を汲み取って形にしたい私にとっては、「こうしたい」という想いがあることが良かったんですよね。

希望をどうやって形にするかを一緒に考え、アイデアを出し合いながらつくり上げることができたプロジェクトでした。

奥田:「CROSSGATE」はオカムラの人財育成の場ではあるのですが、同様に人財育成に関して課題を抱えている企業様もいらっしゃると思います。だからこそ、自社で活用しながらどんどんブラッシュアップしていき、この空間を“人財育成の取り組みのひとつの答え”として発信していけたら、と思っています。

最後に、「CROSSGATE」を利用したメンバーの感想を受けて、どのような信念を持って場を設計することが大事だと思いましたか。

河畑:「訪れる人にどんな体験をしてほしいか」という思いを込めて設計することです。今回そうしたことで、空間はただハードとして存在するものではなく、人の心に良い変化をもたらす存在にもなり得ることを感じました。

自分の考えたものや描いた線、配置した色や什器の作用によって、前向きな気持ちで帰っていく人がいるのは嬉しいことで、「ここに来て良かった」と思ってもらえる場所になっていたらいいなと思っています。

About this Project

業種
オフィス家具メーカー
企業名
株式会社オカムラ
所在地
東京都港区元赤坂1-5-13 住友不動産元赤坂ビル6階
WEBサイト
https://www.okamura.co.jp/
デザイナー
サインデザイン
マルヤマデザイン
植栽計画
緑演舎
関連タグ
Credit
編集
水上アユミ(ノオト)、オカムラ編集部
執筆
流石香織

記事内の情報は取材当時の情報です。

この記事は2025年9月24日に公開されたものです。

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