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2015.05.07  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

養豚農家の代表として

──現在の活動について教えてください。

大きな柱としては2つ。養豚業の「株式会社みやじ豚」の代表取締役社長としての仕事と、「NPO法人農家のこせがれネットワーク」の代表理事としての仕事があります。


──ではまず前者からうかがいたいのですが、株式会社みやじ豚とはどのような会社なのですか?

そもそもは養豚業が盛んな神奈川県藤沢市で野菜農家だった祖父が養豚を始めたのがスタートです。父の代で養豚専業農家となりましたが、最近まで地域の4軒の農家と共同で大きな養豚場を経営していました。その片手間に家業としても小さな養豚業を営んでいました。東京でサラリーマンをしていた私が実家に戻って養豚業に関わり始めたのは2005年で、翌2006年、私が代表取締役となり父の個人事業だった養豚業を母体として株式会社みやじ豚を設立しました。現在は家族5人で経営する、生産頭数は月に100頭という小さな養豚農家です。

おいしさの理由

──「みやじ豚」といえば肉好きの間ではおいしいと評判のブランド豚で、2008年には農林水産大臣賞受賞していますよね。おいしさの秘密は?

2008年に農林水産大臣賞受賞したみやじ豚のお肉

おいしい豚をつくるには「血統」「えさ」「ストレスフリーな育て方」の3つが重要な要素です。まず「血統」は「おじいちゃん豚とおばあちゃん豚のそれぞれ違った良さを引き継いだお母さん豚」と「また別の良さをもつお父さん豚」を掛け合わせた「三元豚」を使用しています。こうすることで3種類のよさをもつ豚を産ませるわけですが、この三元豚自体は一般的な農家が育てている豚で、珍しいものではありません。ただ、うちの場合は交配する際に、肉質の柔らかい豚が生まれるように、お母さん豚とお父さん豚を肉のつき具合はもちろん、歩き方までみてじっくり吟味しています。

2つ目の「えさ」は、一般的な養豚農家は豚にトウモロコシを与えていますが、うちではこうりゃん、小麦、大麦、さつま芋などの穀類・芋類を特別配合したえさを与えています。これはかなり特徴的で、こうりゃんを食べさせることができれば肉質のいい豚に育つのですが、豚にとってはこうりゃんは苦いらしく、普通の豚は食べないんです。なぜこれに成功できたかは、3つ目の「ストレスフリーな育て方」に理由があります。一般的な養豚場では血統のばらばらの豚を、豚なのにギュウギュウ(笑)詰めにして豚舎に詰め込んで育てていますが、うちでは同じお母さん豚から生まれたお互い気心の知れた兄弟の子豚たちを1つのグループとしてゆったりとした小屋で育てています。これを「腹飼い」というのですが、これにより豚は余計なストレスを感じずのびのびと育つことで、こうりゃんを食べるようになり、その結果旨味にあふれ、白くてきれいな脂肪をもつ肉質のいい豚になるというわけなんです。

育て方で味は変わる

──実質的にはエサの違いが一番の理由なのかもしれないけど、育てる環境が重要ということですね。

ストレスフリーな環境で育てられているみやじ豚

その通りです。同じ血統の豚を同じエサで育てても生産者の育て方によって味が変わるというのが養豚農家としてのうちの考え方です。環境が一番大事でいかにストレスなく育てるかが肝となる。ストレスの強い環境で育てられた豚の肉は臭いと感じたり、ゆでたときにアクがたくさん出ます。ご自宅でみんなで集まって豚しゃぶパーティーを開催するときも一般的な豚肉だったらアクを取るのにたいへんだったり、終わった頃には部屋の中が匂いでたいへんなことになったりしますが、うちの豚は臭みもないしアクもほとんど出ません。ちなみに現在でこそ畜産業界でストレスフリーという言葉は普通に使われていますが、こういうことを最初に言い始めたのはうちだと父は言ってます。ホントかどうか知りませんが(笑)

さらにおいしさの指標ともいえるグルタミン酸の含有量は、一般国産豚の2倍もあり、旨味が圧倒的に違うんです。また、冷凍保管中のドリップ量が23%少なく、凍結解凍時は50%も少ない。つまりおいしさが長持ちし、たっぷりと含まれた旨味を味わい尽くすことができるんです。もう一つ、みやじ豚は脂にも特徴があります。一般的な豚に比べ動脈硬化などの生活習慣病を防ぐオレイン酸が多く、逆に生活習慣病を引き起こすリノール酸の割合が低いんです。よくお客様から「こんなにうまい豚は食べたことがない」とか「豚の脂身がこんなに甘く感じたことはない」と言われますが、それが科学的にも証明されているわけです。研究と試行錯誤を重ね、ここ2年でも確実においしくなっていると思います。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.07 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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