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2015.05.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

一国一城の主の夢

──宮治さんが現在のような活動をするに至った経緯についてうかがいたいのですが、宮治さんご自身も以前は東京の大手人材サービス会社に勤務していたそうですね。なぜ会社を辞めて実家に戻ったのですか?

そもそもの始まりからお話すると、僕は小学生の頃から歴史小説が好きでよく読んでいました。その影響でやっぱり男として生まれたからには一国一城の主となり天下を取らなきゃいけないと思うようになりました。しかし今の時代、隣の農家に攻め込んでここはおれんちの領土だと占領するわけにはいきません(笑)。そこで現代の一国一城の主って何だろうと考えたとき、会社の社長だなと思い、高校生の頃には漠然と起業を志すようになりました。それで起業家を数多く輩出している慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの総合政策学部に入学して経営学を学びました。とはいえ在学中にいきなり起業というわけにはいきません。なにせ、自分にはそのような才覚も具体的にやりたいこともありません。取りあえず若いうちから裁量ある仕事を任せてもらえそうなベンチャー企業に入社して勉強しようと思い、人材サービス会社に就職しました。入社後は営業、企画、新規プロジェクトの立ち上げなどに従事しながら、毎朝、出社前にカフェでいろんなビジネス書や歴史小説を読みつつ、どんな事業で起業するべきかを研究していました。このときは実家の養豚業を継ぐなんてことは全然考えていませんでした。

僕にとって起業とは、自分の命と生涯を懸けてやり遂げるもの。その強い意志と覚悟がなければとてもできるものではないと思っていたので、必死で考えました。なぜ働くのか。何のために働くのか。その過程で、自分自身が農家のこせがれであることを改めて認識しました。子の代、孫の代まで存続させていく農業は男が一生を懸けて取り組む仕事だと気づき、実家の養豚業に関心が向くようになりました。それ以来、農業関係の本を片っ端から読みあさり、日本の農業の現状と課題について自分なりに勉強した結果、2つの大きな問題にたどり着きました。

解決策を考える

1つは農家に価格の決定権がないこと。もう1つは生産物が生産者の名前が消されて流通することです。この2つの問題を解決するためには何が必要なのだろうと考えていた時、大学2年生のときに実家で開催したバーベキューを思い出しました。そのときたまたまうちで育てた豚肉が大量に自宅にあって、家族だけではとても食べきれないから友人たちを呼んでバーベキューをやりました。うちの豚肉を頬張った友人たちは口々に「こんなにうまい豚は食べたことがない」と言い、やたら感動していたのを見て、20歳にして初めてうちの豚ってうまいんだと気づきました。でもその直後、友人から「このおまえんちのうまい豚肉はどこに行けば買えるんだ?」と聞かれた瞬間、頭の中が真っ白になりました。そんなことは今まで考えたことすらなかったので親父に聞いたら先ほど話した理由で親父もよくわかっていませんでした。

第1回REFARM会議で行われたみやじ豚バーベキュー

厳密に言えばどこどこのスーパーで何とか豚として売られているという程度まではわかるのですが、銘柄豚は基本的に周辺の養豚農家の豚肉が混ざっています。そのパックの中に入った豚肉の切り身が果たしてうちが生産した豚なのか、隣の養豚農家が生産した豚なのかは絶対にわからないようになっているんです。だからうちの豚はここで買えるから食べてねと自信をもっては言えないんですよ。それって仕事のやりがいを失っているということだと思ったんです。僕も4年3カ月人材会社で勤務していましたが、お客様からありがとうと言われるとうれしいし、それが大きなやりがいになっていました。でも一般的な農業の仕組みでは地域で肉を一緒にして市場にもっていって、あとはどう流通して誰が食べているのかわからないから、消費者からありがとうとかおいしいねとは絶対に言われないわけですよ。それでは仕事のやりがいが得られないですよね。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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