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2015.05.07  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

社長としての仕事

──株式会社みやじ豚の社長としては何を目指して日々どのような仕事をしているのですか?

僕の社長としてのミッションはみやじ豚のトータルのブランドイメージを作り、その価値を高めること。今までどういうふうに流通して誰が食べているかわからなかった当社の豚を「みやじ豚」としてブランド化を図り、流通の経路を変えて直販できる体制を作り、みやじ豚の知名度を上げ、コンスタントに買っていただけるファンを作る。この一連の仕組みを作るために、実家に戻って社長になって以来、さまざまな仕事をしています。

大人気のみやじ豚バーベキュー

具体的には、まずは僕が実家に戻った原点でもあり、最初にやったことでもある「みやじ豚バーベキュー」の企画があります。定期的に湘南の果樹園で行っており、父や弟などみやじ豚スタッフ総出の催しです。バーベキュー用の食材も機材も全てこちらで用意し、会場の準備や片付けもまで、みやじ豚スタッフが行います。お客様は手ぶらで来て、僕らスタッフと一緒にみんなで焼き台を囲ってワイワイ盛り上がりながら、おいしい豚肉が焼けるのを待ち、おいしく焼き上がったら心ゆくまで食べるだけです。

こうして一緒に盛り上がりながら、豚の育て方へのこだわり、肉のおいしさ、焼き方のコツなど、いろいろなお話ができるのもみやじ豚バーベキューの特徴です。これは僕たち生産者にとっての一番のメリットでもあります。食べ物って結局、実際に食べてもらわないと本当のところはわからないじゃないですか。バーベキューをやることによって消費者にその機会を提供することと僕ら生産者の思いを直接伝えることが同時にできる。これが本当の意味での生産者と消費者の顔の見える関係づくりです。そしてバーベキューに来てもらったお客様がみやじ豚を知って、好きになって、何かの機会にみやじ豚を買ってくれたり、みやじ豚が食べられるお店に行ってくれたりといい循環になればうれしいなと。そういう意味ではバーベキューを最重要視しているんです。また、大きなガラス張りのぶどう畑のハウスの中で行うので雨でも台風でも問題ありません。全天候型バーベキューです(笑)。


──バーベキューは参加者にとっていろいろなメリットがあることに加え、これまで何度もメディアで紹介されているということもあり、すごい人気でなかなか予約が取れないと聞きました。

おかげさまで現在は3ヶ月待ちという状況です。一時期は4ヶ月待ちでした。「みやじ豚といえばバーベキュー」というところまで認知度が上がってきているので開催頻度を増やしたいと思ってはいるのですが、なにせ5人の家族経営なので簡単に増やすわけにもいかず何かいい方法はないか、現在検討中です。

4つの出会いのシーン

──先ほど流通経路を変えたとおっしゃっていましたが、みやじ豚は他にどんな方法で食べることができるのですか?

顔が見えるお客様に買っていただく直販にこだわっているので、スーパーや肉屋などの小売店には一切置いていません。バーベキューの他には、うちのオンラインショップ、松屋銀座、飲食店のみです。バーベキューももちろん大事ですが、買える場所が限られているので、販路の拡大のため営業活動にも注力したいと思っています。ですが、現状はそこまで手が回らず、お客様やお取り引き先の口コミ頼みです(笑)。

大人気のソーセージとポークジャーキー。オンラインショップなどで購入できる

──みやじ豚のブランド価値を高めるために、ほかに力を入れていることは?

パンフレット制作にもこだわっています。昨年(2014年)結婚した妻にパンフレットやネットショップ制作に参加してもらっているのですが、例えば、先ほどお話したみやじ豚の優位性をデータでアピールするだけではなく、こんな特別なシーンで食べていただければうれしいとか、家で食べても匂いがつきませんよということを発信しています。そもそもうちは月100頭しか出荷できないから毎日食べてくださいとはいえません。でもだからこそ特別なときに食べていただきたいという思いを込めているんです。あとはお客様からいただいた声をたくさん掲載したり、生産者紹介もなるべく人となりがわかるような感じで書いたり。全体的なイメージもこのパンフレットをもらった人が手元においておきやすいように、写真じゃなくてあたたかみのあるタッチのイラストや書き文字をふんだんに使っていたりと、徹底的にお客様者目線で制作しているんです。それがみやじ豚のブランド価値を高めるためにかなり貢献していると感じています。

お客様目線で作成されているみやじ豚のパンフレット

「お客様は友だち」

──宮治さん個人の日々の仕事としてはどんなものがあるのですか?

僕は農業従事者ですが、養豚場に行って生産に関連する仕事をすることはまずありません。生産面は父と弟に任せておけば間違いなくおいしい豚を作ってくれるので。僕の仕事としてはみやじ豚を卸している飲食店からの注文の受け付けやこういった取材の応対など、細々としたことがたくさんあります。ただ、一つ言えるのが僕の場合は人に会うことが仕事みたいなものなんですよね。どういうことかというと、仕事って出会った人が運んできれくれるもの、縁で決まるものだと思っていて、肉は直販がメインなので、出会う人すべてがお客様になる可能性があるわけです。どんな人であれいい関係を築ければ、お肉を食べる機会にはみやじ豚を買っていただける可能性が高まります。だから僕の哲学は「お客様は神様ではなくてお友だち」なんです。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.07 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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