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2015.02.13  取材・文/山下久猛 撮影/ 守谷美峰

出張講座も

──KSELでのその他の活動について教えてください。

小学校への出張講座や理科実験教室で子どもたちに夢を語ったり、KSELの活動や理科についてわかりやすく教えている

柏の葉周辺の小学校や柏の葉高校、図書館などに出かけていって、自分の専門分野や身近なサイエンスにまつわる話をする出張講座も行っています。柏の葉周辺だけではなく千葉県内の他の地区や東京など遠方からの依頼も増えてきました。中でも多いのが、小学生を対象に、フラスコやビーカーなどを使って文字通り理科の実験を行う「理科実験教室」です。学校の理科の授業と違うのは、なるべく小学生が興味をもつような身近なテーマの実験を行うよう心がけていることですね。ご依頼いただく先生や職員さんもそれを期待しているように感じます。

地域密着と理科の修学旅行

──KSELの強みや特色は?

1つは「地域密着型」ということです。他の業界では「地域密着型○○」という活動や団体はたくさんありますが、サイエンスコミュニケーション業界では特徴的です。今は「地域密着型のサイエンスコミュニケーション団体」の代表格に成長しつつあるのではないかと自負しています。活動の拠点である柏の葉周辺地域では、この約5年間の地域に根ざした活動で周辺住民からの認知度がかなり高くなりました。イベントに参加したことのない人でもKSELという名前だけは知っているという人はかなりいるように感じています。街の中でイベントを開催したいときもKSELの子たちだからいいよと街の方が快く開催場所の使用許可をくださることもありますし、街中でイベントを行うといろんな方から声をかけてもらえるようになりました。このような実績が認められて、2014年には日本都市計画家協会の優秀まちづくり賞を受賞しました。

もう1つは自然体験活動を通じて理科を学ぶ合宿型の理科教室「理科の修学旅行」です。昨年は子どもたちとバスで新潟の苗場に行って日中は山の中を歩いたり、夜は焚き火をして星を見たりしながらサイエンスについて学びました。自然の中で五感を使ってサイエンスを学んでもらおうという試みです。子ども向けは過去に2回実施し、1泊2日の合宿に毎回40人ほどの子どもたちが参加しています。ちなみに小規模ですがKSELとは切り離して個人的に大人向けにも実施し、既に5回を数えています。

子ども向けのプログラムでは、現地での活動だけではなく、事前に学習会を開いて実際に行く場所で見られる自然現象と関係のある理科の知見を、専用の理科実験器具を使用した実験などを交えながら教えています。さらに帰ってきた後も、知識の定着や保護者への学習内容・現地での子どもたちの様子の報告を目的とした振り返り学習会を実施しました。この予習、本番、復習の一連の流れを通して体で学んだサイエンスが血肉になるわけです。この取り組みは、自然体験活動の企画力を競う「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」で2014年度の優秀賞をいただきました。

2014年の「理科の修学旅行」では苗場で炭焼き実験や星空観測などを行い、子どもたちは自然の中で身をもって科学を学んだ

参加した子どもたちの反応は上々で、みんな帰宅するとすごく楽しかったと親御さんに話し、そこからKSELのイベントに繰り返し参加してくれるようになる子たちが多いんです。KSELのイベントは団体立ち上げ当初から大人のリピーターが多いのが特徴でしたが、この「理科の修学旅行」以降は子どものリピーターもすごく増えました。

受賞に関しては他にも、KSELを立ち上げてすぐに東大の新領域創成科学研究科長賞の地域貢献部門や、世界三大奉仕団体の千葉支部である千葉キワニスクラブから教育文化賞をいただいています。ここまではKSELという団体やプロジェクト全体に対しての賞だったんですが、トム・ソーヤースクール企画コンテストで個別の活動に対しても賞をいただけたので、一つひとつの企画の練り込みができるようになってきたかなと手応えを感じました。

対象とする参加者を意識

──イベントの講師を務めるときに心がけている点は?

「これは誰のための企画なのか」ということをすごく考えて話を用意するようにしています。例えば小学生向けのサイエンスカフェなら小学生にわかりやすい言葉で話すし、マニア向けの企画ならマニアが喜びそうなディープな話をします。そのための準備ができるよう、イベントの申込み時には年齢、性別、興味の内容をアンケートに答えてもらっているんです。


──今まで一番印象的だったイベントは?

先ほどお話した「理科の修学旅行」は子どもたちも喜んでくれたし、私も手応えを感じられたので印象に残っていますね。もう一つは2012年に開催した「Xmas Science Festival」ですね。クリスマスに合わせて科学にまつわるさまざまなテーマのイベントを街なかの10数カ所で同時多発的に開催。街自体を会場にして、住民と一緒に、街全体を巻き込んでサイエンスのイベントができて、とても盛り上がりました。トータルで約5000人のお客さんがお越しくださいました。準備はかなりたいへんで当日もてんてこ舞いの忙しさでしたが、それだけに終わったときの喜びもひとしおでした。

町のあちこちでサイエンスのイベントを開催

──KSELの活動のやりがいは?

よく聞かれるんですが自分でもよくわからないんですよね。いつも目の前のことに全力投球していて、ひとつの事業が終わると次にまたやりたいことがあふれてきて、それらを順番に実現させている、という感覚です。


──イベントの参加者が喜んでくれたらやってよかったと思うのでは?

確かに思いますね。でも、参加していただいた方々に喜んでいただけるように、満足していただけるように企画を練り込んでいるつもりなので、参加してくださった方が喜んでくださったら私もうれしいですしよかったと思いますが、もう少し上を目指したいですよね。例えば街全体、社会全体が自分たちの活動を通じて変わりつつある、と実感できたとすれば、その時に一番のやりがいを感じられるのではないかと思います。

ただ、うれしい瞬間という意味で言うと、大きな企画をやりきったとき、その達成感はやみつきになりますね。

羽村太雅(はむら たいが)
1986年山梨県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程/KSEL創立メンバー

慶應義塾大学理工学部卒業後、「宇宙人を見つけたい」との想いを叶えるため東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 杉田研究室へ。専門は惑星科学、アストロバイオロジー。隕石の衝突を模擬した実験を通じて生命の起源を探る研究を続けてきた。研究の傍ら、2010年6月に柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)を立ち上げ、地域に密着した科学コミュニケーション活動を行なっている。その活動が認められ、日本都市計画家協会優秀まちづくり賞やトム・ソーヤースクール企画コンテスト優秀賞などを受賞。また「東葛地域における科学コミュニケーション活動」が2014年度東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞(地域貢献部門)を受賞。さらに単独でも多様な科学コミュニケーション活動を行なっている。国立天文台定例観望会学生スタッフ、宇宙少年団(YAC)千葉スペースボイジャー分団リーダーなども務めてきた。2015年3月卒業後は起業を予定している。ちなみに名前の「タイガ」は寅年生まれに由来する。

初出日:2015.02.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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