WAVE+

2015.02.13  取材・文/山下久猛 撮影/ 守谷美峰

人気テーマ

──特にたくさんの参加者が集まる人気のテーマは?

子ども向けのイベントはいつもあっという間に満員になりますが、大人向けで特に人気があるのは、宇宙と料理ですね。一般に、科学にまつわるイベントの参加者は大きく2つのグループにわけられます。科学マニアと普通の人(科学に興味はあるけれども、積極的にイベントに参加するほどではない方々)です。マニアに人気なのが宇宙ですね。専門家顔負けの質問が飛び交う光景をよく目にします。

それほど科学に興味のない普通の人向けの当たり企画が料理です。話をしてみると、料理は科学だと納得してくれる人はけっこういるんですね。イベントでは実際に料理を作ったり食べたりしながら、ちょっとだけディープな科学の話をします。料理も習えて、料理に役立つサイエンスの話もたっぷり聞けるので毎回好評で募集告知を出すとすぐ満員になります。

料理と科学が学べるサイエンスカフェ。料理教室なのに月のポスターが貼ってあるのが特徴的

──料理の回の参加者はやっぱり女性が多いのですか?

はい。女性が9割ですね。これも狙い通りです。というのは、一般的に科学にまつわるイベントの参加者はその多くが男性です。一方で子どもと接する時間は女性の方が長いケースが多く、女性の科学に対する興味や理解は子どもの教育について考える上で欠かせないテーマです。我々が子どもたちに向けてイベントでサイエンスの話ができるのはせいぜい2時間です。しかも、その中でいかに工夫してわかりやすく伝えて、子どもたちのサイエンスに対する意識や興味が高まったとしても、イベント終了直後から時間の経過とともに熱や興味、知識は失われていきます。

クッキングサイエンスカフェで作ったロールケーキ

でもお父さんやお母さんもサイエンスに興味をもてば、子どもが日常生活の中でサイエンスに触れる機会が増えます。例えば毎日の料理をするときでも、料理のサイエンスカフェで学んだことを子どもに話すことでサイエンスが日常の中に普通に存在することになります。それが高じれば、今度何か科学的なことを体験しどこそこへ行ってみようということになるかもしれません。

このように、子どもに対して24時間365日影響を与えられる親にこそまずサイエンスに興味をもってもらうことの方が有意義なので、これから親になる世代や今小さな子どもをもつ世代を対象にしたイベントを数多く実施しています。特に、一般的な科学イベントには集まりにくいけれども子どもに対する影響力の強い女性にもたくさん参加していただきたい。そう考えて作り出されたのが料理のサイエンスカフェというわけです。

高校生から社会人まで

──メンバーは何人くらいでどんな人たちなのですか?

現在、総勢20数人で活動しています。立ち上げ当初は私を含め東大の大学院生が3人、慶應大学の大学院生が1人でした。そこから東大の大学院生が増えて、柏の葉高校の高校生が加わり、さらに柏の葉周辺に住んでいる大学生や社会人も加わりました。大学院生は主に2年間で卒業してメンバーが入れ替わりますが、社会人が入ることによって団体のポリシーやノウハウを後々まで長く伝えていくことができるようになりました。社会人メンバーの職業はまちまちで博物館の学芸員や物理学の博士号取得者もいますし、一般企業の会社員も多いです。大学院生時代に中心メンバーとして活躍した後、卒業後に社会人メンバーとして継続的に活動に参加している人も多くいます。

KSEL初期のメンバー。現在は高校生から大学院生、さまざまな職種の社会人まで、年齢差最大約50歳の仲間たちが各自の能力を生かして活躍中

代表としての仕事

──羽村さんのKSEL内での役割と仕事について教えてください。

私は立ち上げメンバーとして加わり、2011年4月から2年間、2代目の代表を務めました。現在は後輩が4代目の代表として活動を主導しています。リーダーシップの在り方は人それぞれですが、私が代表の時に果たした一番重要な役割は、KSELの方向性を決めてメンバーを引っ張っていくこと。イベントのテーマを決めたり、メンバーミーティングのスケジュールを設定して議論を促したり、すべての企画・運営に関わるとともに、活動全体の方向性もまとめていました。その他には予算の獲得や後輩メンバーの育成、メディアの取材対応なども代表の仕事のひとつですね。

KSELは各メンバーが自分ひとりでは成し遂げられないことを、組織の力を使って実現するためのプラットフォームです。したがって、毎回の企画は代表から指示されて実施するのではなく、各人がやりたいことを提案し、共感して協力者として手を挙げた人と一緒に実現します。その企画を実現するために開催場所を押さえて、集客のためのチラシを作るなどして告知して、受付をして、イベント当日は講師を務める。この一連の流れを基本的には1?2人で行います。もちろん新人は先輩メンバーに助けてもらい、流れを学びながらながら実現させます。

一連の仕事が1人で全部できるようになるまで後輩を育てるというのも代表としての大きな仕事の一つでした。KSELに新しく入ってくるメンバーに「こうやったらいいよ」とか「あれやってごらん」とアドバイスして独り立ちさせます。もちろんこのような代表としての仕事をこなしつつ、自分も本業の研究を進め、KSELでは独自にイベントを企画して講師も務めていたのでけっこう忙しかったですね(笑)。

現在の役割

──現在はどういう役割でどんな仕事をしているのですか?

KSEL全体のマネジメントや後輩への声かけなどは、現代表が頑張ってくれています。したがって私は現代表が忙しい時にサポートをしたり、メンバーが新しい企画のアイデアに行き詰まっている時に経験を生かしてアドバイスをしたり、資金獲得やその他の業務に必要な書類を作成したり、外部から依頼された企画に対するクオリティコントロールを行なったりと、裏方の仕事に従事しています。もっとも、自分もメンバーの一人ですので、自分で何かやりたいことがあれば、企画を実現できるようにメンバーとしても活動しています。こうして並べてみると、アドバイザーとか指導役という感じで、代表だったころとやっていることはあまり変わっていないかもしれないですね(笑)。ただ、現代表が他のメンバーとコミュニケーションを取りながら引っ張ってくれているので、自分はいちメンバーに戻って、より好き勝手にやりたいことをやっている気がします。

羽村太雅(はむら たいが)
1986年山梨県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程/KSEL創立メンバー

慶應義塾大学理工学部卒業後、「宇宙人を見つけたい」との想いを叶えるため東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 杉田研究室へ。専門は惑星科学、アストロバイオロジー。隕石の衝突を模擬した実験を通じて生命の起源を探る研究を続けてきた。研究の傍ら、2010年6月に柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)を立ち上げ、地域に密着した科学コミュニケーション活動を行なっている。その活動が認められ、日本都市計画家協会優秀まちづくり賞やトム・ソーヤースクール企画コンテスト優秀賞などを受賞。また「東葛地域における科学コミュニケーション活動」が2014年度東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞(地域貢献部門)を受賞。さらに単独でも多様な科学コミュニケーション活動を行なっている。国立天文台定例観望会学生スタッフ、宇宙少年団(YAC)千葉スペースボイジャー分団リーダーなども務めてきた。2015年3月卒業後は起業を予定している。ちなみに名前の「タイガ」は寅年生まれに由来する。

初出日:2015.02.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

pagetop