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2015.02.13  取材・文/山下久猛 撮影/ 守谷美峰

研究とKSEL、二足のわらじ

──羽村さんの現在の活動について教えてください。

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程に在籍しており、専門領域は惑星科学、隕石の衝突を通じて生命の起源を探る研究を続けてきました。大学院は今年(2015年)3月に卒業予定です。

その一方で「柏の葉サイエンスエデュケーションラボ」(以下KSEL:ケーセル)を立ち上げて主に柏の葉周辺で科学教育活動などをしてきました。KSELは「科学コミュニケーションを通じて柏の葉地域での人と人との交流を促進する」ことをテーマにボランティアで活動しているサイエンスコミュニケーション団体です。


──KSELを立ち上げた経緯は?

そもそもは柏の葉周辺の街づくりに携わる方々に「地域を活性化したいから協力してほしい」と相談を受けたのがきっかけです。そのとき、元々私は教育関係に興味があったので、専門とする科学を切り口に何かできないかと考えました。ちょうどその頃、国立天文台で天体観望会に参加した方々に望遠鏡を覗いていただき、宇宙のことや星のことなどを解説する解説員のアルバイトをしていました。そのときに参加者と宇宙や星について話をするのがおもしろいと感じていたので、科学を通じて地域の人たちと交流したいと思いました。

そこで、相談を持ちかけた一人であり、都市計画を研究している大学院生に協力を依頼したところ、各所に声をかけて仲間を集めてくれました。そこで2010年6月に同じ東大の柏キャンパスと慶應義塾大学の大学院生4人でKSELを立ち上げたのです。

サイエンスカフェ

──KSELでは具体的にはどのような活動をしているのですか?

だいたい毎月1回、多い時は2~3回、サイエンスにまつわるイベントを開催しています。小学生向けの理科実験教室や、近隣の小学校・高校や図書館・博物館などへの出張授業、大人向けのサイエンスカフェや地域のマルシェ(市場)への出店など、活動の種類は多岐に渡っています。「サイエンスカフェ」という言葉は、科学好きじゃなければあまり聞き慣れない言葉かもしれませんね。一般の方はサイエンス、科学というと一部の研究者による高尚な学問で、難解かつ堅苦しいというイメージをもっているかもしれません。でも、そんなことはなく、実際はとても楽しいものなんです。そこで、サイエンスをもう少し身近に感じてもらうため、サイエンスについて気楽に語り合う会が全国で多数開催されています。こうした会のことを、サイエンスカフェと呼んでいます。 ですからサイエンスカフェという言葉の意味はとても広いんですよ。レストランやカフェでお茶やお菓子、お酒や料理をつまみながら科学の話をする会をサイエンスカフェと呼ぶことが多いですが、例えば講演会場を借りてセミナーという形でするのをサイエンスカフェと呼ぶこともあります。

お酒を飲みながら気楽に科学の話を聞く形式のサイエンスカフェ

KSELでは以前、駅前のカフェに科学の本を置かせていただき、多様な専門分野を持つメンバーがそれぞれ自分の得意分野の本を紹介するプロジェクトを行なっていました。そして、本を選んだ我々大学院生が近くにいるという利点を生かして、紹介しているうちの1冊を切り口に自分の専門とする科学・研究の話をする「だんらん」というイベントを定期的に開催していました。この「だんらん」のような形態もたくさんあるサイエンスカフェの形態のひとつです。現在は残念ながらカフェが閉店してしまったので本棚は撤去され、それに伴い「だんらん」も終了してしまいましたので、新たな連携先を探しています。


──現在は主にどのような場所でサイエンスカフェを実施しているのですか?

現在は東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライトの1階にある「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」や東大の前にある広い柏の葉公園、ららぽーとの中や街中のレストラン、マンションの共有スペース、スマートシティミュージアムなど、柏の葉周辺のさまざまな場所で開催しています。


──毎回のイベントはどんな感じで行っているのですか?

サイエンスカフェの形式はさまざまですが、KSELの場合は活動を通じて参加者同士、もしくは参加者とKSELスタッフやゲスト講師などとのコミュニケーションを活性化するということが目的なので、講師が一方的に話すだけで終わる講演会みたいなイベントは今までやったことはないですね。例えば2時間のサイエンスカフェなら前半1時間は講師が話したとしても後半は参加者みんなで輪になって意見や感想を交換したり、参加者が一緒に作業をするワークショップを行なうなどみんなが活発にコミュニケーションできるように工夫をしています。

料理をテーマにしたサイエンスカフェで、参加者と一緒に

幅広いテーマ

──サイエンスカフェのテーマはどんなものがあるんですか?

料理から宇宙や生命、地球環境や都市計画、スポーツ、バイオメカニクスなど多岐にわたっています。先ほどお話したように、基本的にKSELのメンバーのやりたいテーマで開催することが多いですが、2つほどいつも気をつけている条件があります。

1つはおもしろいかどうか。もう1つは「どういうサイエンスなのか?」を問いかけ続けることです。特に子ども向けのイベントの時には、子どもだましの工作教室、体験教室になりかねません。でも、科学というからには、扱うテーマは身の回りの不思議な自然現象と関わりがあり、その要因を解き明かそうと試みてきた歴史があるわけです。そこに焦点を当てて、科学の何たるかを少しでも実感してもらえるようにイベントを設計するよう、心がけています。KSELの中心メンバーである大学院生の強みは、学部生よりも特定の研究分野をより専門的に研究しており、深い知識をもっているということ。だからこそ、ただ科学は楽しいよという話や単なる科学工作に終わらないように、強みを発揮できるよう、専門分野を生かして科学的に深堀りできるイベントにしたいと思っています。

また、小学生向け、高校生向け、一般向けと年代によって内容を分けています。これは、年代に応じて知識も理解度も興味も異なるのに合わせて最適な内容で実施し分けることで、参加者の満足度を上げるための試みです。子どもと大人が一緒に参加できる親子向けのイベントもあります。例えば親子向けでは毎年夏にセミの観察会を実施しています。また、ある年の夏に柏の葉キャンパス駅前にいろんなお店が出店するイベントが開催され、そこにKSELもブースを出店しました。そのとき主催者が企画の一つとして作ったビアガーデンで、子どもたちも一緒になって楽しめるよう、ビールに見えるゼリーを作るワークショップを開催しました。大人はビールを、子どもはゼリーを片手に乾杯し、大いに盛り上がって大好評でした。

セミの羽化を観察

──イベントにもよるとは思いますが、参加者は何人くらいなのですか?

毎回異なりますが、20名程度の定員になることが多いです。会場の制約もありますが、コミュニケーションを円滑にしようと思うと、このくらいの人数が最適です。概ね毎回ほぼ定員に達しています。告知はKSELのWebサイトとFacebookがメインです。あとは過去に参加した人へ告知メールを送ったり、予算があるイベントはチラシを作って配っています。

羽村太雅(はむら たいが)
1986年山梨県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程/KSEL創立メンバー

慶應義塾大学理工学部卒業後、「宇宙人を見つけたい」との想いを叶えるため東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 杉田研究室へ。専門は惑星科学、アストロバイオロジー。隕石の衝突を模擬した実験を通じて生命の起源を探る研究を続けてきた。研究の傍ら、2010年6月に柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)を立ち上げ、地域に密着した科学コミュニケーション活動を行なっている。その活動が認められ、日本都市計画家協会優秀まちづくり賞やトム・ソーヤースクール企画コンテスト優秀賞などを受賞。また「東葛地域における科学コミュニケーション活動」が2014年度東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞(地域貢献部門)を受賞。さらに単独でも多様な科学コミュニケーション活動を行なっている。国立天文台定例観望会学生スタッフ、宇宙少年団(YAC)千葉スペースボイジャー分団リーダーなども務めてきた。2015年3月卒業後は起業を予定している。ちなみに名前の「タイガ」は寅年生まれに由来する。

初出日:2015.02.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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