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2017.04.03  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

社会をよりよく

──まずは甲田さんが代表取締役を務めるAsMama(アズママ)とはどのような会社なのかを教えてください。

甲田恵子-近影1

一番根底にあるのは「社会をよりよく変えたい」という思いです。私たちはすべての人たちの能力が最大限生かされることが、社会をよりよく、豊かにすると信じているので、「子どものために親が何かを我慢したりあきらめたりすることは仕方がない」という常識を壊し、誰もが育児も仕事もやりたいことも思い通りにかなえられる社会の実現を目指しているんです。そのためには、お互いが頼り合い、助け合える「社会共助」の実現が必要不可欠。小さな悩みから大きな悩みまで、困った時、自分の苦手なこと、自分では賄えないことを他人の力を借りて解決できる社会的インフラを作りたいと思い、これまで活動してきました。

そのために、誰もが子育てを頼り支え合える、子育てをシェアするという環境をつくりたいという思いで開発したシステムが「子育てシェア」です。子育てを支援したい人と、支援を求める人が安心・安全につながり、気兼ねなく頼ったり頼られたりするためのネットの仕組みです。子育てシェアのアプリをスマホにインストール、登録して、支援してほしい時に呼びかければ、予め子育てシェア内でつながりを作っておいた気心知れた知人の誰かが答えてくれます。子育てシェア内でつながりをつくるには、友達申請の承認時に相手の携帯電話の下四桁を入力するリクエストにこたえられなければいけない仕組みになっていて、知ってる人以外に依頼内容を知られることがないので安心。

「子育てシェア」アプリの登録画面

「子育てシェア」アプリの登録画面

支援してもらった人へのお礼は気兼ねしないように1時間500円からというルールを設けていますが、仲介料がかかるわけでもなければ当日、現金精算も可能なのでお互いの合意金額でも大丈夫。両者のお礼のやりとりはクレジットカードでもできるようになっているので支援してくれる人と顔を合わさないような送迎の依頼も可能ですし、「私が朝あなたの子どもを送っていくから、帰り私の子どもを迎えにいってね」みたいな感じだったらもうお金のやりとりはいいよねとなるケースもあります。

登録料・手数料は無料。私たちは、支援すること・されることによって利用者の生活を豊かにしたい、という思いから、子育て世代のユーザーから費用は一切いただいていません。にもかかわらず、万が一、重篤な事故を起こしてしまった時のために、子育てシェアを利用する全支援者に損害賠償責任保険を適用しています。

2013年4月のローンチからたくさんのママ・パパの支持を得て、現在は会員数4万5000人を突破しています。

"ありがとう"の等価交換

──子育てシェアを使うメリットは?

預けた方は「うちの子を預かってもらって本当に助かりました、ありがとうございました」と感謝するのはもちろんですが、預かった方も「いやいや、うちも来てもらってうちの子の面倒を見てもらって、その上お礼までいただいてありがとね」という"ありがとう"の等価交換、みたいなやりとりが多く飛び交っているんですよ。


──ありがとうの等価交換、すごくいいですね。

他の家のお子さんを預かると、自分の子どもに兄弟・姉妹体験をさせてあげられるんですよ。それに、子どもって1人より2人でいる方が勝手に遊んでくれるから楽ということもあるんですよね。


──確かに顔見知りとか会ったことのある人はそうでない人に比べて安心感が全然違いますよね。でも近所に知り合いがいないという人はどうすれればいいんですか?

そんな人たちのために、年間1000回ほど全国で親子交流イベントを開催したり、「ママサポーター」と呼称している共助支援者を育成しています。ママサポーターは当社で8~40時間の研修を受けた、いわばセミプロの育児支援者。研修では託児に関する基本的な知識やビジネスマナー、コミュニケーションスキルを学び、地元の消防本部で救命講習も受けてもらっています。その後OJTとして実際にAsMama主催のイベントや交流会にファシリテーターとして参加してもらい、合格した方がママサポーターとして認定されます。保育士など育児のプロも多数いるんですよ。

子育てを頼れる知り合いがいない人の強い味方・ママサポーター

子育てを頼れる知り合いがいない人の強い味方・ママサポーター

収益は企業の広報やマーケティング支援などから

──ビジネスモデルについて教えてください。先ほど子育てシェアの利用者からは一切お金を取らないということでしたが、では会社としての収益はどのように得ているのですか?

先ほどお話した年間1000回開催している親子交流イベントのうち、300回ほどは広報や宣伝、マーケティングをしたいという企業と協働していて、そこからいただく報酬がAsMamaの収益の柱になっているんです。具体的には、例えば来館誘致のためにエリアマーケティングを実施したい商業施設とか、生活や子育てに役立つ商品、商材を製造しているメーカーさんなど、いわゆる衣食住・健康・教育・就職支援を手掛けている企業さんが多いですね。ほかには、ここ1、2年は、集合住宅内で住人同士が子育てシェアを使って頼ったり頼られたりすることで暮らしやすさを支援するという共助コミュニティ創生を行う業務を受託する協働も増えてきました。取り引きさせていただいている社数は約250社。まだまだです。

地方自治体ともコラボ

甲田恵子-近影5

もう1つのビジネスとしては、地方自治体との協働があります。自分の市町村でも子育て世代を応援して彼らが暮らしやすい環境を作りたいとは思っているんだけど、予算の関係でもうこれ以上は多様化する子育て世帯のニーズに合わせて保育施設や病児保育、夜間保育などの託児支援サービスを提供するのは非常に難しい。そこでソーシャル・キャピタルとして市民1人ひとりや思いのある人の力を借りて何とか問題を解決したいと思っている自治体さんから、支援者の掘り起こしからきちんと地域のつながりを作るというところまで協力してほしいというお声がけをいただくことが多いですね。今、こういう問い合わせをたくさんいただいていますが、実際に動いているのは秋田県湯沢市と奈良県生駒市の2つの自治体です。

熊本地震でも役立った

──子育てシェアの近所の顔見知りでつながるという仕組みは災害時にも非常に役に立ちそうですね。

まさに熊本地震の時がそうだったみたいですね。地震発生直後はそこら中に潰れかけの家や危険な瓦礫が散乱していて、多くの人が子どもにケガさせたらどうしようという緊張感が漂う中で、被災地の掃除をしたり家の中のものを片付けたりしていました。そういう状況を目にした子育てシェアの会員が子育てシェアのような仕組みがあるということを個別に教えてあげてくださいと全国の会員さんに呼びかけたり、私たちにAsMama主導でもっと周知してほしいと連絡がありました。それで私たちは被災地で子育てシェアを使ってもらえる声掛けを強化しました。


──子育てシェアを開発する時、こういうことも想定してたのですか?

甲田恵子-近影6

防犯や防災インフラとしても活用できる、というのはイメージしていました。というのも、今は個人情報保護の関係で家庭間の連絡網がないという学校がほとんどなので、地震や不審者が出たという情報が出回ると、保護者は全員学校に連絡をするしかないんですよ。そうすると大きな災害が起こった時パンクしちゃうんですが、自分の子どもの所在や安否の情報は絶対に多角的に繋がっている方が早く入ってきます。それで、自分の子どもの命くらいは親のネットワークで守りたいと思って、子育てシェアは幼稚園・保育園・小学校の親同士は自動的にグルーピングされるような仕組みを導入してるんです。

甲田恵子(こうだ けいこ)

甲田恵子(こうだ けいこ)
1975年大阪府生まれ。株式会社AsMama 代表取締役CEO

関西外語大学英米語学科入学後、フロリダアトランティック大学留学を経て環境省庁の外郭団体である特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務に従事。2000年、ニフティ株式会社入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi group株式会社に入社し、広報・IR室長に。2009年3月退社。同年11月、33歳の時に誰もが育児も仕事もやりたいことも思い通りにかなえられる社会の実現を目指し、株式会社AsMamaを創設、代表取締役CEOに就任。2013年、育児を頼り合える仕組み「子育てシェア」をローンチ。多くの子育て世代の支持を得ている。著書に『ワンコインの子育てシェアが社会を変える!! 』(合同フォレスト刊)がある。

初出日:2017.04.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの