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2016.04.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

現状における課題

取材に来たタイの国営放送のスタッフと一緒に

取材に来たタイの国営放送のスタッフと一緒に


──では今の働き方や仕事に関して課題や問題は?

今は手を広げすぎちゃってやることが多すぎなので、正直もうちょっと絞っていきたいと思ってます。特に今は出版関係だけでも5、6冊同時進行でもういっぱいいっぱいで(笑)。何も考えずに来た仕事を全部受けるというのはフリーランスの初心者ならではの失敗ですよね。

ともすると働き過ぎちゃうんですよね。確かに並行してどこまでやれるか、自分の限界を探るというのも大事だけど、逆に失うものもあるなと最近、気づきました。だから、最近ようやく仕事を断ることができるようになったんです。例えば村上春樹について語ってくださいという取材や執筆依頼が毎日のように来るので、今は半分くらい断ってます。あと、去年はオシャレ雑誌のカフェ特集の依頼もすごく多かったんですが、勇気を振り絞って断ったんですよ。そしたらすごく楽になったんですよね。


──仕事を増やすことで失うものとは?

増やし過ぎると1つひとつの仕事の質が保てなくなりますよね。書く仕事も本来は1つに集中してじっくり作って、終わったら次に取り掛かるというのが理想ですよね。でもなぜかいつもある時期に仕事が集中するんですよね。イベントも異常に集中する週があるんですよ。おもしろいくらいリズムってありますよね。だからその辺をうまくコントロールしてやっていくのってすごくたいへんだと思います。まあ、それを乗り切るのが楽しいことではあるんですけどね(笑)。仕事の分量ってすごく重要なので、適度に仕事の量を配分するというのは今後の課題としてありますね。

もう1つは自分のモチベーションのコントロール。これも非常に重要ですよね。組織に属さず個人で働いている人は出勤の義務もないし上司や先輩もいないのでお尻を叩いてくれるような人は誰もいません。やる気の出ないときでも、時には自分が上司になって自分を動かさなければならない。いかに自分自身を操作するかが大事ですよね。例えばこれが終わったらご褒美にこれをやると、自分の鼻先にニンジンをぶら下げたりしてます(笑)。

第3の場所で第2の顔を持つ

──現在の人びとの働き方について感じていることは?

ナカムラクニオ 近影16

毎日6次元から中央線を眺めてるんですが、働き方は考えさせられることが多いですよね。朝夕のラッシュ時はものすごい人で、しかもよく止まってるんですよ。おそらく人身事故で。そういうのを見て、みんな働き過ぎだよなというのは日々実感しています。

あと、平日の昼間は堅い会社でサラリーマンをやっていて、休日や夜は6次元を使って何かをしたいという人が今、すごく増えているんです。家でも会社でもない第3の場所で第2の顔をもって活動するみたいな。昔はあんまりいなかった。それもすごくおもしろいなと感じています。

例えば、よく店に来る某デパートの社員はコーヒーを入れるのが趣味で自宅焙煎していて、それを人々にふるまいたいんですよ。だからカフェの1日店主になって自分が焙煎したコーヒーを淹れる会をやりたいから6次元を使わせてくださいとか。そういう人がすごく増えていて、会社員の夢を叶える場にもなっているんです。みんな、仕事とは別に何か好きなことをやりたいんだなと。生きがいを得るために、本職以外のもう1つの顔をもって生きるというのがこれからのトレンドになるんじゃないですかね。

もう1つは、最近みんなお金とか物に対する欲望、執着がどんどんなくなっていると実感しています。僕らが若いときは就職したら車や家を買いたいというのが普通でしたが、今の若い子たちは全然そんなこと思ってないんですよね。僕自身もだいぶ変わってきました。テレビディレクター時代は車もマンションも買いましたが、車は手放したし、いまさら不動産もほしいとは思いません。それより日々の暮らしが楽しい方が重要ですね。今テレビの仕事を受けた方が収入は何倍にもなるけど、テレビに戻りたいと全然思わないというのはそういうことだし、専門学校で教えているのもお金じゃなくて学生と触れ合うのが楽しいからやっているんですよね。収入軸じゃなくて好きとか楽しいという軸で仕事を選ぶというふうに、生き方、働き方をシフトしている人が多いんじゃないかなと感じています。

ニュータイプの寅さんを目指して

──生き方に関するポリシーはありますか?

ナカムラクニオ 近影17

僕は変化していくのが好きなんですね。以前、6次元に来た外国人に「ここは毎日来るたびに違うのはなぜだ? カメレオンカフェだね」と言われたことがあって、それがうれしくて。どんなに環境が変化してもそれに合わせて順応して生きていくことが重要で、それ自体が楽しいと感じる。だから一生変化し続けたいと思っているんです。

何かの本で読んだのですが、人には2種類いると。土の人と風の人。土の人は1ヵ所に定住したい人で、風の人は常に移動するのが好きな人。僕は完全に風タイプで移動して変化することに快感を覚える。一生ずっとふらふら移動、変化しながら生きるというのが一番自分に合ってると思うんです。常に新しい仕事を作りながら活動領域を広げていく。そういうふうに生きていければいいかなと思いますね。

理想にしているのがフーテンの寅さんです(笑)。トランク1つで全国を旅して生きていくというスタイルは、今流行りのミニマリストの理想形なんじゃないかなと。そういう生き方ができればいいですよね。だから僕も最近、荷物をものすごく減らしているんですよ。先週も、最小限の荷物だけを持って、金継ぎのワークショップで地方を転々としてました。そういう次世代型、ニュータイプの寅さんを目指していて、ここ数年でかなりイケるという手応えを感じてます(笑)。

リアルな村を作りたい

ナカムラクニオ 近影17

スペインから来た村上春樹ファンと

──これからやりたいこと、目標は?

会社員でもフリーランスでも働き方や生き方について悩んでいる人たちが、6次元のような場所を使って自由に小商いができるようなシステムを作りたいですね。6次元で何かをしたいという人がいたらすぐに受け入れてイベントを開催して、その企画者にもお金をちゃんと払える仕組みができればいいですよね。こういった雇用を生み出すイベントを増やして、もっとみんなにメリットがある働き方を開発していきたいんです。「内職ナイト」みたいな、何かを創る系のイベントで、みんなで一緒に創ってお金をもらえるようなイベントもあってもいいですよね。そういう小商いをうまくビジネス化していくことをどんどん実験的にやっていきたいと思っています。

また、コミュニティをゼロから創ることに興味があります。6次元は村みたいなもので、それを運営するのが楽しいんですが、その村を地方にリアルに作りたいと思っているんですよ。秋田にそういうことを実験的にやっている人がいて、お金を寄付すると村民になれて、いつでもそこに行けるというシステムなんです。これはおもしろいなと。

ナカムラクニオ 近影19

僕も東京で6次元をその第1号としてやってみて、うまくいったらそのノウハウを活かして地方とか海外でリアルな村を作ってみたい。特に国内には人口激減で廃村になりかけている村がたくさんあるから、行政や住民の皆さんと組んでうまく一緒にやれればなと。実際に、今、山形、八戸、大阪などで実験的に種まきをしているんです。数年後にはできるかなと踏んでます。どのみち6次元はもうかなり築年数が経っているので、この先何十年も使えるわけじゃない。数年後にはもっと発展した形で別の場所でやることになるでしょうね。

もう1つの夢としては、学校を作りたいと思っています。今でも6次元のイベントは学ぶ系のものが多くてお客さんもすごく集まるんですよ。今、多くの人の学ぶことに対する欲求がすごく高まっていて、お金を払うことをためらわない。だから大人の寺子屋的なものを作るのは今の自然の流れかなと。いわゆるカルチャースクールじゃなくて、6次元のようなゆるい空間で1回2000~3000円くらいで気軽に、楽しく学べる「夜の学校」みたいな感じがいいかなと思っています。今後、「大人の寺子屋」をどんどん発展させていきたいですね。

インタビュー前編はこちら

ナカムラクニオ

ナカムラクニオ
1971年東京都生まれ。ブックカフェ「6次元」店主。

高校時代から美術活動に取り組む。作品を横尾忠則氏に絶賛され、公募展に多数入賞、個展開催などアーティストとして頭角を現す。大学卒業後はテレビ制作会社に入社。「ASAYAN」「開運!なんでも鑑定団」、「地球街道」などを手掛ける。37歳の時に独立し、フリーランスに。NHKワールドTVなどで国内外の旅番組や日本の文化を海外に伝える国際番組を担当。2008年ブックカフェ「6次元」をオープン。その後オーナー業と平行してフリーのディレクターとして番組制作の仕事も請け負う。現在は「6次元」店主として年間200回を超えるイベントの企画、運営、執筆活動、出版プロデュース、大学講師、金継ぎ講師など、さまざまな仕事に取り組んでいる。執筆業では、+DESIGNINGで「デザインガール図鑑」、朝日小学生新聞で「世界の本屋さん」、DOT Placeで「世界の果ての本屋さん」、IGNITIONで「Exploring Murakami’s world」などを連載中。著作に『人が集まる「つなぎ場」のつくり方‐都市型茶室「6次元」の発想とは』(CCCメディアハウス)、『さんぽで感じる村上春樹』(ダイヤモンド社)などがある。

初出日:2016.04.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの