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2016.04.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

人との出会いが一番の財産

村上春樹作品の翻訳で知られるアメリカの日本文学翻訳家、ジェイ・ルービンと
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村上春樹作品の翻訳で知られるアメリカの日本文学翻訳家、ジェイ・ルービンと

チリの映画監督・アレハンドロ・ホドロフスキーと
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チリの映画監督・アレハンドロ・ホドロフスキーと

──6次元を立ち上げて一番よかったと思うことは?

僕が好きで会いたいと思っていた憧れの人が、向こうからお客さんとして来てくれることですかね。中には親しくなって個人的に付き合うようになった人もいます。テレビのディレクター時代にも有名人や芸能人にはたくさん会いましたが、あくまでも仕事上の付き合いで、ロケが終われば関係も終わりだったのですが、6次元みたいなレトロで家庭的な店をやっていると信頼してくれるんでしょうか、すぐ仲良くなっちゃうんですよね。

外国から6次元に来た村上春樹ファンたちと

外国から6次元に来た村上春樹ファンたちと

また、例えば出版のイベントをやったとき、担当編集者にこの人の本もすごく好きなんですよと話したり、twitterでこの作品が好きとかこの人に会いたいとかつぶやくと、何日後かに「じゃあイベントやりましょう」という連絡が来るんですよ。だからこの6年間くらいで憧れの人にほぼ全員に会えました。やっぱり一番よかったのはこれですね。人との出会いが僕の一番の財産になってます。

カステラの法則

あと、人だけじゃなくて仕事もそう。テレビの仕事をしていた頃は対外的にあんまり実名、顔出しはしてなかったんですが、フリーランスになってtwitterを本名、顔出しでやり始めたら急に仕事が来始めたんです。ロケついでに海外の本屋さんの写真をいっぱい撮ってきたから連載したいなとつぶやいたら、すぐ朝日新聞の記者から連載しませんかとtwitterでリプライが来て「世界の本屋さん」という連載が決まったんです。こんなふうにtwitterで仕事が来るんだ、おもしろいなあと思いましたね(笑)。

ソウルの書店でロケ中のひとコマ

ソウルの書店でロケ中のひとコマ

だから自分の好きな物やしてほしいことを自分からガンガン発信することが大事なんです。そうすれば向こうの方からやってくる。「カステラの法則」って知ってますか? カステラが食べたいって毎日会う人会う人に言っていると、絶対何日か後にカステラが確実にやってくるんです。これ本当なんですよ(笑)。日々実感していて、今はかなり意識してやってます。

これを僕の言葉で「好き好きマーケティング」って言っているんですが、好き好きって言い続けると絶対プラスに働いていくと確信しています。だって好き好きって言い続けると相手の人も絶対嫌な気はしないし。そのおかげでいいことがいっぱい起きているような気がします。こういうふうに日々働きながらうまいやりかたを学んでいってる感じですね。

結果よりもプロセス重視

──今の仕事の喜びはどういうときに感じますか?

ナカムラクニオ-近影12

僕はそもそも結果には興味がなくて、そこに至るまでのプロセスが好きで、途中で試行錯誤している時が一番幸せなんですよ。特にあえて困難なことにチャレンジして、クリアしていくのが好きなんですよね。テレビ時代からそうで、あえて取材拒否のところに何度も通って交渉して口説いて、取材許可を得られたとき、無常の喜びを感じるタイプなんです(笑)。でも取材と編集が終わったらもう興味がなくなる。

だから6次元もその困難をクリアしていくライブ感が楽しいんです。例えば以前、苔の本というすごくマニアックな本を作った編集者から、この本を売りたいんだけど何とかしてくださいって頼まれた時、うわ~苔か~これは集客難しいなあと思いながら、同時にどうやって売ってやろうかなってどこかでワクワクしている自分もいるんですよ。そういう無茶振りされるとうれしくなって、しかもそれが難しければ難しいほど燃えるという(笑)。厄介事や問題を解決することそのものが楽しいんです。

大盛況だった苔ナイト

大盛況だった苔ナイト

それでお客さんを集めて苔の本を売るためのイベント企画をいろいろ考えて仕込んで、知り合いのメディアの記者に今、苔ブームが来てるから取材に来てくださいと告知。事前にお客さんに苔っぽい服を着てきてくださいとお願いして、イベント当日、緑の服を着た人たちが用意しておいた苔ドリンクや苔スイーツを食べて苔を愛でてるというシーンを作りました。そういう絵はインパクトが強いから新聞も喜んで記事にしてくれるんですよね。その結果、イベントもすごく盛り上がったし、その記事が新聞や雑誌に載ったことで苔の本が2万部も売れたんですよ。そうやって苔ブームを作ったわけですね。

ときめきが大事

──働き方で大事にしていることは?

今は仕事は楽しくないと続けられないと思うので、自分がその仕事に対してときめくかどうかが重要ですかね。ときめきスイッチみたいなのってあるじゃないですか。その仕事に出会ったとき「来た!」みたいにときめく。それがあればいくらでも続けられるので、直感みたいなものを大事にしています。

そもそも働くこと自体、しんどいことの方が多いので、自分に合わない仕事をするのはつらいと思うんですよね。だからいかに早い段階で天職を見つけられるかが大事。テレビの仕事は天職だと思っていましたよ。でももう1つくらい一生を懸けられる仕事がしたいなと思ったので、今の働き方にシフトしたわけです。今の僕がやっている仕事も間違いなく天職ですね。特に金継ぎなんかは(笑)。(※金継ぎに関しては前編を参照)

──今は好きなことしかやってないという感じなんですね。仕事とプライペートの境は?

今はないですね。金継ぎのように元々趣味だったことが今仕事になっていますし。趣味を仕事化していくことにも興味がありますね。そういう働き方もできるんだということがわかりましたよね。こういうことって、会社員時代は考えたことすらなかったんですよ。仕事って上から降ってきて、有無をいわさずとにかくやらされるみたいな感じだったので。でも今は自分でいくらでも開拓できるんだって思いますね。

自分で仕事は創れる

──ナカムラさんは自分で仕事を創っていますもんね。

ナカムラクニオ-近影14

完全に自分で仕事は創れますね。仕事そのものを創るのっておもしろいじゃないですか。そういう仕事クリエイター、「創職系男子」を目指しているんです(笑)。これまでにない肩書きだって勝手に作っています(笑)。例えば、僕は出版業界の人間じゃないのに、最近本について取材を受けることが多くて、『フィガロ』という雑誌でも僕が本屋さんの未来予想について語っているんですよ。そういう依頼がものすごく多くなったのは、僕が本屋さんが大好きで詳しいという設定で今、いろんな媒体で連載をしているから。そういうことをしているから本屋さんが大好きで詳しいという設定になったともいえるんですが、そういう設定になると誰も疑問を抱かないのがすごくおもしろいなと(笑)。最近、勝手に肩書きを作れば何とかなるんだと思っているんです。

──自分で仕事を創るってすごいですよね。なかなかできない。どうすれば自分で仕事を作れるようになるんでしょうか。

本当に好きなことを貫き通すのが大事でしょうね。嫌いな仕事は創れませんから。

──好きなことをとことん極めるってことですか?

それが大事ですね。そして発信していく。例えば金継ぎでは、器のことに関して誰からどんなことを聞かれてもだいたい答えられます。極めていてそういう自信があるから金継ぎのワークショップをどんどんやれるし、多くの人たちが参加してくれるんだと思います。

ナカムラクニオ

ナカムラクニオ
1971年東京都生まれ。ブックカフェ「6次元」店主。

高校時代から美術活動に取り組む。作品を横尾忠則氏に絶賛され、公募展に多数入賞、個展開催などアーティストとして頭角を現す。大学卒業後はテレビ制作会社に入社。「ASAYAN」「開運!なんでも鑑定団」、「地球街道」などを手掛ける。37歳の時に独立し、フリーランスに。NHKワールドTVなどで国内外の旅番組や日本の文化を海外に伝える国際番組を担当。2008年ブックカフェ「6次元」をオープン。その後オーナー業と平行してフリーのディレクターとして番組制作の仕事も請け負う。現在は「6次元」店主として年間200回を超えるイベントの企画、運営、執筆活動、出版プロデュース、大学講師、金継ぎ講師など、さまざまな仕事に取り組んでいる。執筆業では、+DESIGNINGで「デザインガール図鑑」、朝日小学生新聞で「世界の本屋さん」、DOT Placeで「世界の果ての本屋さん」、IGNITIONで「Exploring Murakami’s world」などを連載中。著作に『人が集まる「つなぎ場」のつくり方‐都市型茶室「6次元」の発想とは』(CCCメディアハウス)、『さんぽで感じる村上春樹』(ダイヤモンド社)などがある。

初出日:2016.04.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの