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2014.05.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

留学先で衝撃を受ける

──留学してみてどうでしたか?

LSEは世界でもトップクラスの優秀な大学なのですが、学生はみんなとても自由に生きていて、衝撃を受けました。日本の大学の場合、就職活動の時期が来ればほぼ全員の学生が一斉にリクルートスーツに身を包み、50社100社は当たり前のように受けますよね。でもLSEの学生はそういう感じじゃなくて、研究したいことがあれば大学に残って研究したり、好きなことがあればそれを仕事にするために努力するということをみんなしてたんです。いわゆる就職活動というものが存在しなかった。それを目の当たりにして、この差は何だ、そして日本の就職活動っていったい何なんだと衝撃を受けたんです。

LSE留学時代(左から2人目が米良さん)

──確かに新卒一括採用は日本独自の採用システムですよね。

そうなんですよね。日本独自のシステムよりも世界のトップクラスのやり方に合わせた方がいいじゃないですか。だから自分がもう少し追求したいことがあるならやってみようと思い、就職するのはやめて、帰国後、慶應大学大学院のメディアデザイン科に入学しました。

スタンフォード大学へ

──留学したことも今の米良さんをつくる上でひとつの大きな転機となっているんですね。大学院に入ってからは?

大学院に入学してからも松尾先生の研究室に出入りしていたのですが、松尾先生がアメリカの学会に出席することを聞き、その後にITベンチャーが密集しているアメリカの情報・通信産業のメッカ、シリコンバレーに行くことを知りました。とても興味があったし、ちょうどゴールデンウィークの時期だったので、私も幾人かの学生と一緒に同行させてもらったんです。その期間中、いろいろな起業家と会って話を聞いたのですが、中には私と同世代なのにすごいことをしている人もたくさんいました。そういうライバルが身近にたくさんいるような環境に身を投じればすごく刺激になるし、成長の糧にもなるから私も大学院を修了したらここで勉強したいと思いました。

そのようなことを帰りの飛行機の中で松尾先生に話すと、「大抵の人はこれをやりたいとか言っても口だけで実際にはやらないんだよね」と言われて、絶対に留学してやるとさらに決意を固めました。帰国した日から留学の手続きを始め、大学院と交渉を重ね、翌月からスタンフォードに留学したんです。


──スタンフォード大学の授業はどうでしたか?

スタンフォード大学は周りにすごいと思うような刺激的な学生がたくさんいて、やはり留学してよかったと思いました。私自身も留学中にできるだけいろんなことを吸収しようと懸命に勉強しました。今でも忘れられないのが、あるときに受けたアントレプレナーシップの授業。講演をしに来た女性の卒業生が、私と年齢が変わらないのに「自分がつくった会社をグーグルに売却した」みたいな話を誇らしげに語り始めたんですよ。その話に大きな衝撃を受けました。

というのも、大学3年生の就職を考える時期にダニエル・ピンクの大ベストセラー『ハイ・コンセプト』を読んで、「これからは組織ではなく、価値を生める突出した個人だけが生き残ることができる時代だ」と書かれてあった内容にすごく感銘を受けて、以来私のバイブルになっていました。卒業生の彼女の「自分の能力を最大限に発揮して、自分のやりたいことで世界と戦ってナンバー1になるんだ」というような話を聞いた時、「これぞまさに私があこがれていた『ハイ・コンセプト』の世界だ!」と感動したんです。

と同時にすごく悔しい気持ちにもなりました。私と歳が変わらないのになんてすごいことをやっているんだ、それに比べてなんて私は小さいんだと。そう思わせてくれる人は日本にはいなかったので、私も彼女のようにただサービスをローンチして終わりではなく、社会を動かす人になりたい。日本でなんとなくWebサービスをつくってます、みたいなので終わりたくないと強く思ったんです。

クラウドファンディングとの出会い

それで、さらにインターネットやビジネスについていろいろ勉強したのですが、その過程でクラウドファンディングに出会いました。当時、ちょうどアメリカでクラウドファンディングがはやり始めた時期で、200ほどのサイトが生まれていました。この中に私がチアスパの経験で抱えた問題を解決できるヒントがきっとあると思い、帰国して東大の松尾先生の研究室の人たちとさっそく新しいクラウドファンディングサービスの設計に取り掛かりました。

研究・分析を繰り返し、クラウドファンディングサイトをコミュニケーションやお金の流れなどの視点で「購入型」「投資型」「寄付型」の3つに分類しました。寄付型はチアスパと同じなので、最初から除外しました。投資型はまだ日本でやるには現実的ではないと判断。購入型は、やりたいことのために資金募集をする人が、支援してもらったかわりに、支援者に何か利益になるようなことをお返しするシステム、つまり、支援者はお金を寄付するんじゃなくて、何かを購入することで支援するという感覚のシステムは双方にコミュンケーションが生まれるし、やりたいことを実現する可能性も高まるので非常におもしろいなと。それで購入型のクラウドファンディングサービスを立ち上げようと決め、試行錯誤の末、大学院在学中の2011年3月末にREADYFOR?を立ち上げたというわけです。


──今仕事をする上で特にたいへんだと思う点はどんなところですか?

ワークショップ中の米良さん

自分をマネジメントするのが一番たいへんですね。書類作成のような地味な仕事から講演やワークショップのような刺激的な仕事までいろいろあって、一つひとつの仕事に対する向き合い方が全然違うんですね。だから仕事によって自分の気持ちをうまく調整・切り替えをして、その仕事に向き合うことがたいへんだと思います。例えば講演をするとアドレナリンが出てテンションが非常に上がるので、その後すぐにルーティーンの事務作業にとりかかるのは難しいんです。その切り替えがうまくいけばもっと早く仕事ができるはずなんですよね。1日の時間をもっとうまく効率的に使うためにはどうすればいいのかが目下の私の大きな課題のひとつです。

また、ルーティーンの仕事は基本的に集中していけばいくほど速度も精度も上がりますが、READYFOR?の統括責任者としてチーム全体を把握しないといけないので、そのバランスも難しいですよね。そういう意味でマネジメント層の人たちはもっと私よりたいへんだと思います。タスクによってレイヤーが違う話を瞬時に把握するのってきっとすごくたいへんな仕事だろうなと。私もそれが完璧にできるようにならなきゃなと思っています。

米良はるか(めら はるか)
1987年東京都生まれ。READYFOR?代表/オーマ株式会社取締役

慶應義塾大学経済学部に在学中、「あのひと検索スパイシー!」の開発に携わり、「あのひと応援チアスパ!」を立ち上げる。卒業後は、2012年同大学院メディアデザイン研究科に進学。米スタンフォード大学に留学し、クラウドファンディングサービスの研究に没頭。帰国後、2011年3月、日本初のクラウドファンディングサービスREADYFOR?を立ち上げる。以後、READYFOR?の統括責任者としてチームを牽引、日本最大のクラウドファンディングサービスにまで育て上げる。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、日本人史上最年少でダボス会議に参加。「国・行政のあり方に関する懇談会」のメンバーも務めている。

初出日:2014.05.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの