WAVE+

2013.12.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

震災で人びとの働く意識が変わった

スタッフ全員が秋好さんの掲げるランサーズのビジョンとスピリッツの下、一致団結して尽力してきた結果、現在の成長を成し遂げた


──ではランサーズがビジネスとして軌道に乗ったと思ったのはいつ頃ですか?

確信めいたものは最近ですね。立ち上げてから今まで、ランサーズに社会的な潜在ニーズは絶対にあると信じていましたが、どうやって成功させるか、このやり方で本当にいいのかと悩みながら試行錯誤を繰り返してきました。方法論の部分では確信は持てなかった。そこはいまだに不安で悩んでいます。経営者って人一倍不安症だと思うんですよね。ただ、もう一方でもっと伸びるという可能性は感じていて、そのためにどうするかを日夜考えているわけです。

ひとつの契機としては2011年に起こった東日本大震災があります。震災からしばらくは企業は節電のため、工場を平日の日中は止めて、深夜や土日に稼働させました。また、社員に自宅で仕事をするテレワークを命じた企業も多かった。これらによって、働く人のシフトチェンジが起こりました。また、首都圏では会社からの帰宅困難者がたくさん出たため、住む場所について改めて考えた人もたくさんいたでしょう。企業も個人も時間と場所にとらわれない働き方に対してこれまで以上に興味を示し、理解も深めたと思います。

さらに2012年に政権が自民党に戻り、テレワーク、女性の働き方、シニアの再雇用といったアベノミクスで多用されたワードに、時間や場所にとらわれない働き方ができるというクラウドソーシングが提供できうる価値がリンクし、注目が集まりました。また、近年ではパナソニックやNTTなど誰もが知っている大企業がランサーズ上に増えてきました。

こういったことが追い風となり、最近では依頼総額や登録案件数が前月比130%の伸びで急成長しているのだと思っています。

つくる人をつくる

人材育成に力を注いでいる秋好さん

──秋好さんご自身の働き方についておうかがいしたいのですが、秋好さんはランサーズの経営者として日々どのような仕事をしているのですか?

経営者として最も重要な仕事、ミッションは会社を成長させていくためのビジョンをつくり、達成するための経営戦略、戦術を考えることです。もうひとつ重要なのは組織づくりですね。立ち上げ当初は2人しかいなかった社員も現在では40数名に増えたので、少ない人数なりにある程度指揮命令系統を作っていかなければなりません。情報共有の仕組みづくりやマネジメント層の育成、人材採用なども大切な仕事です。

今までは自分がプレイヤーとしてランサーズのシステムをつくっていましたが、今は「つくる人をつくる」のが僕の仕事。自分自身が手を動かすのではなく、実務をしてくれる人や僕が現場に入らなくてもうまく回る組織をつくるというタイミングに来ていると思っています。もちろん現場にはノータッチというわけではなく、新しいサービスやプロダクトをつくる際の意思決定はしています。


──1週間のスケジュールはどんな感じなのですか?

平日は朝9時に出社して22時くらいまで、遅いときは1時くらいまで会社で仕事をしています。平日はほとんど1日会議で埋まっています。ただ、先程も言いましたが、中長期的な戦略を考えるのが社長の大切な仕事なので、意図して水曜の午後は会社に来ないと決めて、近くのカフェでひたすら中長期の戦略を考えています。


──休日は土日ですか?

実は土日も働いているんですよ。イベントに登壇したり、経営会議に出たり。日曜は社長室のメンバーと戦略を考えています。1日仕事関係のことを何もしないという日はほぼないですね。でもそれが経営者というもので、基本的にやりたいことをやっているので苦ではありません。

考える時間がほしい

──では現在の働き方には満足していますか?

中長期的な会社の経営戦略やサービスの未来を考えるためには、ある程度の時間的余裕がないといいアイディアが生まれません。また、新しい働き方を作るというミッションを実現する過程では課題も当然たくさんあって、それをクリエイティブに解決していくためには同じく余裕が必要です。

しかし、先程もお話したように、現状はいろいろな業務でキツキツであまり新しいことを考える余裕がないので、常に半分くらい脳みそを自由にさせておきたいですね。例えば週の半分は出社しないでずっと考えるというくらいの働き方ができるといいなと思います。

そのためには僕と同じレベルで思考し、仕事ができる人間を増やしていくことが必要不可欠なので、今それに取り組んでいるところなのです。以前お話した社員合宿もその一環です。

仕事の上に私生活がある


──ほとんど休んでいないという秋好さんですが、ワークライフバランスに関しては思うところありますか?

私生活が充実するためには仕事もある程度充実することが不可欠だと思っています。「仕事が全然うまくいってないけどプライベートは最高です!」という人はほとんどいないんじゃないでしょうか。ですので、私の場合は、仕事と私生活の2つが横に並んでバランスを取るというよりも、仕事の上に私生活があるというような感覚です。

秋好陽介(あきよし ようすけ)
1981年大阪府生まれ。ランサーズ株式会社代表取締役社長。

20歳のときに初めてPCを購入し、自力でホームページを制作。以降、広告収入や受託開発などインターネット関連ビジネスで個人事業主として年間数千万円の収入を得る。2005年、ニフティ株式会社に入社。Webプロデューサーとして複数のインターネットサービスの企画運営を担当。2008年4月ニフティを退社し、起業。同年12月に「時間と場所にとらわれない新しい働き方」の創出を目指して国内初となるクラウドソーシングサービス「ランサーズ」を立ち上げる。現在では同種のサービスがいくつか存在するが他の追随を許さないほどの圧倒的シェアを誇る。2013年1月、日本テレワーク協会「第13回テレワーク推進賞」の会長賞受賞。

初出日:2013.12.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの