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2015.04.21  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

具体的なソリューション

──具体的には企業にどのようなソリューションを提供しているのですか

亜基 基本的な考え方は、「健康教育+適切な機会」の提供です。「健康教育」とは、従業員向け食育ワークショップや社員食堂シェフ向けトレーニングなどが挙げられます。「適切な機会」とは、社員食堂における有機野菜サラダの提供や、健康的なメニュー開発など、従業員が健康教育で得た知識に基づき、より健康的な行動に移す際の機会と考えることができます。例えば、私どものお客様の一つでもあるのですが、約3万人の従業員を抱える電子機器メーカーから社員食堂改革を任された際には、従業員向け食育ワークショップと一緒に、有機野菜サラダバーを設置しました。タイ料理は大量の油や砂糖を使ったメニューが多いので、脂質の吸収を抑える効果のある生野菜を食べてもらおうと思ったからです。ただ「サラダ」という形式で野菜を食べる習慣がないために、まだまだ工夫が必要で、現在も同社の副社長や社員食堂責任者などとともに話し合いを重ねながら改良をしています。

また、「職場におけるヘルスステーション」というコンセプトも今後重要視していくソリューションの一つです。タイの工場の中には、社員食堂や社内コンビニがある会社も多く、従業員が毎日訪問する場所の1つとなっています。そこを「社員と健康を繋ぐ場所」として位置づけ、健康的な商品(野菜ジュース、低糖ヨーグルト、無糖のお茶等)や健康機器(体組成計や血圧計等)を用意することで、各メーカーにとっては、健康的な商品の認知度向上や職域販売につなげると同時に従業員を健康にしたい企業にとっては健康的な企業風土を醸成していくことができる取り組みとして力を入れています。


──Marimo5という社名の由来は? 北海道のあのマリモから来ているのですか?

亜基 そうです。マリモはきれいな水と空気と太陽の光が注ぐ所でしか育たないすごく貴重な生物で、元々私たちが扱っていた野菜や米やフルーツ、また今の事業でいえば、私たち人間が働く職場にこそマリモが育つような環境が必要だというところから名づけました。「5」は初期メンバーが5人だったことを忘れないようにとつけました

仕事のやりがい

──現在の活動のやりがいは?

 一番大きなやりがいはやはり、私たちの活動がタイヘルスの方向性と合致した形で、タイ人の職場健康づくりに貢献できているということですね。特に、Happy Workplace Programを企業の経営戦略の一部として位置づけて、経営陣と従業員が共により良い会社を創り出していくためのお手伝いができるということはとても嬉しいことです。

また、現在は、Happy Workplace Programの普及・推進をタイ中心に行っていますが、今後はアジア、そして世界に広めていくという前提で取り組んでおり、その方針に連動する形で、Marimo5としてもより充実した職場における健康教育プログラムやサービス開発を考えています。常にグローバルな視点を持ちながら仕事ができていることも大きなやりがいですね。私は元々海外志向が強かったので。

亜基 肥満の人は体のどこかに不調を抱えてつらそうな人が多いのですが、例えばある肥満の人からプログラムを3ヶ月ほど体験した結果、体重が5キロ減って手すりなしで階段を上がれるようになってうれしいという言葉を聞くと、本当にこの仕事をやっていてよかったなあと思います。

また、私たちは描いている世界がすごくクリアなので、そこに共感をして集まってくれている人たちとの時間がすごく幸せなんですよね。

夫婦で共有している最終的なビジョン

──描いている世界とは具体的には?

亜基 「働く人々が、職場を活用して健康を維持でき、自分のことを好きでいられる状態」です。そういう世界を作りたいので、私たちと同じ想い・願いを持っている企業の社長などと出会えると本当に幸せだなと思います。

従業員の健康と幸せのために一緒に頑張ろうと言ってくださる方々との時間ってすごくエネルギッシュですばらしいものです。そして、同じビジョンを共有し、同じ未来を見ている方々と行動し、今まさに物事が動いていく、状況が変わっていくということを体感できていることもすごく大きなやりがいだし、本当にいい仕事を見つけられてよかったなとつくづく感じています。もっとも大変なことの方が圧倒的に多いですけどね(笑)。


──そのたいへんなこと、つらいことは具体的には?

亜基 本業がある中で、従業員の健康づくりに積極的に取り組みたいと私達の活動に理解・共感してくださる経営者の数は、全体の数に対する割合でいくとまだ少ないことですね。


──理解されないことが続くとモチベーションが下がったりはしないのですか?

 いえ。理解されないことに関して落ち込むということはないですね。「Happy Workplace Program」や「職場健康づくり」という考え方は、新しいコンセプトなので、無理に導入していただくというよりも、理解、共感してもらえる経営者の方々とムーブメントを作っていくことを優先させたいと考えています。数年後には、Happy Workplace Programがアジアの代表的なモデルとなり、経営者であれば誰もが従業員の健康、そして自分自身の健康にしっかりと投資できる環境づくりを目指しています。

大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表

株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。

大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー

大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。

※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定

初出日:2015.04.21 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの