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2015.04.13  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

タイでのつらい日々

──実際にタイに移住してみてどうでしたか?

亜基 移住して最初の1ヶ月は本当につらかったです。大好きな仕事に打ち込んでいた生活から一転して何にも予定がない生活になったわけですからね。社会との接点がない、誰のお役にも立っていないということが一番のストレスでした。タイ語も話せないし、もちろん現地の友だちもいない。さらに私は元々1人で出歩くことが好きではなく、誰かと一緒に何かをしたいというタイプなので、家から一歩も出ない日が続きました。1日が本当に長かったです。

 妻のつらさは何となくは感じていましたが、海外での生活は、最初は、誰でもそうだとも思いました。ただ今振り返ると、やっぱり最初の頃は些細なことでの口げんかもたくさんあったような気がします。

亜基 タイに来て少ししては私は夫に手紙を書いたんですよ。「私はここにいても全く何の貢献もできないし、ここにいる理由を見出だせないので日本に帰った方がいいのではないかと思います」とけっこう切実な思いを。彼は彼で仕事がとても大変そうだったので、仕事終わりや休日に私の悩みを長々と話すことははばかられたので、日中、湧いてきたつらい思いをそのまま手紙に書いて渡していたんです。彼はあまり覚えていないようですが(笑)。

 覚えていないんですよね(笑)。読んでいないことはないと思うのですが、私の方も最初にお話した通り、最初の1、2年は、タイでの仕事も生活も何とか良いものにしたいと必死でしたので、ネガティブなことをいちいち気にしなかったのだと思います。私自身は、上手くいかないとは全く思ってもいませんでしたし。ただ、妻は、人の世話をすることが好きですし、食や栄養に関する勉強も日本でしていましたので、「そういうことを活かせるボランティアをまずは探してみたら?」というようなことを言った記憶はあります。

アショカ財団との出会いで苦境を脱出

──そこから何か進展はあったのですか?

亜基 幸いにもLearning Across Boardersという大学生向けのスタディツアーに参加する機会を得ました。

そのスタディツアーのプログラムの中で、社会起業家支援を行うアショカ財団のタイ支部を訪れたのですが、そのときなんて素敵な活動をしている組織があるんだろうと感動しました。そして、何ができるかはわからないけど私も彼らと一緒に活動したいと強く思い、翌日、ぜひアショカ財団でボランティアをさせてほしいというメールを送ったら、「OK、すぐに来てください」と了承の返信が来たんです。それからアショカ財団に通い、Youth Ventureという若者向けプログラムの参加者にPRに関連するノウハウをレクチャー、アドバイスするようになり、元気になっていったんです。それが2008年2月頃ですね。

大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表

株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。

大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー

大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。

※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定

初出日:2015.04.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの