WAVE+

2015.11.16  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰 イラスト/フクダカヨ

公共的なプロダクツに興味

細谷らら-玉井美由紀-近影1

玉井 なるほど。やっぱり最初から二次元じゃなくて三次元、立体系のデザインに興味があったんですね。

細谷 そうですね。でも当時から色とか素材とか表面を意識してたわけじゃ全然ないんですよ。もちろん当時はCMFという言葉もなかったですし。でも、学生時代に手掛けた作品で、色や素材の力で空間がこんなに変わるんだと感じたモノがあるんです。大学3年生の時、大学近くの病院に行ったときに、白基調で緊張感があって、少し寒々しい空間だと思いました。それで人にとって心地よい空間にするための家具を数人で考えて、提案しました。

玉井 どんなふうに提案したんですか?

細谷 寒々しいスチール製のベンチを温かみのある木製にして、単色でキチッとした規則正しく張られた張りぐるみをやめ、ベンチの上にすべての形の異なるカラフルなクッションをたくさん並べました。

玉井 学生時代からパブリックな家具、個人の家よりも公共性のあるものに興味があったんですね。

細谷 そうですね、当時は何も意識していませんでしたが。うれしいことに、医師や患者さんに好評で。人が留まる空間になりました。こういう、その空間に漂う緊張感を少しでも和らげるようなデザインを通して、私がやりたいのはこういうことかもと考えるようになったんです。

玉井 それで数あるプロダクトの中で家具のデザインをしたいと考えるようになったのですか?

細谷 当時同級生の多くは家電のデザインを志望していました。私もいくつかのメーカーのインターンに行ったのですが、モノによっては3ヶ月で新しいデザインに変えることを知り......それよりは人に長く愛着をもって使ってもらえる製品サイクルの長いモノを作りたいなと思い、今の会社に入社しました。最近では、素朴な素材感を追求した化粧板や触り心地のよいデニム調のニット布地をデザインしました。

細谷さんがデザインに関わったオフィスシステム「PRECEDE(プリシード)」

細谷さんがデザインに関わったオフィスシステム「PRECEDE(プリシード)

クリエイティブファニチュア「Alt Piazza(アルトピアッツァ)」

クリエイティブファニチュア「Alt Piazza(アルトピアッツァ)

女性ならではの葛藤

細谷 玉井さんの前回のインタビューを読んで、会社を辞めるときにすごく悩んだというお話(※)がありましたが、女性特有のものですよね。
※詳しくはこちら→https://www.okamura.co.jp/magazine/wave/archive/1306tamaiA_4.html

玉井美由紀-近影2

玉井 そうですね。やりたい仕事に打ち込んでいる女性って、30代の前半までは自分のキャリアアップに一所懸命でそこにすごく集中するんですよね。でもある程度キャリアが積めてきて、そろそろ次のステージに行こうというタイミングで「あれ? 次どうしよう」みたいになるんですよ。私も30歳くらいのときはとにかく覚えたいことがいっぱいで仕事に集中して、仕事が楽しい! みたいな感じで、毎日が楽しくて先のことなんて全然考えてなかったのですが、35歳前後で突然「あれ?」ってなったんですよね。女性に組み込まれてるんじゃないですか、そのタイミングが。子どもを産むならそろそろだよ、みたいな。

細谷 ふと周りを見渡したら、みたいな?

玉井 いえ、周りの人がどうしようが全然関係ないんですよ。次のステージに行こうと思ったらまた4~5年かけて新しいことを覚えないといけない。そうすると40歳を過ぎる。そうなったら子どもを産むタイミングなど色々難しくて。子どもを育てながらこの会社でキャリアを積むことは、当時はロールモデルもいなかったし考えにくかった。それで本当にいいのかということですごく悩んだんです。ららさんはまだ29歳だから実感はないでしょうね。

細谷らら-玉井美由紀-近影2

細谷 私はまだ全然考えられないですね。結婚も出産も、リアリティが全然ないです。今はデザイナーとしてレベルアップしながら、日々楽しむことしか考えていません。

玉井 そうでしょうね。30歳くらいのときの私と同じです。女性はいろいろな適齢期もありますし、結婚して例えば夫が海外転勤になったりすると、大体の人は自分が好きでやりがいを感じて仕事をしていても辞めてついていきますよね。そういうことも含めて結婚、出産、キャリアというのが30代中盤から後半になるタイミングで考えだすんじゃないですかね。

細谷 なるほど......。

玉井 私はその辺を考えて、会社を辞めて独立という道を選びましたが、子どもを産んで育てようと思ったら会社に残るのもいいと思いますよ。産休や育休という手厚い制度を利用した方がいいに決まってますから。だけど、フルタイムで働けないために、能力は高いのに会社でのキャリアが伸びなくなってしまう。それはちょっと違うなと思ったんですよね。

玉井美由紀(たまい みゆき)

玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD CREATION代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業後、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。2007年、表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD CREATION」設立。さまざまな企業から依頼を受けての商品開発や、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイン・コンサルティングなどを通じて日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。


細谷らら

細谷らら(ほそや らら)
1985年神奈川県生まれ。株式会社岡村製作所 CMF推進室 デザイナー

筑波大学芸術専門学群デザイン専攻プロダクトデザイン領域卒業後、株式会社岡村製作所へ入社。プロダクトデザイナーとして商品開発に携わる。玉井さんとの出会いでCMFの重要性に気づき、2015年からCMF専門のデザイナーとして商品開発に取り組んでいる。


初出日:2015.11.16 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの