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2015.08.17  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

人生を変えたシリアでの経験

──シリアでの活動で得た収穫は?

小沼大地-近影3

僕の人生を変えるほどのたくさんの収穫がありましたが、一番大きかったのは、働く喜びや幸せの価値観をシリアの人たちに教えてもらったということですね。シリアに行く前は、いい学校に行っていい会社に就職すれば幸せになれるという価値観や、経済が発展している富める国が貧しい国を救ってあげるという図式でしか世界を見ていなかったのですが、それが見事に壊されたんです。

実際、最初は「よし、困っているシリアの人たちを助けてあげるぞ」という気持ちで行ったのですが、逆に助けられることの方が多かったし、僕たちより彼らの方が幸せそうに暮らしていることに衝撃を受けました。仕事に関しても、何のために働くかという「働く意義」をしっかりと自覚していて、多くの人が、生き生きと自分の仕事の意味について語っていました。そんな彼らを見て、価値観やものの見方が逆転したわけです。確かに経済的な軸だと日本が優っているけれど、幸せ軸ではシリアが完全に上だと感じました。そのとき、正しいことというのは1つじゃないし、価値観の物差しは沢山あるんだなと思ったんです。

もう1つ、赴任先のNGOで、ドイツの経営コンサルティング会社からプロボノとして派遣されてきたドイツ人経営コンサルタントたちと出会ったことも、その後の僕の人生に大きな影響を与えました。僕は教師になるつもりだったので、ビジネスには全然関心がなく彼らの役割も知りませんでした。でもそのドイツ人たちはコンサルタントとしてのスキルを使ってNGOの経営課題を次々と解決していったんです。その光景を目の当たりにしたとき、ビジネスというものが社会貢献や国際協力の世界でも価値を発揮できるんだと衝撃を受けました。

そして、はじめはクールに仕事をこなしていたコンサルタントたちも、現地の情熱あふれる人たちとともに社会課題に向き合ううちに、その情熱が伝播して、彼らもまたより目を輝かせて仕事をするようになっていったんです。そんな彼らの様子を見て、「ビジネスと社会貢献の世界をつなぐことで、新しい価値が生まれるかもしれない」と思い始めました。これがクロスフィールズを立ち上げて留職プログラムをスタートさせる原点となったんです。

コンパスポイント設立

──帰国後はどうしたのですか?

小沼大地-近影4

2年間の任期を終えて帰国したときの僕はシリアでの衝撃的な経験ですっかり興奮状態。これを早く大学時代の友人たちに話したいとみんなを集めて居酒屋で熱く語りました。みんなも興奮して聞いてくれると思っていたのですが、彼らはすでに大企業に就職してサラリーマンになっており、「こっちは毎日の激務でそれどころじゃないよ。いいよなお前は、いまだに夢ばかり語っていられて」みたいなしらけムードに。ほとんどの友人にはまったく響かず、逆に引かれてしまいました。学生時代は「社会を良くしよう」とあんなに熱く語り合っていたのにと、かなりショックを受けました。

でも中には「確かにお前が言っていることは正しい。そんなことは忘れかけていた」と言ってくれる友人もいて、その友人たちと定期的に居酒屋に集まって熱いことを語り合おうという話になりました。この会を「コンパスポイント」と名付け、2007年12月に活動をスタートさせました。最初のうちは飲み会レベルだったのですが、同じような想いを持つ仲間たちが徐々に集まってきて、社会起業家などを会に呼んで話を聞くという勉強会のような形に発展していきました。

コンパスポイントで主催していた勉強会の模様

コンパスポイントで主催していた勉強会の模様

同時に、シリアでの経験を通じて抱いた「社会活動とビジネスをつなぎたい」という夢を実現するためには課題解決能力を身につけなければと思い、コンサルティング会社に入社しました。その就職活動の過程で後にクロスフィールズを一緒に立ち上げることになる松島由佳と出会い、意気投合。彼女とは何かの縁があると直感的に感じて、コンパスポイントの活動にも巻き込みました。

コンパスポイントの活動を始めたのは僕が就職する直前だったのですが、コンパスポイントを立ち上げた最大の理由は、僕自身が就職して情熱を失うのが恐かったからかもれません。会社で働くのは3年間だけと決めて面接でもそう公言していましたが、このときは将来的に起業しようとは全く思っていませんでした。

コンサルティング会社で得たもの

──外資系の戦略コンサルティング会社に入ってどうでしたか?

小沼大地-近影5

すごくよかったです。3年間という短い期間ではありましたが、問題解決のスキルを身につけられたし、自分よりも数十倍も優秀な人たちと一緒に仕事をするという刺激が常にありましたから。


──コンサルティング会社で働いているときは現実的に起業を考えていたんですか?

そうですね。入社2年目にアメリカに滞在していた際、複数の現地のNPOを訪ねて、いろんな人に話を聞いて、初めて自分自身で事業モデルを書くという経験をしました。その頃ですね、自分で団体を立ち上げることを意識し始めたのは。

当時、コンパスポイントも立ち上げから3年が経過した頃で、そろそろイベントを開催するだけではなくてもう一歩先に進んだことをしようと、NPOの活動を支援するプロジェクトをスタートさせました。支援したのは世界の食の不均衡をなくすというコンセプトで活動している団体で、松島がリーダーとなって最後までやりきりました。

小沼大地(こぬま だいち)
1982年神奈川県生まれ。NPO法人クロスフィールズ代表理事

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学卒業後、青年海外協力隊として中東シリアに2年間赴任し、現地NPOとともにマイクロファイナンスや環境教育のプロジェクトに携わる。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。同時並行で若手社会人の勉強会「コンパスポイント」を立ち上げ、講演会の企画やNPOの支援活動などを行う。2011年3月退社、松島由佳と共同でNPO法人クロスフィールズを創業。2011年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に選出。2015年からは国際協力NGOセンター(JANIC)の理事も務める。1児の父親として家事・育児にも積極的に参加するイクメンでもある。

初出日:2015.08.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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