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2015.08.17  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

教師になる予定が......

──後編ではまず小沼さんがクロスフィールズを立ち上げるまでの経緯を教えてください。そもそも学生の頃からビジネスと社会貢献をつなげるような活動をしたいと思っていたのですか?

小沼大地-近影1

いえいえ、大学を卒業したら教師になるつもりでした。小中高といい先生に巡り会えたことと、高校時代に『陽のあたる教室』という映画を観て、教師って人の人生にこんなにも影響を与えられるんだと感動して、僕も教師になりたいと思ったんです。


──どんな教師になりたいと思っていたのですか?

中高時代は野球部、大学はラクロス部に所属して、顧問の先生からかなり影響を受けたので、僕も将来は学校の部活動の顧問になりたいと思っていました。それで大学では教職過程の単位を取り、教員免許を取得しました。


──それなのに教師にならなかったのはなぜですか?

僕が取ったのは高校の社会科の教員免許だったのですが、僕自身が社会を知らないまま生徒に社会科を教えるというのはどうなんだろうと疑問を感じました。それでまずは社会に出てみようと。一般の企業に就職するのもよかったのですが、普通ではなかなか見られない変わった世界を見てみたい、おもしろいことを経験してみたいと思っていました。そんなある日、電車に乗ったとき青年海外協力隊募集の中吊り広告が目に止まりました。それまでは青年海外協力隊には全く興味がなかったのですが、こういうのもちょっといいかもと興味を引かれ、JICA(国際協力機構)が主催している青年海外協力隊のOBと触れ合える会に参加してみたんです。そして、出会ったOBの方が最高にカッコいい方で、僕もそんな大人になってみたいと隊員への参加を決めました。大学卒業後、大学院に進学すると同時に、休学して中東のシリアに赴任することになったんです。


──そのとき電車の中吊り広告で青年海外協力隊を見なかったら人生変わっていたかもしれませんね。

小沼大地-近影2

確実に変わってましたね。今頃どこかの学校の先生をしていると思います。でも、実は今も教育に携わっている気持ちではいるんですよ。もともと僕は人に影響を与えたいという想いから教師を目指していました。振り返れば協力隊での経験こそが自分に一番影響を与えたなと感じるので、協力隊のような経験を誰かに提供することこそが、もっとも人に影響を与えられる手段だろうと。そう考えて今、クロスフィールズという組織で、僕が教師としてやりたいと思っていたことを全部やるつもりで、こうして事業に取り組んでいるんです。

青年海外協力隊員としてシリアへ

──協力隊員としてシリアではどんな活動を?

活動の前半は、人口2000人ほどの村に住み込んで、貧困層向けに低金利で融資を提供するマイクロファイナンスの事業に携わっていました。本当は環境教育の業務を行うはずだったのですが、配属されたNGOで環境分野の活動はストップしていて、「おまえはいったい誰だ?」と言う状態でした。そりゃあびっくりしましたよ。僕は一体何しにシリアに来たんだって(笑)。ただ、それでも必死に活動をして、マイクロファイナンスの活動でも成果をあげていたとは思います。

ただ、青年海外協力隊事業を手がけるJICAとしては、やはり環境の仕事をしてほしいということで、配属先のNGOを変更にすることになりました。まだ任期はかなり残っていたので、自分で環境教育活動の企画書を作成してシリアの民間企業やNGO、政府組織に片っ端から飛び込んで、こういう活動をやらせてほしいとプレゼンしました。すると首都ダマスカスの環境局が採用してくれて、現地の小中学生向けの環境教育プロジェクトを一緒に作れることになったんです。それからはいろいろ試行錯誤が続いたのですが、僕の後にも後任の隊員が何代かにわたって派遣されていましたし、そういう意味では何らかの結果は残せたのではないかなと。

青年海外協力隊としてシリアで環境教育活動に取り組んでいた小沼さん

青年海外協力隊としてシリアで環境教育活動に取り組んでいた小沼さん

──全然知らない国で、自分で仕事を作って働き口を見つけてきっちり結果まで出すってすごいですね。「話が違う」と何もしないでそのまま任期をやりすごす人もいると思うのですが。

逆に、予定通りにいかないことが多発するのが、青年海外協力隊のいいところだと思うんです(笑)。もちろん僕に起きたことは客観的にみたら最悪といえる事態だったかもしれませんが、それを最悪で終わらせるかどうかは自分自身の問題。そういう最悪の事態を成長のチャンスと捉えることができる人にとっては、こんなにいいプログラムはないわけです。

小沼大地(こぬま だいち)
1982年神奈川県生まれ。NPO法人クロスフィールズ代表理事

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学卒業後、青年海外協力隊として中東シリアに2年間赴任し、現地NPOとともにマイクロファイナンスや環境教育のプロジェクトに携わる。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。同時並行で若手社会人の勉強会「コンパスポイント」を立ち上げ、講演会の企画やNPOの支援活動などを行う。2011年3月退社、松島由佳と共同でNPO法人クロスフィールズを創業。2011年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に選出。2015年からは国際協力NGOセンター(JANIC)の理事も務める。1児の父親として家事・育児にも積極的に参加するイクメンでもある。

初出日:2015.08.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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