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2015.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

共通点の多さにびっくり

菊池宏子さん(以下、菊池) 舞ちゃんに初めて出会ったのは、2014年5月にコミュニティデザインや公共性のあり方について議論するコモンズ研究会でした。研究会代表の大学教授が舞ちゃんを連れてきたんだよね。

小笠原舞さん(以下、小笠原) その先生とはたまたま他の会合で出会って、私が取り組んでいるasobi基地の活動を話したら、地域づくりのヒントになるかもしれないから研究会で活動内容を話してほしいと言われて行ったんです。そのとき初めて宏子さんに会ったんですが、そのときはあんまり話さなかったんですよね。

菊池 そうそう。名刺交換しながら少し話したくらいだったよね。でもそのとき、舞ちゃんの活動に興味をもったんです。

小笠原 私も同じで、宏子さんは子どもを対象とした現代アートのイベントをやってたから今度改めて会ってちゃんと話しましょうということで、後日カフェで会ったんです。

菊池 そのとき、いろんな話をしてお互いの活動やものの考え方、目指している方向などがすごく似てると感じた。あと、アーティストも保育士も非常に社会的立場の弱い職業で社会的に認知されているようでされていない。だけど、私たちはプライドをもって仕事してるよね、という話で意気投合したよね(笑)。

小笠原 したした! そこがすごく似てると感じたんだよね。

菊池 しかも私たちは女性だしね。アートの世界も保育の世界も女性がすごく多いから、女性という観点で労働環境とか政策の話もしたよね。私たちはアクティビスト(活動家)だということではなくて、弱い立場が理解できるからこそできることってないかなとか、私たちの属する仕事の領域に対しての問題意識みたいなものもお互い共有しながら話したのもすごく覚えてる。それで一緒に何かやりたいねという話になって。

アートと幼児教育は近い

小笠原 私もアートと幼児教育が近いと直感的に感じたんです。私はアートのことはよくわからないんですが、アートは幼児教育に有益だとされているし、そもそも子どもたちが生きていることそのものがアートなんじゃないかと何となく感じていたんですよね。一般的な大人の社会ではある行為をアートと呼ぶけど、asobi基地のような保育の現場はアートという言葉を使わなくてもその行為を子どもたちが普通にやってるということが多かったので、そもそもアートってなんだろうみたいなことも考えていました。

菊池 まさに現代アートは想像力をフルに生かしてアートと日常の関連性を突き詰める考え方で、目の前のプロセスに向き合うからおもしろさがある。こっちの世界ではアートは概念になってるけど保育の世界には日常にアートがあってそれがふっと重なったって感じだよね。

小笠原 言葉で表現すると保育・幼児教育とかアートとかになるんだけど、たぶん「社会を見てみようよ」みたいなメッセージなのかなと思っていて。宏子さんも私も人を見るときに子どもとか大人という記号で捕らえてなくて、年齢性別関係なく、あの人おもしろい、興味ある、みたいな感覚がすごくあるんじゃないかなと。

菊池 素直におもしろいんだよね。私の好奇心をくすぐる小さい人というか、なんでこの小さい人はこんなことを考えるんだろう、こんなことやるんだろうというすごくたくさんの問いをくれる。それは「子どもだから」と理屈づけて終わってしまう人がほとんどだろうけど、私たちはその意識があまりない。子どもと付き合う仕事は大好きだし、子どもはかわいいけど、いわゆる子ども好きではないんだよね。ただ大人も子どももこの社会を構成する一員同士なんだから、そこに区別はなくてただおもしろい人が好きだという(笑)。

小笠原 そうそう。

菊池 私が取り組んでいる現代アートと舞ちゃんが取り組んでいる幼児教育は重なっている部分が多いというのは私も感じたのですが、本格的にコラボする前に、現代アートと保育の研修会をやったんです。

小笠原 そうでした。asobi基地に関わってくれる保育士さんたちに子どもとの接し方などを教える研修会を定期的に開催しているのですが、その場でそういう世界を保育士たちに伝えてほしいと思って宏子さんにお願いしたんです。実際にどんな研修をやればいいのかは宏子さんに丸投げして(笑)。

菊池 投げられて、それを受け止めたんだよね(笑)。研修では私がやってきた現代アートと子どもと大人に対するワークショップやプログラムの話や、人の想像力・創造力はどうやってできあがるんだろうという話をしたらすごく盛り上がって、その勢いでみんなでイベントをしようということになって開催したのが「自分のなんで実験室」(以下、「なんで展」)という展覧会です。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの