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2015.01.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

落語以外のさまざまな活動

──落語以外の活動についてももう少し詳しく教えてください。

はい。落語の次に多いのが講演会ですね。落語と講演会を同じイベントですることが多いです。講演は日本語だけど落語は英語ですることもよくあります。テーマは「ダイアンから見た日本」とか、働きたい女性に送るアドバイスなど、いろいろです。あとは東日本大震災のとき、被災地でボランティア活動をしていたときの話もよくします。

呼ばれるのは学校が一番多いです。高校や大学、最近は中学校も増えてきています。企業や国際交流のイベントに呼ばれることもあります。これから外国に行く人のためにダイアンの経験談を話してくださいというオファーで、外国に住んでて困ったこととか心配してたこと、外国語を覚えるテクニックというテーマも多いです。また、バルーンアーティストとしても活動していて、幼稚園や保育園、ショッピングモールなどでショーをやったりしています。

それから、いろんなワークショップ・講習会も行っています。子どもたちにステージに上ってもらって落語を体験してもらう落語のワークショップをはじめ、バルーンアート、着物・ゆかたの着付け教室、ラフターヨガ、風呂敷活用術、生け花教室、即興劇などバラエティ豊かです。

バルーンアーティストとしても活動

──着付けや生け花、風呂敷など日本の文化を教えているのが興味深いですね。

着物に興味をもつ女性が増えているせいか、着付け教室を開いたらたくさん集まります。たぶん私が外国人だから参加しやすいんだと思います。英語でも日本語でもOKなので英語を習いたい人や英語で遊びたい人も来ます。「英語で着付けを覚えましょう」とか「落語で英語を覚えましょう」とプラス英語のテーマをつけたら2つの勉強になるから興味を持つ人が多いですね。

風呂敷は個人的に好きなんです。日本人はみんな風呂敷を使えると思っていたのですが、今は使っている人、とても少ないですね。だから風呂敷教室を開いたらたくさんの人が集まりました。生徒さんはみんな日本人です。みなさん、「日本人だけど風呂敷を使えなかったからこれから使いたい」と言っていました。いい話だなあと思いました。

永住権を取得

──日本の永住権を取得しているそうですが、相当日本が気に入ったってことですよね。どういうところが?

いろいろあります。先にもお話しましたが、私は古くて歴史あるものが好きで、日本には何百年もの歴史と伝統を誇る文化財がたくさんあります。これまで京都や奈良にはたくさん行きました。また、私は変わってることが好きで、日本で初めて体験することがたくさんあったから退屈な日は1日もなかったです(笑)。

それから人がいいです。みなさんやさしくて親切でフレンドリーで楽しい人ばかり。日本人のすごくいいところは質問したら丁寧に深くまで説明してくれる点。日本の文化のこと、歴史のこと、マナーのこと、全部一生懸命教えてくれる。それはすごくありがたいですね。


──日本は暮らしやすいですか?

はい。日本に来たばかりの頃は言葉の問題でわからないことやたいへんなことがたくさんあったけど、今はとても住みやすいと感じています。大阪ですごくいい場所を見つけたことが大きいですね。今私が住んでいるのは、すごく長い歴史があって昔ながらの長屋がたくさん残されている貴重な地区です。昔は落語家も何人か住んでいました。街の雰囲気もいいし、みんな古いものを守ろうとしています。近所の人もみんなやさしくて、家の裏は着物屋さんで、近くには生け花の先生や茶道の先生もいて、みなさんすごくいろいろ教えてくれます。とてもいい人に囲まれてます。

大阪城の近くで、自転車でどこでも行けるからとても便利。近くに空堀商店街という古い商店街があります。活気にあふれている大好きな商店街です。商店街を歩いていると「ダイアン、これ持ってってー」とか「ここ座ってちょっとお茶して行きー」とかみんな私に話しかけてくれます。だから一人で散歩しても全然大丈夫。すごいいい人ばかり。そういう意味でもすごくいい生活しています。

ここに引っ越ししたばかりのとき、友だちに「ダイアン、今どこに住んでるの?」と聞かれて「カリフォルニア商店街の近くよ」と答えました。「カリフォルニア? それ、どこにあるの! アメリカ?」「違う違う、日本の大阪」って(笑)。最初はカリフォルニア商店街だと思ってたんだけど、よく調べたらカリフォルニアじゃなくて空堀(からほり)だった。あははは(笑)。当時はまだ日本語がよくわからなかったからね。

ダイアン吉日(だいあん きちじつ)
イギリス・リバプール生まれ。英国人落語家/バルーンアーティスト。

ロンドンでグラフィックデザイナーとして働いた後、子どものころからの夢だった世界放浪の旅に出る。1990年、旅の途中で友人に勧められ日本へ。たちまち華道・茶道・着物などの日本文化に魅了される。後に華道、茶道の師範取得。1996年、英語落語の先駆者、故・桂枝雀氏の落語会で「お茶子」をする機会を得て落語との運命の出会いを果たす。その巧みな話芸とイマジネーションの世界に感銘を受け落語を学び始め、1998年初舞台を踏む。以来、古典から創作までさまざまな工夫をこらして英語・日本語の両方で国内外で落語を公演。「わかりやすい落語」と幅広い年代に愛されている。また、ツイスト・バルーンを扱うバルーンアーティストとしても活動中。今までに40ヵ国以上を旅した経験談や、日本に来たときの驚き、文化の違いなどユーモアあふれるトークを交えての講演会も積極的に開催。その他、落語、バルーンアート、着物・ゆかたの着付け教室、ラフターヨガ、風呂敷活用術、生け花教室、即興劇などさまざまなワークショップの講師としても活躍中。現在はどこのプロダクションにも所属せず、フリーで活動を行っている。2011年に発生した東日本大震災では被災地で落語やバルーンアートなどのボランティア活動で多くの被災者を励ました。また、これまでの日本と海外の文化の懸け橋となる国際的な活動が高く評価され、2013年6月に公益財団法人世界平和研究所において第9回中曽根康弘賞 奨励賞を受賞。テレビ、新聞、雑誌などメディア出演多数。

初出日:2015.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの