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2015.01.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

東日本大震災が人生のターニングポイントに

──それはどういうことですか?

ボランティア「アウトドア義援隊」のスタッフと一緒に

実は、2011年は個人的にもとてもつらい年でした。母が心臓の大きな手術をすることになったので、1カ月イギリスに帰りました。心配で心配でとても大きなストレスでした。幸い手術は無事成功してほっとして日本に帰って、また仕事頑張ろうと思った矢先に東日本大震災が起こりました。その影響で半年先まで決まっていた仕事が全部キャンセルになってしまったんです。こんなことは日本に来て初めてでした。

さらに、私のパソコンがハッキングされてハードディスク内の15年分のデータが全部消えました。その上、フリーメールのログインパスワードを乗っ取られて、アドレス帳に登録していた約1000人の知人に「マドリードで強盗に襲われて、お金を取られてしまいました。このままでは出国できないから○○銀行にお金を振り込んでください」という嘘のメールが一斉に送られたんです。中には落語の師匠たちもいて、すごいショックでした。とても恥ずかしかった。

ちょうどそんな一番つらいとき、家族から、母が今度は肺の手術をしなければならなくなったからイギリスに戻ってきてくださいという連絡が来たんです。そこでストレスはもうマックス。ほんまに私が病気になりそうなくらいストレスで全然寝られませんでした。

避難所にてバルーンアートを披露

そんなとき、東北で出会った人たちの顔が心の中に浮かんできたんです。あの人たちはもっとつらくたいへんな目にあっているのに生きるために必死で頑張っていました。彼らに比べたら私の問題なんてめちゃめちゃ小さいよ、ダイアンは大丈夫よ、と自分に言い聞かせていたら段々と気持ちが落ち着きました。そして乗り越えようという気力が湧いてきました。すごく助かりました。

その後もハプニングや悲しいこと、つらいことがあっても平気になりました。私自身、すごい変わったと思う。これからどんなことがあっても大丈夫でしょう、乗り越えられるでしょう(笑)。東北で会った素晴らしい人たち、一人ずつ全員にありがとうと言いたいです。

好きなことが仕事になるのはとても幸せ

──落語を含め全部好きでやり始めたことが仕事になっているということがすごいと思います。

そうですね。全部自然にこうなりました。最初から何にも決めていなかった。何かになるためにこんなことをした、というのがないんです。落語にしても落語家になりたいなんて全然思っていなかった。おもしろそうだなと思って始めたのがあっという間に仕事になりました。バルーンも同じです。


──好きなことで生活するというのはいいものですか?

とてもいいですね! 今の仕事は大好きでパッションがあるから、それで生活できるのはすごく幸せ。ありがたい、ラッキーだと思います(笑)。それに自分が好きでやりたいことであればすごい努力するからスキルアップにもつながりますしね。

仕事とプライベートのバランスは大事

──働き方についておうかがいしたいのですが、これだけたくさんの種類の仕事をもっていれば毎日すごく忙しいんでしょうね。

はい。本番以外にも打ち合わせや練習や新しいネタを考えるとか、毎日何かしら仕事をしています。でも仕事とプライベートのバランスはすごく大事ですね。私はついつい働き過ぎてしまうタイプだから。毎日働いていたら新しいアイディアが生まれてこないし、しんどくなります。ちょっとだけでも休憩したらリラックスできてパワーや新しいアイディアが湧いてきます。だからすごく忙しいときでも無理矢理にでも時間を作って友だちと食事をしたり、1日だけ海に行くなどしてリフレッシュするように心がけています。あとは大好きな海外旅行に行くことも大事ですね。絶対に年に何回かは行くようにしています。遊びと仕事のバランスを取るのは難しいけど、最近できるようになってきました(笑)。


──今後の夢、目標を教えてください。

夢はいっぱい持ってますね! まず今いい感じで増えている英語落語の海外公演をもっともっとやりたいです。もっとたくさんの人に落語を紹介したい。それと今、日本の古典落語や創作落語を英語でやっていますが、逆にイギリスの物語を落語にして日本人に紹介したいとも思っています。子どもの頃に聞いていた物語を落語にしたらおもしろいと思う。文化エクスチェンジですね。

また、子どもが大好きだから、落語やバルーンアートなど私ができるパフォーマンスで、将来子どもの番組をやりたいです。あとは元々デザイナーで物を作るのが好きだから、着物と帯の生地を使って、洋服や帽子やリュックサックなどを趣味で作っています。それらの作品をみんなが売ってほしい、もっと作ってほしいと言うから、いつかダイアンズブランドを立ち上げたいと思っています。

そして、将来の大きな夢として、自分の本を出したいです。かなり前から、いろんな人に今までのダイアンの経験を知りたいと言われているので、少しずつメモを書いてるけど、なかなかまとめて書く時間がありません。私にとっても、本を書くことで忘れていた自分の思い出が戻ってくるから、いずれは書きたいと思っています。

ダイアン吉日(だいあん きちじつ)
イギリス・リバプール生まれ。英国人落語家/バルーンアーティスト。

ロンドンでグラフィックデザイナーとして働いた後、子どものころからの夢だった世界放浪の旅に出る。1990年、旅の途中で友人に勧められ日本へ。たちまち華道・茶道・着物などの日本文化に魅了される。後に華道、茶道の師範取得。1996年、英語落語の先駆者、故・桂枝雀氏の落語会で「お茶子」をする機会を得て落語との運命の出会いを果たす。その巧みな話芸とイマジネーションの世界に感銘を受け落語を学び始め、1998年初舞台を踏む。以来、古典から創作までさまざまな工夫をこらして英語・日本語の両方で国内外で落語を公演。「わかりやすい落語」と幅広い年代に愛されている。また、ツイスト・バルーンを扱うバルーンアーティストとしても活動中。今までに40ヵ国以上を旅した経験談や、日本に来たときの驚き、文化の違いなどユーモアあふれるトークを交えての講演会も積極的に開催。その他、落語、バルーンアート、着物・ゆかたの着付け教室、ラフターヨガ、風呂敷活用術、生け花教室、即興劇などさまざまなワークショップの講師としても活躍中。現在はどこのプロダクションにも所属せず、フリーで活動を行っている。2011年に発生した東日本大震災では被災地で落語やバルーンアートなどのボランティア活動で多くの被災者を励ました。また、これまでの日本と海外の文化の懸け橋となる国際的な活動が高く評価され、2013年6月に公益財団法人世界平和研究所において第9回中曽根康弘賞 奨励賞を受賞。テレビ、新聞、雑誌などメディア出演多数。

初出日:2015.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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