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2014.11.04  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

企業理念について

──和えるの企業理念についてもう少し詳しく教えてください。会社としてやりたいことはどういうことですか?

子どもたちに「ホンモノ」を届けたいということです。「ホンモノ」の定義は非常に難しいです。どういうものが本物かは人によって違うので、客観的じゃなくて主観的なものです。例えば「この商品は本物だよね」「確かにそうだね」というのは、この人たちの間に本物だと判断するものさしがあって、それに適合したからこそ「本物だね」という会話が成り立ちます。でも、私たちは作り手である以上「本物とは何か」を言語化する必要があります。いろいろと考えた結果、その商品を本当に人に贈りたいと思えるかどうかを最も重要な軸として、「"本"当に子どもたちに贈りたい日本の"物"」をホンモノと定義しました。


──ホンモノとは具体的にはどういうものなのですか?

自然と寄り添った無理のないモノだと考えました。それがつまり伝統産業品です。日本の伝統産業は、日本の豊かな自然と共生する過程で生まれた物が多いんですよね。自然由来の素材で作られているので不思議と人に心地よさを与えてくれますし。また、デザイナーと共に子どものための機能性を考え生み出したデザインを、一つひとつ職人の手仕事で心を込めて作っています。こういった子どもたちの目を見て、自信を持って贈り届けられるものを和えるでは、ホンモノと考えています。

そして、今はさまざまな理由でホンモノが存在しづらい世の中になっていると思います。たとえばコストの問題。作り手側はホンモノを作るために素材や生産方法などにもっとこだわりたいと思っていても、それをしてしまうと製品価格がとても高くなってしまって売りにくくなってしまうからやらない、あるいはできない。そういった企業の経済的論理の中で、ホンモノが負けてしまっている気がします。

確かに、低価格でたくさんものを作って売れば、売り上げは上がるでしょう。しかし、安く売れば当然利益も低くなり、賃金・収入・採算が合わなくなり、実際にものづくりをする人たちがどんどん厳しい状況に追い込まれます。そして、労力やコストばかりかかって利益にならないものづくりをやめてしまう結果、日本の物づくりは衰退してしまっているのです。

でも、作る側はそこまで暮し手が求めやすい価格に合わせる必要があるのでしょうか。しかも安易に使い捨てができる商品が世の中に増えてしまった原因のひとつは、高い商品にはそれなりの理由があり、その正当性を作り手側が暮し手に伝える努力を怠ってきたからではないかと思うのです。

だから私たちはただ商品を作って売るだけではなく、商品の背景や正当な価値をお伝えすることが本当の私たちの仕事だと思っています。ですから、お店に来ていただいたお客様には、そもそもこの商品を子どもたちのためになぜ作ろうと思ったかの理由から始まり、どんな素材を使っていて、どこの職人がどんな手間暇をかけて作っているか、その商品の物語を詳しく説明します。すると、お客様は納得して購入してくださいます。和えるでは、モノを売るのではなくて、物語をお伝えするのが第一の仕事と位置づけています。モノの価値をお客様にお伝えし、共感していただき、その結果として、モノが売れていくのが健全だと考えています。

矢島里佳(やじま りか)
1988年東京都生まれ。株式会社和える(aeru)代表取締役。

職人の技術と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから、大学4年時である2011年3月株式会社和えるを設立、慶應義塾大学法学部政治学部卒業。幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。また、全国の職人とのつながりを活かしたオリジナル商品・イベントの企画、講演会やセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など幅広く活躍している。『青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ』『福岡県から 小石原焼の こぼしにくいコップ』が2014年度グッドデザイン賞を受賞。 2013年3月、慶應義塾大学院 政策・メディア研究科修士課程卒業。2013年末、世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・シェイパーズに選出される。2014年7月、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。

初出日:2014.11.04 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの