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2014.11.17  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ジャーナリスト志望だった

──なぜ日本の伝統産業の技術で赤ちゃん・子ども向けの日用品を作る会社を起業しようと思ったのですか?

私は、元々ジャーナリスト志望でした。「伝える仕事」がしたいと思って小学校、中学校、高校では放送委員会や放送部に入っていました。高校生の頃は伝える仕事といえば新聞記者やニュースキャスターだと思い、ジャーナリストを多く輩出している大学で学ぼうと思い、慶應義塾大学法学部政治学科に進学しました。

大学1、2年生のときに、ジャーナリストは本当に私が思い描いている職業なのだろうかと確かめたくて、OB・OGの方々を訪ね、日々どのようなお仕事をしているのかを伺いました。すると、私の考えていた伝える仕事とは少し違うことがわかったのです。

私は小さい頃から自分が素敵だな、魅力的だなと思ったコトやモノやヒトを周りの人に伝えることが好きでした。でも、ジャーナリストのお仕事は毎日起きている事を伝えるわけですから、自分の好きなことだけを選り好んで取材して伝えることはあまりできません。私のやりたかった「伝える」は、私は自分自身が魅力的だな、みんなにもぜひ知らせたいなと思ったことを「伝える」だったことに気がついたのです。

それならば、「私は一生をかけて、何を伝えたいのだろう」と考えたのです。「伝えたい」という「行為」だけだったところから、「何を」という伝えたい対象に踏み込んでいった。そのときが初めて伝えるという本質に一歩近づいた瞬間だったと思いますね。

茶華道部での原体験

──その結果、何を伝えたいと?

これまでの人生を振り返ったときに、茶華道部の思い出が蘇ってきたのです。中学、高校のときに茶道と華道を学べる、茶華道部に所属していました。小学生の頃に何かの機会で着物を着てお点前するお姉さんを見た記憶が残っていて、なんとなく憧れていたのだと思います。それが日本の伝統文化・産業に興味をもった原体験ですね。

お茶室という空間は普段の学校生活の場とは全く異なり、一歩足を踏み入れた瞬間、不思議と心が落ち着くのです。お茶碗、茶杓(ちゃしゃく)、棗(なつめ)などの使う道具はもちろん、空間自体もすべて伝統産業の技術によって構成されていたことに気がつきました。もしかしたら、伝統産業には、人々の心を和ませる力があるのかもしれないと思い、とても気になるようになりました。

そこからさらに考えを深めていくと、茶道のお茶碗は物によって、10万円のものもあれば100万円のものもある。値段が全く違うのですが、それはなぜだろうという疑問が生まれました。その理由をもっと知りたい、そしてなぜ伝統産業品には人の心を穏やかにする力があるのかを探求したい。日本の伝統産業の世界に、私が一生をかけて伝えたいことがあるのかもしれない。それを確かめに行こうと思い立ったのです。

連載記事がスタート

──そこからどう行動したのですか?

まずは自分の目で、ものづくりの現場を見に行こうと思いました。しかし当時19歳でお金がなかったので、どのように実行しようか考えました。そこで、自分で仕事をつくろうと思ったのです。フリーのライターになれば、取材費や原稿料をいただいて、仕事として伝えることができるのではないかと考えました。そこで、20代から40代の全国の若手の職人さんを取材して、今、衰退しつつある日本の伝統産業に魅力を感じて頑張っている若手の職人さんを発掘して発信したい、そして失われつつある日本の伝統技術にもう一度注目を集めたいという趣旨の企画書を作って、いろんな大人の方に渡して回りました。

すると旅行会社のJTBさんの方とお知り合いの方がいらっしゃり、さらにちょうどJTBさんが顧客向けの会報誌を作るというタイミングだとご紹介いただきました。その方は、企画書を一緒に練り上げて、会報誌の担当者に渡してくださいました。その企画が通り、JTBの会報誌『栞』で、全国の職人さんを取材して紹介する連載記事「和's worth」がスタートしたのです。実現したのは、大学2年生、20歳の頃でした。

矢島里佳(やじま りか)
1988年東京都生まれ。株式会社和える(aeru)代表取締役。

職人の技術と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから、大学4年時である2011年3月株式会社和えるを設立、慶應義塾大学法学部政治学部卒業。幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。また、全国の職人とのつながりを活かしたオリジナル商品・イベントの企画、講演会やセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など幅広く活躍している。『青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ』『福岡県から 小石原焼の こぼしにくいコップ』が2014年度グッドデザイン賞を受賞。 2013年3月、慶應義塾大学院 政策・メディア研究科修士課程卒業。2013年末、世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・シェイパーズに選出される。2014年7月、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。

初出日:2014.11.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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