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2014.09.16  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

カフェであり、ものづくりのコ・ワーキングスペースでもあるFabCafeTokyoの設計を担当(写真提供:FabCafeTokyo

執筆系の仕事も多い

──自宅でも仕事をすることはあるのですか?

猪熊 平日の終電までに終わらなかった仕事を家に持ち帰ってやったりすることはよくあります。

成瀬 私は文章を書く仕事を家でやっています。その方が集中できるので。

猪熊 確かに執筆系は家になりますね。事務所にいると打ち合わせが入ったり、スタッフが仕事の相談をしてくるのでなかなか集中できないので、日曜日に家でやっています。


──執筆系の仕事にはどのようなものが?

猪熊 自分たちの設計や考えていることについて説明する文章や、コンペのプレゼン資料などを書いていることが多いですね。あとはインタビュー原稿のチェックなど、いろいろあります。少し前だと、我々が編著で作っていた本の原稿の執筆もしていました。

成瀬 他には、いろいろな大学の設計課題の講評会に呼ばれて、賞を選ぶときの選評を書いたりとかもしています。また、以前は建築雑誌で連載をやっていたのでその原稿執筆も。

猪熊 あとメール系が多いですね。大学とクライアントと事務所を合わせて、多いときには1日4〜50件くらいのメールを返しています。そうしないと間に合わない(笑)。

成瀬 私の場合は大学系のメールが特に多いですね。その他にもいろいろなところからメールが来て読まなければならない量が多いのでたいへんです。お施主さんとのやりとりも基本はスタッフに任せるのですが、特に重要なメールは私や猪熊から送ります。

自宅でもフリーアドレス

──自宅にはやっぱり仕事部屋があるのですか?

猪熊 いえ、ありません。実は家は自宅で仕事をしている妻に占拠されていて家でも共用部分のリビングで仕事をしています。ノートパソコンがあればどこでも仕事ができることがバレると、どんどんスペースを減らされるんですよ(笑)。

成瀬 私も自宅に仕事部屋なんてないですよ。夫も建築家で、自分の仕事部屋と専用の書庫までありますが、私はないので猪熊と同じくリビングで仕事をしています。ついテレビを見ちゃって困る、みたいな(笑)。


──おふたりとも自宅でもフリーアドレスなんですね。

猪熊 そうなんです。事務所でもフリーアドレス、自宅でもフリーアドレス。大学にしか席がないという(笑)。

成瀬 一緒一緒(笑)。

未経験のことにチャレンジしたい

──今後の目標、近い将来やってみたいことは?

猪熊 僕は基本的に常にやりたいことがたくさんありすぎて手がつかない状態なんですよね(笑)。その一つに、コ・ワーキングスペースやシェアハウスの経営があります。やっぱりそれらをたくさん設計していると、自分でも持ってみたくなるんですよね。例えば改装自由な小さな一軒家を借りて自分たちの好みで改修・改装して、運営ができる知り合いと一緒にやってみるとか。実験してみたいんですよね。自分が施主なので好きなように設計できるから、普通のシェアハウスではやらないような間取りにチャレンジできるのもおもしろいかなと。


──それは確かにおもしろそうですね。

猪熊 もう一つの大きな目的としては経営的な要素もあります。設計の仕事って建物が完成するまでに長い時間がかかります。例えば設計から完成まで2年なんていうのは普通で、その場合、設計費は2年間で3分割されて入金されます。大きめのプロジェクトの場合は設計料だけで軽く1000万円を超えるのですが、例えばそれが2年間で3回に分けて500万円ずつ入ってくるとしたら、そのクライアントから1度入金されて次の入金までの4ヶ月は無収入なわけです。規模の大きな設計事務所でビッグプロジェクトを常時何件も抱えているような事務所ならそれでもやっていけるんですが、やっぱりうちみたいな小さい事務所はそんなに抱えられないので、年間を通した収入の波がどうしても大きくなります。だから毎月少額でも確実に入ってくる定期収入のようなビジネスがほしい。そういう意味で、定期的にお金が入る賃貸物件をもつことは事務所の経営の安定に寄与するからすごくいいかなと。家賃がそんなに高くなければうちのスタッフが住んでもいいですしね(笑)。基本的なスタンスとしては、いいとこ取りのアイディアを思いついたらやってみたいと常に思っているし、これまでもそういうふうにやってきたんですよね。


──成瀬さんの方は?

成瀬 私は具体的にやってみたいことは特にはありません(笑)。ただ、仕事の幅を広げてみたいとは思っています。現在はシェアハウスやコ・ワーキングスペースなど、コミュニケーションの場を作る仕事が多いですが、それにとどまらず、もっといろんな仕事をしてみたいですね。建物の種類も、例えば保育園や学校などの子どものための施設や、美術館や博物館などの公共建築など、今までやったことのないものを手掛けてみたい。「シェアハウス専門の建築家」ではなく、どんどん自分の領域を広げていければいいなと常に思いながら仕事をしています。

猪熊純(いのくま じゅん)
1977年神奈川県生まれ。一級建築士/成瀬・猪熊建築設計事務所共同代表/首都大学東京助教。

東京大学工学部建築学科、東京大学大学院工学系研究科建築学修士修了後、千葉学建築計画事務所へ入社。2年間勤務後、07年成瀬友梨と成瀬・猪熊建築設計事務所を設立。成瀬とともに、主にシェアハウス、シェアオフィス、コ・ワーキングスペースなどを手掛ける。08年から首都大学東京助教。1児の父。

成瀬友梨(なるせ ゆり)
1979年愛知県生まれ。一級建築士/成瀬・猪熊建築設計事務所共同代表/東京大学助教。

東京大学大学院博士課程単位取得退学後、05年成瀬友梨建築設計事務所を設立。07年猪熊純と成瀬・猪熊建築設計事務所を設立。10年から東京大学助教。

受賞歴:JIA東海住宅建築賞 優秀賞(2014年)、 グッドデザイン賞(2012、2007年)ほか多数。 メディア掲載、講演、シンポジウム出演、審査員経験多数。共著に『シェアをデザインする:変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場』(学芸出版社)、『やわらかい建築の発想‐未来の建築家になるための39の答え』(フィルムアート社)などがある。 東日本大震災で被災した陸前高田では、支援でコミュニティカフェ「りくカフェ」の設計、運営を担当。現在本設のカフェとして建て替え中だが、工事費の高騰で費用が足りず、備品費を集めるためにクラウドファンディングを行っている。2014年10月5日にオープン予定。

初出日:2014.09.16 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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