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2013.08.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

大枠で2つの仕事

──山田さんの現在の活動について教えてください。

手がけている仕事としてはいろいろあるのですが、大きく2つにわけられます。1つは「株式会社ワクワーク・イングリッシュ」の代表・山田貴子としての仕事。もうひとつは個人・山田貴子としての仕事です。

「ワクワーク・イングリッシュ」とは、インターネットのスカイプを利用したオンライン英会話事業です。英語を第二言語とするフィリピン人が講師として日本人に英会話を教えています。2009年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)大学院1年生の時に、フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指そうと立ち上げました。

フィリピン人講師はフィリピンのオフィスに出勤し、パソコンのカメラとマイクを通じて日本人に英会話のレッスンを行なっています。個人だけではなく、学校や企業と提携してレッスンを提供しています。

例えば2011年から嘉悦大学に我々のスカイプ英会話を英語の授業として採用していただいています。さらに今年(2013年)からは2つの大学で導入していただき、3校に増えました。

今でこそスカイプ英会話は大はやりですが、2009年の立ち上げ当時はほとんどありませんでした。他のオンライン英会話との最大の違いは、全員がオフィスに出社して、チームとしてプロフェッショナルなレッスンを提供している点。そして、このビジネスを通してフィリピンの貧困層の若者の夢と自立を目指しているという点です。まずは、このワクワーク・イングリッシュの経営者としての仕事があります。

嘉悦大学での授業風景

起業した当初は5人だったフィリピン人講師も今では約40名。ほとんど正社員として雇用しており、彼らは毎月安定した収入を得ることができます。ここも他のオンライン英会話との大きな違いだと思います。日本側のスタッフは基本的には、私と夫を含め3人。立ち上げから約3年間はフィリピン人講師の採用、教育、チームビルディングなどのため頻繁に現地オフィスに通っていました。

人生を変えたひと言

──なぜワクワーク・イングリッシュのようなビジネスを立ち上げたのですか?

そもそものきっかけは、大学2年生のときに遊びに行ったフィリピンで出会ったストリート・チルドレン。彼らはまだ幼いうちから毎日路上に出てはタバコや布切れを売ったり、ゴミの山を漁ったりしていました。最初彼らを見たときはかわいそうだなとかちょっと恐いなと思ったのですが、触れ合っていくうちに、すごく元気でかわいくて夢もあるということに気づきました。

あるとき「どうして子どもなのに働いているの?」と聞くと、「お母さんのためだよ」と当然のように答えました。それを聞いた時、私は二十歳なのに親のことなんて考えることもなく、何でも自分のしたいようにしている。でもこの子たちは5、6歳なのに子どもとしての責任をちゃんと感じて生きているんだなと、自分のことが恥ずかしくなると同時に、この子たちはすごいなと心底尊敬したんです。それで毎日働かされるだけじゃなくてこの子たちを楽しませたいと思い、一緒にボール遊びなどをするようになりました。子どもたちはとても喜んでくれて、私もハッピーでした。

でもそんなある日、一人の子どものお母さんからこう言われたんです。「子どもたちは楽しそうだけど、あなたと一日遊んでいたせいで、路上で働くことができず、私たちは今日食べるご飯を買うお金がない。あなたが子どもと遊ぶのなら食べるものかお金をちょうだい」と。すごくショックでした。これまで私のしてきたことはただの自己満足に過ぎなかったのかな、もうフィリピンに行くのはやめた方がいいのかなと思いました。でも悩んだ末、自分はフィリピンの子どもたちと時間も夢も共有して友達になったのだから、やっぱり放ってはおけないと思ったんです。

当時私が一番やりたかったのはひとりでも多くのストリート・チルドレンに教育の機会を提供して、学校に通って、夢を実現できるようにすること。そして、援助する、されるの関係性を超えて、彼らのエネルギーを使って、一緒に夢を実現すること。そのためには現地の人たちと一緒にビジネスで実現するのが一番早いと思い、フィリピン人の友人に相談したところ、「フィリピン人の資源は子どもの頃から習っている英語だから英会話ビジネスを通じて夢を実現しようよ」と。そこで覚悟が決まりました。

山田貴子(やまだ たかこ)
1985年神奈川県生まれ。株式会社ワクワーク・イングリッシュ代表。

慶應義塾大学環境情報学部卒、2009年同大学院政策・メディア研究科修士課程在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立。フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指してさまざまな事業を立ち上げ中。日本では軽井沢に拠点を置き、地域活性活動に取り組むほか、慶應義塾大学の非常勤講師や「湯河原子どもフォーラム」の講師も務めている。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議により、20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出。2013年、第1回日経ソーシャルイニシアチブ大賞の国際部門でファイナリスト選出。

初出日:2013.08.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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