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2013.08.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ただ英会話を教えるだけじゃない

また、2010年から、私の故郷の中学の適応指導教室(なんらかの理由で一般教室で授業を受けられない生徒たちが通う教室)でもスカイプ英会話を実施しています。

授業の目的は、英会話の能力を伸ばすことよりも、子どもたちにありのままの自分を受け入れた上で、次の一歩を踏み出してもらうということ。次年度の4月から一般教室に戻れるまで自信を回復しようということをミッションにしてこの授業を行なっています。


──そのミッションを実現するため、具体的にはどのように授業を行なっているのですか?

授業中に子どもがうまくできたら、些細な事でもパソコンの画面に映ったフィリピン人の講師が、子どもをほめたり、元気づけたりします。つまり子どもが自分にもできると感じられる機会を授業の中に散りばめているんです。すると子どもは徐々に自信を取り戻していき、一般教室に戻っていきました。

しっかりと向きあい、少し元気づけ、背中を押してあげるだけで、子どもは自信をつけて次の一歩を踏み出せる。この授業を通して、フィリピンの子どもも日本の子どもも何ら変わるところはないと思いました。フィリピン人の講師たちにそれができる理由は、そもそも持ち合わせている純粋な心根と自分の可能性を信じてフィリピンの貧困層の夢を実現しようとしているからだと思います。

ここが他のスカイプ英会話との最大の違いで、ただ単に英会話を教えるだけじゃなくて、目の前の子どもにちゃんと向きあって、君たちもやればできるんだよということを英語を通じて伝え、勇気づけ、元気づけ、希望を与えることができる。今後も英語を通じて自信をなくした日本の子どもたちが立ち直るきっかけを提供したいと思っています。


──国際協力を仕事にするということはどういうことなのでしょう。

ワクワーク・イングリッシュを立ち上げた経緯のところでも触れましたが、そもそも最初から国際協力的な事業に興味があったわけではありません。ちなみにフィリピンに行くまではスポーツが好きだったので、体育の教師などスポーツ関係の職業に就きたいと思っていました。

今でも私は国際協力とか国際貢献をしているという意識は全くないんですよね。その言葉自体あんまり好きじゃないんですよ。同じく、支援、援助、途上国、貧困層という言葉も便宜上使っていますが本当は使いたくありません。なぜなら現地に暮らしている人々と一緒に社会をつくっていく、日本、フィリピン、双方に意味がある事業だからです。支援じゃなくて協働というイメージですね。

例えば、我々がフィリピンの孤児院から採用した学生が日本の小中学生に英会話を教えているわけですが、それによって確かにフィリピン側の雇用を生んでいるけれど、先ほどお話したように、フィリピンの学生講師が心に傷を負ってしまった子どもを元気づけて、自信を取り戻させています。だからこちらからの一方的な支援ではなくて、ひとつのビジネスとして双方にメリットのあるWin-Winの関係になっているんです。

100の事業を作りたい

──ビジネスで結果を出しているところがすごいですね。今後も英会話ビジネスを拡大していくつもりなのですか?

確かに英会話ビジネスを通じて、夢を叶えた子どももある程度はいます。でもそれだけではまだまだ足りません。

冒頭でも話しましたが、あくまでも私の夢は、フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会をつくること。100人の子どもがいれば100の夢があります。その夢を叶えるためには英会話事業だけでは全然足りません。ですので、100の事業をつくるため、フィリピン国内でフィリピン人たちによる持続可能な新しいプロジェクトの立ち上げに取り組んでいます。これが現在のワクワーク・イングリッシュの山田貴子としてのもうひとつの仕事であり、メインの仕事なのです。


──オンライン英会話事業の方は?

経営者としての基本的な方針決定と採用の最終面接くらいです。こちらの方は現地のリーダーが優秀で、スタッフたちもよくやってくれており、チームとしての結束も固いので、私がいなくても問題なく回るようになっているんです。最近、現地オフィスに私のデスクすらなくなってしまって、ちょっとさびしいんですけどね(笑)。


──100の事業の創出に関してはどのような活動を?

一番大きな目標は「ワクワークセンター」の建設です。「ワクワークセンター」とは、英語教師になりたい、美容師になりたい、IT関連の仕事がしたいなど、フィリピンの貧困層の子どもたちがそれぞれの夢に向かって勉強できる学校のような場所です。そしてそこで知識や技術を習得した子どもたちがひとりの職業人としてフィリピン社会へとどんどん飛び出していくという状況を目指しています。

まだワクワークセンターはできていないのですが、すでに日本のNPO「ふくりび」と提携して日本のプロの美容師がフィリピンの孤児院の若者たちにスタイリングの技術指導をし、その訓練を受けた若者たちが美容師として働く美容室「Dream Runway」を出店しました。まずはこの2、3年で10店舗出すことを目標にして動いています。

孤児院でカットの実演をする「ふくりび」の美容師

──着実に前に進んでいますね。

ただ、100の事業を生み出すという夢を実現するためにはひとつ大きな問題があります。それは親です。せっかく子どもが自分の夢のために頑張ろうと学校に通ったり働き始めたりしても、収入のない親を支えるためにまた路上に戻ってしまう子どももたくさんいます。

ですから、子どもだけではなく親も自立させる必要があります。今年3月にはロレガに住むママパパと一緒に「WAKU MAMA CAFE(ワクママカフェ)」というカフェをオープンしました。また、今後ワクワークセンターの中には、ママ&パパ向けのプログラムもつくる予定です。例えば、親が洗濯の仕事ができる「ワクワークランドリー」を設立して、親子一緒に路上から自立できるようなモデルを作りたいと思っています。そうすれば親も仕事を通して収入が得られ、お客さんに感謝されることで自尊心を取り戻せるので、子どもに依存することがなくなり、結果、学校に戻れる子どもが増えると思うのです。

山田貴子(やまだ たかこ)
1985年神奈川県生まれ。株式会社ワクワーク・イングリッシュ代表。

慶應義塾大学環境情報学部卒、2009年同大学院政策・メディア研究科修士課程在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立。フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指してさまざまな事業を立ち上げ中。日本では軽井沢に拠点を置き、地域活性活動に取り組むほか、慶應義塾大学の非常勤講師や「湯河原子どもフォーラム」の講師も務めている。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議により、20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出。2013年、第1回日経ソーシャルイニシアチブ大賞の国際部門でファイナリスト選出。

初出日:2013.08.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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