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2013.07.01  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

苦しい日々

──立ち上げてからはどういうふうにお客さんを増やしていったのですか?

最初のうちは知り合いのつてを辿って、いろんな会社に「無料で結構ですので僕のブログで社員募集をさせてください」とお願いして回りましたが、無料でもほとんどの会社に断られました。たぶんわけのわからない、どこの馬の骨かもわからない奴には無料だとしても大事な求人広告は出せないと思われていたんでしょうね。媒体も個人がやってる単なるブログですし。

しばらくは苦しい状況が続きましたが、それでもあきらめないで粘り強く営業していると少しずつ求人を出してくれる会社が増えてきました。それにともなって採用に至る募集も増えていき、同時に求人広告の依頼も少しずついただけるようになりました。このような好循環でビジネスとして成立する目処が立ったので、スタートから半年が経った頃に有料にしたんです。

でも有料化したといっても、ひと月に数件なので、「東京仕事百貨」(以下、仕事百貨)だけではとても生活していけるだけの収入は得られませんでした。


──そのとき、やっぱり「仕事百貨」をやめようとは思わなかったんですか?

正直きつかったですが、「仕事百貨」はどうしてもやりたくてやっていることだったので、うまくいかないから、お金にならないからといってやめる理由にはなりませんでしたね。


──「仕事百貨」でお金を稼げない間は生活の糧はどういうふうに得ていたのですか?

「仕事百貨」の仕事と平行して、建築、不動産の仕事をしていました。例えば、店舗を造る案件では、図面を描いたり、設備やインテリア、内装などの提案をしていました。いわゆる設計事務所的な仕事ですね。これらは今まで会社にいたときに仕事として手がけたことはないのですが、基礎的な知識はあったので自分で調べたり人に聞いたりしてこなしていました。あとは他の会社の役員をやらせてもらったり。最初のうちはそんなことをしながら食いつないでいました。

そのうち仕事百貨への掲載依頼が増えて、1年くらいで副業はしなくてよくなりました。


──求人広告を増やすために工夫したことは?

継続しているうちに営業の手法が洗練されていった部分もあるでしょうけど、それよりもいい人材が採用できた会社の人が別の会社に紹介してくれたことが大きいですね。それでどんどんつながっていったという感じです。やっぱり僕ら自身が「仕事百貨はこんなにいい求人サイトなんですよ」と売り込むより、実際に仕事百貨を使って満足していただいた人が勧めた方が説得力がありますからね。そんな感じで1年ほどで「仕事百貨」だけでなんとかやっていけるかなという状態になりました。以降、営業をまったくしなくても売り上げ、利益ともに順調に伸びています。PVは月間60万以上(2013年7月現在)。現在は毎日3件ほど求人広告掲載の依頼をいただいており、月に20~30件掲載してます。

他の求人サイトとの違い

──営業しなくても口コミや紹介で依頼がどんどん舞い込むということは、利用者の満足度が相当高いということでしょうね。他の求人サイトとの違いはどんなところにあるのでしょう。

「仕事百貨」を立ち上げた理由のところでも触れましたが、まず、僕たちはその会社に合う人に応募してもらうために、「その会社で働くということ」をよりリアルに伝えたいんです。記事を読んだ人が実際にその職場に行って働いている人に会って、社内の雰囲気を感じて、さらにその職場でずっと働いていけばどうなるかを想像できるように、複数の社員に長時間インタビューして、仕事にかける思いなどを聞き出し、その会社ではどんな人たちが働いているのか、職場の雰囲気はどんな感じなのかをかなりの分量を割いて書いています。その中には取材者の主観もかなり入っていて、それにより、よりリアルで血の通った記事になっています。

また、いいことばかりではなく、仕事のたいへんな点やつらい点などネガティブな面もできるだけ包み隠さず書いています。それによって求職者が安心して仕事を探せると思うからです。この辺がその他の求人サイトとは決定的に違う点だと思います。

もちろん本当のところは実際に入社してみないとわかりません。でも深く丹念に取材して正確に伝えることで、両者がこんなはずでは...と思うミスマッチのリスクも減らせ、長く勤められる可能性が高まります。それはつまり求人企業側にとってもメリットになりますよね。このことも求人広告の掲載依頼が増え続けている大きな理由のひとつだと思います。

中村健太(なかむら けんた)
1979年東京都生まれ。株式会社シゴトヒト代表。

明治大学大学院理工学研究科建築学専攻を卒業後、不動産会社ザイマックスに就職。不良債権処理、大型複合商業施設の開発・運営などを経験後、2007年28歳のときに退職。2008年8月、生きるように働く人のための求人サイト「東京仕事百貨」(現「日本仕事百貨」)をオープン。「自分ごと」「隣人を大切にする」「贈り物」な仕事を、全国各地で取材し紹介している。2009年10月1日株式会社「シゴトヒト」設立。現在はまちおこしなどのディレクター、東京に町をつくる「リトルトーキョー」など各種プロジェクトやメディアのプランナー、キャリア教育などに関わり、「シブヤ大学しごと課」ディレクターや「みちのく仕事」編集長も務めている。

初出日:2013.07.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの