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2013.07.15  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

さまざまな仕事

──「シゴトヒト」では「日本仕事百貨」(以下「仕事百貨」)を中心としてさまざまなプロジェクトを推進していますが、中村さんご自身はどんな仕事・業務を担当しているんですか?

大きくわけて3つあります。まずひとつは書く仕事。「仕事百貨」で求人企業を取材して記事を書いています。ひとりで運営していた頃は月に10本ほど書いていた時期もありました。あのときはきつかったですね。でも今はスタッフもいるし、他のプロジェクトも多数走らせているので時間が取れないのと、何よりあまり抱え過ぎると記事のクオリティが落ちてしまうので、今はだいぶ減らして月に4本ほど受け持っています。一定のクオリティを保つのは月に8本、週に2本が限界だと思っているので、それ以上やらないように調整しています。

また、2012年にいろんな生き方、働き方があることを本の形で伝えるという「シゴトヒト文庫」を創設し、『シゴトとヒトの間を考える』(友廣裕一さんとの共著)という本を出しました。これは単に本を書くという仕事ではなく、新しい仕事のあり方というか可能性を提示するようなものになっているんです。

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中村さんの仕事道具。基本的にパソコンとスマホとカメラさえあればどこでも仕事ができるという。

通常、出版社から本を出す場合、著者の取り分、つまり印税は多くて総売り上げのわずか10%。10%もらえればいい方で、最近は7~8%というケースが普通になっています。1000円の本が1万部売れても70万円ほどにしかなりません。これだと正直生活していけませんよね。

でも制作と販売ほとんど自前でやればどうでしょう。『シゴトとヒトの間を考える』の場合、3000部刷ったのですがかかった印刷製本費が35万円。1冊の価格は1200円なので、もし全部手売りで売れたら粗利は90%の325万円になります。これだとかなりの利益になりますよね。このシステムは、元々は「建築と日常」という本を出しているゼミの先輩の手法を真似たものです。

本は最初の1カ月で1500部ほど売れて、現在は2000部ほどです。今後、仕事百貨の5周年記念のイベントを開催する予定で、そのために在庫を残しておきたいので今は積極的に販売していません。現在は第2弾の本を執筆中です。

2つめはさまざまなプロジェクトの統括です。現在進行中のプロジェクトだけで7つほどあり、水面下で動いているものも含めれば10を軽く越しています。それらが常に同時並行で動いています。もちろんすべてを完璧に把握しコントロールするのは物理的に不可能で、プロジェクトごとに担当スタッフはいるのですが、最終的な判断を下すのは僕なのである程度は把握する必要があるんです。僕含め、各担当はプロジェクトごとにいろんな業種・職種の人たちと組んで仕事をしています。

一緒に歩いて行く仕事

3つめは、うまく説明するのが難しいのですが、何か問題を抱えている人の側に立って一緒に考えるという仕事です。例えばある地方の会社の人から求人をしたいと相談を受けたのですが、よくよく話を聞くと今必要なのは求人ではなくその会社が地元でどんな仕事をつくることができるのか、その可能性を探ることがまず先決なんじゃないかと判断したのでそう伝え、そちらの方向で一緒に考えていくことになりました。ビジネス的にはそのまま求人広告の依頼を受けた方が正解なんでしょうけどね。

重要なのは目先の利益ではなく、相談者の視点に立って、本当の問題は何で、それを解決するためにはどうすればいいかを考えることなんですよね。そうすることによって、この先それが新しい事業になるかもしれないし、それを行う場を一緒につくることで相談いただいた会社に興味を持ってくれる人も増えるかもしれません。それが最終的に求人につながる可能性もありますし。

その他にも地方の移住促進の問題など、いろんな社会課題に関してほとんどまっさらな状態から相談を受けることもけっこう多いです。僕はこれまで多種多様な仕事を見てきているので、問題解決のための引き出しをたくさん持っているんです。相手の抱えている問題を引き出して、それに対して解決策を提示すると喜ばれることがとても多いですね。

それって「相談者に寄り添って一緒に歩いていく」という感じで、コンサルタントともアドバイザーともちょっと違うんですよね。相談されると「じゃあまずはお茶でも飲みながら話を聞きましょう」とか、「まずは一緒に考えてみましょうか」というところから始まって、当初の話とは全く違うプロジェクトに発展することもあります。例えば東北の仕事と人をつなげる「みちのく仕事」や鹿児島の口永良部島に居住者を募集する「島で生きる」がそうですね。その他にも現在進行中のプロジェクトなど、そういうケースがたくさんあります。


──やっていくうちに次々とプロジェクトが生まれてその分仕事がどんどん増えていくという感じなんですね。たいへんじゃないですか?

正直たいへんです(笑)。だから営業は一切やってないんですよ。でも相談者から喜んでもらえるし、最終的に求人につながることもあるので。


──さまざまなプロジェクトの中でも、事業の軸となっているのは?

やはり「日本仕事百貨」です。僕らのスタート地点でもありますし、それがメディアとなっていろんなつながりが生まれているので。

中村健太(なかむら けんた)
1979年東京都生まれ。株式会社シゴトヒト代表。

明治大学大学院理工学研究科建築学専攻を卒業後、不動産会社ザイマックスに就職。不良債権処理、大型複合商業施設の開発・運営などを経験後、2007年28歳のときに退職。2008年8月、生きるように働く人のための求人サイト「東京仕事百貨」(現「日本仕事百貨」)をオープン。「自分ごと」「隣人を大切にする」「贈り物」な仕事を、全国各地で取材し紹介している。2009年10月1日株式会社「シゴトヒト」設立。現在はまちおこしなどのディレクター、東京に町をつくる「リトルトーキョー」など各種プロジェクトやメディアのプランナー、キャリア教育などに関わり、「シブヤ大学しごと課」ディレクターや「みちのく仕事」編集長も務めている。

初出日:2013.07.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの