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2013.04.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

──これから働き方はどう変わると思いますか?

現状ではひとつの会社に勤めてひとつの仕事をしている人がほとんどだと思いますが、これからはひとりの人が複数の仕事をもつ、つまり多業化していくと思います。

それは副業やダブルワークというレベルではなく、それぞれ全然違う仕事だけど全部本業。いうなればたくさんの肩書をもつ人が増えると思いますね。

僕自身もいろんな仕事を同時にやっていますが、「複数の脚で立っている椅子」のような状態を目指すというか、おのずとそうなっていく人が増えるんじゃないかなと思っています。

その理由はひとつはリスクヘッジのため。ひとつの仕事しかもっていなければそれが失われたらとたんに収入が途絶えて行き詰まってしまうけど、複数持っていれば何とかなります。

もうひとつは一つの仕事だけで生活するのに十分な収入が得られなくなるという経済的な理由でそうなっていくのではないかと。

それに合わせて働く場所も多拠点化していくと思っています。実は僕もすでに多拠点化していて、ベースとしては東京の自宅件事務所があるのですが、それに加えて去年の9月から福岡にも部屋を借りているんですよ。


──社会的な動向としてはどうなっていくとお考えですか?

自らの意思で進んで高卒で働こうとする人が増えると思います。

この10~20年続いている不景気の影響で親の収入も下がり続けていて、せっかく大学に進学してもその後の経済的支援が十分に受けられない子どもが増えています。

奨学金を借りて大学に通うと、卒業と同時に数百万円の返済を始めなければならない。つまり、借金を返すためにはとにかく仕事を選ばずに働かなきゃいけないという状況にあるんですよ。こういう状況はバカらしいと、もう多くの親も子どもも思っているんじゃないかと。

だから、高校を卒業したら成長・成熟を遅延化させないですぐ社会に出て働くという人たちが増えてくると思うんです。

受け皿となる企業の方もそういう動き方を始めるでしょう。事実、某大手企業は高卒採用を始めましたよね。

もちろん大学のよさもありますが、そこをちゃんと天秤にかけて考えられる親や子どもや企業が増えてくるんじゃないかなと思っています。

家庭の事情などで高校を出てすぐ働き始めて立派な仕事をしている人、その中で充実感を見出している人はたくさんいるわけですからね。


──西村さんが理想と思う方法は?

僕の理想としては高校を出てすぐ就職するのもいいですが、もう少しもう少し"泳ぐ"時間があるといいなと思うんですよね。

例えばデザイナーになりたければ、美大に年間百数十万円の授業料を四年間払うより、その一年分でもさらに半分でもいいから融通してもらって、自分が「この人!」と思うデザイナーに「これで個人教授をお願いします」とでも頼んでみる方がいいんじゃないか、と思うことがあります。

師匠にしたい人の仕事を間近で見られるし、マンツーマンで教えてもらえるし、いろんな有能な人に会わせてもらえるだろうし、その中でいろいろと将来のことを考えられるだろうし、メリットは計り知れません。

何でもそうですが、学校で習うよりも現場で実際に仕事をしながら学んだ方が実戦的なスキルを身につけられるので確実に早く一人前になれるんですよね。

とにかく一番良くないのは働くことを意味もなく遅延させること。今後、大卒で働くという価値観の見直しがいい形で進んでいけばいいなと思っています。

西村佳哲(にしむら よしあき)
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表/プランニング・ディレクター/働き方研究家。

武蔵野美術大学卒業後大手建設会社の設計部を経て30歳のときに独立。以降、ウェブサイトやミュージアム展示物づくり、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクション、働き方・生き方に関する書籍の執筆、多摩美術大学、京都工芸繊維大学非常勤講師、ワークショップのファシリテーターなど、幅広く活動。近年は地方の行政や団体とのコラボレーションも増えている。『自分の仕事をつくる』(2003 晶文社/ちくま文庫)、『自分の仕事を考える3日間』『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』(2009,10 弘文堂)、『いま、地方で生きるということ』(2011 ミシマ社)、『なんのための仕事?』(2012 河出書房新社)など著書多数。

初出日:2013.04.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの