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2013.04.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

──モノづくりの部分では奥様と一緒に仕事をしているわけですよね。そういう意味でも仕事と私生活が同じという環境にストレスはありませんか?

おっしゃるとおり、僕は自宅を仕事場にして、「リビングワールド」を妻と一緒に経営しています。

でも大抵の人は「妻と一緒に仕事をしない方がいい」と言うんですよね。特にクリエイティブ的な業界、デザインや制作の人たちはだいたいみんなそう言いますね。

確かにその気持がよくわかる部分もあります(笑)。

でも僕たちはそもそも何らかの主旨に基づいてこの関係を始めたわけじゃないんですね。縁があった、相性がよかったというだけのことなんです。僕たちにとっては一緒に働いて生きるということがすごく自然なことだったんですよね。


──奥さんと一緒に働くということのメリットについてもう少し詳しく教えてください。

最大の利点は性格や価値観、ものの考え方や持っている技術など、お互いのすべてが深く理解できている関係で仕事ができることですね。この安心感はとてつもなく大きいですよ。夫婦という関係ならではだと思います。

それから身内であるがゆえに、通常の仕事の同僚よりも遠慮なくちゃんと言いたいことが言えます。この関係は貴重で、会社内の関係でありがちな、「本当はこう思っているんだけど、仕事上の関係だから抑える」というようなことがないわけですよ。

自分の存在と仕事が重なっていて、「ここまでが仕事、ここからがプライベート」という仕事の仕方はしない。お互いにそういうレベルで話を交わせるのは、コミュニケーション上で齟齬が少くなり、真意が確実に素早く伝わるので、すごくナチュラルにものづくりができるんです。


──公私一致的な働き方をしている西村さんは、昨今話題になっている「ワークライフバランス」についてどう思いますか?

僕たちのような「ワーク」と「ライフ」の間に垣根がない人にとっては、現状の「仕事の時間は抑えて」といった論調で語られる「ワークライフバランス」は、ピンときません。

しかし会社勤めの人は「ワーク」と「ライフ」を、あるところで線引きしないことにはとてもやってられないと思うだろうと想像するんですよね。

「この仕事の意味があまりにも感じられない」とか「いったい何のために自分はこの仕事をやっているんだ」というような状況だと、「ここから先は仕事を侵入させない」という線を引いて、自分の居場所、安心できる精神圏みたいなものをつくらないと精神的にかなりきついと思うので。

でもサラリーマンでもそうじゃない人もいます。僕の友人の大手ガス会社に勤めている人は、究極の請負業であるサラリーマンでも「自分の仕事」といえる仕事をしていく方法はちゃんとあると言っているんですね。それは何かというと「人から"10"やれと言われた仕事を"10"じゃなくて"15"で返すことだ」と。つまり命じられたレベル以上の仕事をするということ。

例えば彼が企画書の作成を命じられたとき、「こんな仕事意味がない」とか「ワークライフバランスが大事だから定時で帰る」ではなく、彼は完成度の高い企画書プラス頼まれてもいない補足資料をつけるんです。

本筋の仕事とは直接関係はないけれど、興味がわいて調べてみておもしろいと思ったことを補足資料としてまとめて、プレゼンする。その結果、頼んだ人も喜ぶし、おもしろいやつだなと好印象を持たれるんですね。

大抵の場合、会社の中ではみんなが極力自分の仕事を減らそうと動いているので、仕事を増やす方向に動いた人は目立つ。さらにその人が生き生きと仕事をしているし、仕事の結果が予想以上だと、また別の企画が持ち上がった時に、そういえばあいつにやらせてみようと声をかけられる。つまりその仕事がフラグになって自分の仕事がどんどん生まれて、回り始める。

そう彼は言っているし、実際にそうすることで生き生きと人生を生きているという感じなんですよね。

その話を聞いて、なるほどと思いました。つまり、ワークライフバランスはライフ寄りにバランスを取るのではなく、ワーク寄りに重心をおく。前のめり気味にバランスを取る。そうすると仕事も人生もうまくいく。それは僕のワークライフバランス観に近い。彼に教わった部分が大きいです。

西村佳哲(にしむら よしあき)
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表/プランニング・ディレクター/働き方研究家。

武蔵野美術大学卒業後大手建設会社の設計部を経て30歳のときに独立。以降、ウェブサイトやミュージアム展示物づくり、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクション、働き方・生き方に関する書籍の執筆、多摩美術大学、京都工芸繊維大学非常勤講師、ワークショップのファシリテーターなど、幅広く活動。近年は地方の行政や団体とのコラボレーションも増えている。『自分の仕事をつくる』(2003 晶文社/ちくま文庫)、『自分の仕事を考える3日間』『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』(2009,10 弘文堂)、『いま、地方で生きるということ』(2011 ミシマ社)、『なんのための仕事?』(2012 河出書房新社)など著書多数。

初出日:2013.04.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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