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2016.02.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

さまざまなプログラムを実施

──3回目のケニア壁画プロジェクトはどういうものだったのですか?

ケニア壁画プロジェクト

2014年ケニア壁画プロジェクト(撮影:小野慶輔)

2006年、2010年と描いたので、4年に一度、ワールドカップの年に壁画を描きに行くことにしようと、2014年3回目のケニア壁画プロジェクトを立ち上げました。このときはただ子どもたちと壁画を描くだけではなく、日本とケニアのより多くの人を巻き込んだ参加型のプロジェクトにしようといろんな企画を考え、2014年9月から1年かけて準備しました。

2回のケニア壁画プロジェクトを経て、自分が本当にやりたいこととは、自分にできることとは何だろうということを改めて考えるところからスタートしました。これまでは僕自身がいろんな経験をしたかったから1人でケニアに行って、壁画を描いたり現地の人と交流することを通して、驚きや喜びを得ることができた。それで「ああ、今回も楽しかった」と終わっていたのですが、やっぱりそれだけではダメだなと。僕の感じた喜びや驚き、感動をもっといろんな人に伝えたり、僕と同じように感じてもらえるような活動にしたいと思ったんです。

例えば壁画の2m×5mの原画を日本の子どもたちと一緒に描いて、それをケニアに持って行って現地の子どもたちと壁画として一緒に描くことにしたのですが、その原画を1000ピースに切り分け毎週のようにいろんな場所でイベントを開催して販売しました。このプロジェクトに賛同していただき、ピースを購入していただいた方は1000分の1の絵を保有することで、実際にマゴソスクールに描かれる壁画の一部をサポートしていることになり、同時に僕らの活動資金となります。


佐賀城下栄の国祭り期間中に行った「ケニア壁画プロジェクト」の壁画原画制作では、のべ100人の子どもたちが参加して10メートルの原画が完成

佐賀城下栄の国祭り期間中に行った「ケニア壁画プロジェクト」の壁画原画制作では、のべ100人の子どもたちが参加して10メートルの原画が完成

パズルピースプロジェクト

パズルピースプロジェクト

また、ケニアの子どもたちと日本の子どもたちがアートを通して交流できるようなプログラムも実施しました。具体的には当時僕が東京都荒川区に住んでいたので、荒川区の小学校とナイロビのマゴソスクールをスカイプで繋いで、それぞれが言葉を使わずに絵だけでコミュニケーションを取るようなワークショップを行いました。それぞれ9時、12時、15時、18時、21時に何をしていたかを絵に描いて見せ合ったのですが、やっぱり日本の子どもたちとケニアの子どもたちではその時間にやってることが全然違うんですね。写真には出ない意識の部分が絵にすごく現れていたので子どもたちも楽しんでいましたし、僕自身もとってもおもしろかったです。それをケニアのスラム街の子どもだけじゃなくてマサイ族の子どもにも同じようなワークショップをしてもらったんですよ。

荒川区立尾久宮前小学校とマゴソスクールをスカイプでつないでワークショップを実施

荒川区立尾久宮前小学校とマゴソスクールをスカイプでつないでワークショップを実施

マゴソスクールと荒川区立尾久宮前小学校の子どもたちがお互いの町のワードを20個ずつ出し合い、それを白い布に描くフラッグ交換ワークショップを実施。荒川の子はケニアの絵を描き、ケニアの子は荒川の絵を描き、両校の交流の証として交換された(撮影:小野慶輔)

その他もいろんなプログラムを実施して、両国の子どもたちにすごく好評だったのでやってよかったと思いましたね。そして2015年2月、ケニアに行って現地の子どもたちと一緒に炎天下、12日間かけて壁画を完成させました。みんなすごく喜んでくれたし、完成のお披露目会には500人もの人たちが集まり大いに盛り上がりました。今回も大成功でしたね。壁画を描くだけではなく、いろんなプログラムを企画し、日本とケニアのたくさんの人々に参加してもらい交流を深められたので、この3回目のケニア壁画プロジェクトがこれまでで一番手応えを感じたものになりました。

これまででもっとも手応えを感じたという2014ケニア壁画プロジェクト(撮影:小野慶輔)

これまででもっとも手応えを感じたという2014ケニア壁画プロジェクト(撮影:小野慶輔)

Over The Wall

そして、初めてチームとして壁画プロジェクトに取り組んだということも大きいですね。今までは世界中に壁画を残したいという個人的な思いで活動していたので、組織化もされておらずコンセプトもあやふやでした。しかし2014年のケニア壁画プロジェクト実現のために集まったメンバーと1年間かけていろいろと試行錯誤していくうちに、コンセプトや目的、成功させるための方法論などがすごく固まっていきました。そして、プロジェクト自体も成功したときに、この壁画プロジェクトをもう少し規模を大きくして毎年世界のいろんな場所で描けるようにきちんと組織を作ってやっていこうということになり、「Over The Wall」というチームを作ったんです。


──チームのスタッフは何人くらいいるのですか?

基本は10名ほどです。現地に行くのが僕とカメラマン、ワークショップ担当です。現地で行うワークショップは、子どもたちが描いた絵で商品を作って現地にお金が落ちるシステムを作るために行っており、その現場での責任者がワークショップ担当者です。また、子どもたちの絵をデザインするブランド「whoop」は香月裕子さんというテキスタイルデザイナーが担当していて、彼女が責任者です。現地に行くメンバーはその現場責任者という立場です。あとはWeb制作担当や資金集めのイベントのお手伝いをしてくれる人、翻訳をしてくれる人などがいます。みんなで月に1回くらいの頻度でミーティングをしています。


──壁画プロジェクトをやってよかったと思う瞬間は?

ミヤザキさんが描いているとどんどん人が集まってくる(撮影:小野慶輔)

ミヤザキさんが描いているとどんどん人が集まってくる(撮影:小野慶輔)


一番最初、2006年にケニアに行った時は人種も環境も全然違う国で、果たしてケニアの人々に認めてもらえるだろうか、受け入れてもらえるだろうかとすごく不安でした。周りに知り合いが1人もいない、1人の生身の人間として行くので、そこは絵の実力を含めた人間力の勝負になるんですよね。

やっぱり描き始めの頃は、何しにきたの? ここで何のために何をしてるの? みたいな感じで人々の態度が冷たかった。でもどんどん絵のクオリティが上がってきて、いい絵ができるとわかると人がたくさん集まってくるんですよね。人々の態度も、「いい絵ができてきたね」みたいに温かくなってくる。そして最終的に壁画が完成したら「オー、マイ・フレンド!」(ハグ)みたいな感じになるので、自分の絵でその人たちの気持ちをつかんで、心が通じ合えるような状況に変えた時、壁画をやってよかったなという気持ちになります。

また、マゴソスクールにはこれまでの壁画プロジェクトを通してアートクラスができて、50人近い子どもたちがアートの勉強をしているんですよ。こういうこともうれしいですよね。

壁画を描くモチベーション

──壁画プロジェクトの根底にあるモチベーションは?

ミヤザキケンスケ-近影12

たまたま僕は絵描きとして絵を描いて生活していますが、絵というもので何ができるかをいつも考えているんですね。それが僕の活動の根本にある思いです。元々世界中の人々と交流しながら何かを残したいと思っていて、それが今取り組んでいる壁画プロジェクトなんですが、プラスαで、その土地で暮らす子どもたちがどういう絵を描いて、その背景にはどういうものがあるのかをその場で知ることができることもすごく大きな魅力なんです。

このように自分が携わる絵を通して世界中のいろんなものが見えたらきっとおもしろいし、それを世界中のいろんな人に伝えたいという思いでこれまで3回のケニア壁画プロジェクトに取り組んできたわけです。でもケニアだけじゃなくて全然違う地域、例えば北極圏やイスラム圏などに暮らす人々の生活の場に入っていって、同じ壁画プロジェクトをやったらまた全然違うものが見えてくると思うんですね。それを絵を使って世界中の人々に伝えたい。絵という媒体には他の伝達手段にはない可能性があると信じています。だから壁画プロジェクトを一生かけてやりたいなと思っているんです。


──今後の海外での壁画プロジェクトの予定は?

今、ちょうど東ティモールでの壁画プロジェクトが進行中です。きっかけは、昨年(2015年)の5月に福岡県宗像市で開催された国際環境会議。そこでライブペイントやワークショップをやった時に、東ティモールの元大統領や日本人の元大使が「東ティモールは独立してまだ間もない国なんだけど、君がやってるような活動を東ティモールでやってもらえるとうれしい」と言ってもらえたんです。僕も次の壁画プロジェクトはどこの国にしようかなと考えていたところだったので、こういう御縁を大切にしたいと思い東ティモールでやることにしたんです。

たくさんの子どもたちと一緒に完成させた原画

たくさんの子どもたちと一緒に完成させた原画

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東ティモール壁画プロジェクトの視察のため沖縄へ

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東ティモールの子どもたちと

現時点では、東ティモールについて勉強しているのと、現地NGOの方々とコミュニケーションを取りながら具体的にどういうふうにしてやろうか検討中です。たまたま東ティモールで活動している方が沖縄とすごく強い繋がりがあるので、現地に壁画を残す活動に加え、東ティモールの子どもと沖縄の子どもをつなぐようなアートワークショップをやろうと思っています。

ミヤザキケンスケ

ミヤザキケンスケ(みやざき けんすけ)
1978年佐賀市生まれ。トータルペインター。

高校の頃から本格的に絵を学び始め、筑波大学芸術専門学群、筑波大学修士課程芸術研究科を修了。在学中にフィリピンの孤児院に壁画制作、テレビ番組「あいのり」に出演。世界を周りながら絵を描く。その後、イギリス(ロンドン)へ渡り、2年間クラブやライブハウスでライブペイントを行うなどのアート制作に取り組む。帰国後、東京を拠点に活動。NHK「熱中時間」にて3年間ライブペインターとして出演。この他、ケニアのスラム街の壁画プロジェクト(2006年、2010年、2014年)、東北支援プロジェクト(2011年)など、「現地の人々と共同で作品を制作する」活動スタイルで注目を集める。現在、「Over The Wall」というチームを立ち上げ、世界中で壁画を残す活動に取り組んでいる。一女の父として家事・育児に積極的に取り組むイクメンでもある。

初出日:2016.02.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの