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2015.12.01  取材・文/山下久猛 撮影/林賢一郎

西圓寺の奇跡

西圓寺ではライブなどさまざまなイベントが開催されている

西圓寺ではライブなどさまざまなイベントが開催されている

──どういうことが起きているんですか?

8年前、西圓寺が開設してすぐの頃、よく来る人の中に重度心身障害の男性と認知症のおばあちゃんがいました。重度心身障害の人は車椅子に乗っていて首は15度くらいしか動かないのですが、私たちが一所懸命リハビリをしても一向によくなりませんでした。そんなある日、認知症のおばあちゃんが、重度心身障害の彼にゼリーを食べさせようとしました。でも彼は首がほとんど動かないので、スプーンがうまく口の中に入らず、ゼリーが口の端から流れ落ちてしまいました。次の日、またそのおばあちゃんが来てゼリーを食べさせようとしたのですが、やはり同じ結果になりました。でも毎日繰り返していくうちに、1週間後にはゼリーが口の中に入るようになったんです。どうしてだろうとよく観察していたら、彼の方からも食べやすいように首を動かしていたのですが、その可動域が以前よりも増えているように見えました。おばあちゃんの方も上手になっていて、2、3週間もすると一発でスプーンが彼の口の中にすぽんと入るようになったんです。これには私や介護スタッフも非常に驚きました。

雄谷良成-近影6

さらにこのおばあちゃんの義理の娘さんから、「(おばあちゃんの)深夜徘徊が激減してとても助かっています。ありがとうございます」とお礼を言われたんです。どういうことかと聞くと、おばあちゃんは毎日障害者の彼にゼリーをあげないと彼が死んでしまうと思っているから毎朝早く起きて西圓寺に行くようになった。それからというもの夜はちゃんと寝るようになって、深夜徘徊が減ったということだったんです。

これにもびっくりしました。私たち福祉のプロがいくら頑張っても認知症のおばあちゃんの深夜徘徊癖を直せず、重度心身障害者の首の可動域も増やせなくて困っていたのを、2人の当事者が交わっただけで両方の問題が改善してしまった。この一件で、認知症の高齢者でも障害者でも自分たち福祉のプロに任せておけば大丈夫だなんて偉そうに言うのは思い上がりも甚だしいと痛感しました。当事者の方、それぞれに自分で直す力が備わっているのだから、私たちはただいろいろな人がごちゃ混ぜになって、関わりがもてる場を作るだけでいいんだと確信する大きなきっかけとなったのです。

人が集まるコミュニティのヒントを得る

もう1つ、みんなで驚嘆した出来事があります。西圓寺ができてから、その周辺地域は6年間で55世帯から69世帯に増えたんです。そこは田園地帯にある普通の集落で、それまで人口減少地帯だったのに、いきなり人が増えたことに驚きました。その理由を考えたところ、西圓寺にはいろんな人がいて、ほどよい距離で過ごせることがとても快適だった→若い人たちも地域外に流出しなくなって実家の近くで家を建てて住むようになった→それを見ていた他の地域の人も、このコミュニティは何だかおもしろそうだと思って住み始めた→世帯数増、ということではないかという結論に達しました。

普通、住む場所を決める際はいろんな条件を考慮するでしょうが、「快適にいろんな人と関わることができる場所」に惹かれて人びとが集まっているということに、私たちはこれからの町づくりのヒントを得たんです。ただ、これはコミュニティのコアとなる西圓寺という廃寺があったからこそ実現できたレアケースなので、今度はそれがないところで一から町を作ろうと思いました。それが2014年3月にオープンしたShare金沢です。


──より大きなコミュニティを作りたかったということですか?

いえ、根本にあったのが西圓寺のようなさまざまな人と関わる環境をどう作るかという視点だったので、規模を大きくしようという意識はありませんでした。本当は町の中に、障害児施設や高齢者施設、学生のアパートなどを点在させたかったのですが、法律的に難しかったので、いっそのこと町ごと作ろうかと考えたわけです。


インタビュー後編はこちら

雄谷良成(おおや りょうせい)

雄谷良成(おおや りょうせい)
1961年金沢市生まれ。

社会福祉法人 佛子園理事長、公益社団法人 青年海外協力協会 理事長、全国生涯活躍のまち推進協議会 会長、日蓮宗普香山蓮昌寺 住職
幼少期は祖父が住職を務めていた日蓮宗行善寺の障害者施設で、障害をもつ子どもたちと寝食を共にする。金沢大学教育学部で障害者の心理を研究。卒業後は白山市で特別支援学級を立ち上げ、教員として勤務。その後、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国へ派遣。障害者教育の指導者育成や農村部の病院の設立に携わる。帰国後、北國新聞社に入社。メセナや地域おこしを担当。6年間勤務した後、実家の社会福祉法人佛子園に戻り、「星が岡牧場」「日本海倶楽部」などの社会福祉施設や、「三草二木 西圓寺」「Share金沢」などさまざまな人が共生できるコミュニティ拠点を作るほか、社会福祉法人としては初めてとなるJR美川駅の指定管理も手掛けている。現在は輪島市と提携して町づくりに「輪島KABULET」取り組んでいる。

初出日:2015.12.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの