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2015.06.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

「社会の中の自分」

菊池 幼児と親世代だけではなく、いろんな世代でさまざまなことをやっていくこともすごく大切だと思っているんですよね。

小笠原 うん。保育士として、子どもに関わる1人の人間として、自分の世界を広げるためにもあまり知らない分野でもきになるなと思えばイベントに参加したり、いろんな人に話を聞きに行くという姿勢は常に持ち続けていたい。実際に体験・行動することで本当に自分が興味のあることもわかるだろうし、それを子どもたちと一緒に経験することで私も常に進化していきたい。そうすることで、子どもたちが舞ちゃんといると楽しいなとか新しい世界が見えるなと感じてくれたらうれしい。アーティストも自分と対話しながら作品をつくっていたり、プロセスを大事にしているわけだから、アートと保育、宏子さんと私の感性や意識は極めて近いなと感じる。「社会の中の自分」という意識がすごく強い気がする。

菊池 そうだよね。アメリカに住み始めたころから「自分が生かされてる感」がずっと消えないんです。いろんな人にものすごく助けられて今がある。それに対して漠然と恩返しがしたいということじゃなくて、1人じゃないんだから自分以外のことに対しても何かをしなきゃいけないと。私は、だから大きなことをやりたいというよりは、自分の身の丈でやれることをやりたい。それなら確実に実現できるし、そこをきちっとやっていかないと結果よからぬ方向へ行ってしまうだろうから、そういう意味での目標を見失わないようにしています。また、お互い感性や考え方、目指している方向が同じ人とたくさん、いろんな企画を考えてやっていきたい。だからこそ舞ちゃんとのコラボも1回でおしまいじゃなくて、もうちょっと企画を煮詰めていくことで、絶対新たな何かができあがると思うんですよね。あと、舞ちゃんが普段保育の活動をしているとき、私と一緒に活動して得たことが何らかの形で生かされると思うし私自身も舞ちゃんから学んだことはアートの活動にかなり生かされている。こういうことがたくさん起きればいいよね。

小笠原 お互い日々、自分自身の活動を通して進化して、また会って一緒に活動することで進化する。こういうことも実験だなという感じ。これから何が繰り広げられるかは私たちにも分からないところはあるし、逆に見えなくても楽しいよねと言えるから、いつまでに何かをやろうとかも別にないよね。

菊池 いい意味でも悪い意味でも一緒に「仕事」をしてる感はないよね(笑)。

小笠原 そうだね(笑)。

菊池 まずは自分たちが納得いくことをやり遂げるとう思いは、たぶん今の2人の暗黙の了解。そして、たくさん時間もかけたいから、もちろんいずれは何らかの形で仕事に繋げないといけないけれど、たぶん繋がるという確信はあるよね。

小笠原 あるある(笑)。あと、私が個人的にすごく意識しているのは、自分が今やりたいと思ってることを内にとどめておくと誰にもわかってもらえないから、宏子さん含めいろんな人とまずはやって形にしてみたい。誰もやったことのないことは失敗するかもしれないけど、失敗を通して私自身もどんどん成長していけるし、私の失敗を見た他の誰かがインスパイアされて新しい挑戦をすることに繋がるかもしれないので、失敗を恐れずにチャレンジしたい。そういうことを伝えたいし、私が楽しく一所懸命いろんなことを形にして生きていくことが、子どもであれ大人であれ誰かのためになっていればさらにうれしいなと思います。

菊池 私もいろんな新しいことをやるのは好きだし、舞ちゃんも共感してくれているので、自分たちのジャンルの中だけに埋もれることなく、挑戦的な活動はお互い今後もしていきたいですね。私たちは考えるよりもまずはやってみようというタイプなので、今後もアート×幼児教育というテーマで断続的に新たな実験をしていきたいですね。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの