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2015.05.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ワークとライフを一致

──職業は夢を実現するための手段、ツールであるという考え方ですね。ワークライフバランスについてはどう考えていますか?

僕は基本的には仕事とプライベートは一致できた方が幸せだと思っています。なぜなら、仕事って1週間のうち5日会社で働くとすると、人生の約7分の5もの時間を費やすことになるでしょう? だとすると会社での生活が不幸だと人生の7分の5が不幸になってしまうということですよね。それでいいわけがない。仕事とプライベートを分けるからそうなるわけで、だから僕にとってはワークとライフをいかにバランスさせるかじゃなくてどう一致させるかが重要だし、それを考える方が幸せだなと思いますね。その理想となる最適な形が家族経営なんです。

激務の会社員の場合、平日は子どもと全然顔を合わせられないという話をよく聞きますが、農家の人と午後3時くらいに家の前で立ち話していると子どもが学校から帰ってきてただいま、おかえりと言い合える。そういうのを見ると農家って幸せだなと思いますよね。子どもが興味をもてば仕事の現場を見せることも体験させてあげることもできますしね。それは幸せなことだなと思いますよね。


──確かに家族経営だとまさにワークもライフも一致しますよね。奥さんも株式会社みやじ豚の一員として仕事をしているとのことですが、夫婦で働くというのはいかがですか?

もちろん幸せなことだなと思っています。常に一緒にいられますからね(笑)。

第1回REFARM会議にて

──今後の目標や展開は?

うちの核である父と母はもう高齢なのでいつまでも働けるわけではありません。彼らが引退した後も、これまで通りに養豚業を継続していくにはどうするべきか。今から新しい体制を考えておかなければなりません。あとはまだまだ肉の販売先が足りないので、どうやってうちの豚の認知度を上げて、扱ってくれる取り引き先を増やすか。これが永遠の課題ですね。

よりよい世の中をつくるために

──世の中の人びとに訴えたいメッセージがあればお願いします。

規模は小さくてもいいものを作って顧客と直接対話する農家が増えればいい世の中になると思っています。豊かな暮らしをするためには、多様な選択肢があることが大切だと思います。地方が東京のものまねをしても魅力的な地域にはなりません。その地域ならではの独自性があるからこそ若者のIターン先や観光地として選ばれるのです。日本の中にそうした多様性や独自性を担保するためには、生活者がお金の使い方を変えることです。例えば、子どもたちのために国産のおいしくて身体にいいものを食べさせたいと思ったら、安さだけを基準にするのではなく、少しばかり高くても、国産のものを買う。できれば、顔の見える生産者から買う。そうすれば私も含め日本の生活者は、国産のおいしい食材を今後も購入することができます。世の中を変えるのは、政治家や革新的な商品を創出する起業家だけではありません。私たちが何に対してお金を使うかによって変わるのです。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの