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2015.05.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

全国を飛び回る日々

──いろいろな活動をしている宮治さんですが、日々、どんな感じで働いているのですか?

日によってやることは全然違いますが、だいたい毎日朝6時くらいに起きて、読書をします。それから7時に朝ご飯を食べて、8時くらいから自宅で事務仕事を始めます。以降はカフェでWeb制作会社の人やみやじ豚を扱いたい飲食店の人と打ち合わせをしたり、農家のこせがれネットワーク関係でこせがれや農業で何かやりたいという人の相談に乗るなど、とにかくいろいろな人とお会いします。

講演の依頼もよくいただいていて、全国各地で多い年だと年間50~60本の講演をしています。月の半分以上、関東圏以外に行くこともあります。最も依頼が多いのはやはり農業者の集まりですね。あとは中小企業の経営者の勉強会や官僚の新人研修の講師として呼ばれることもあります。その他は教育機関も多いです。キャリア教育の一貫で中学校や高校などでこれまでの取り組みなどについて話をしたり、大学で講義のゲストスピーカーとして呼ばれて話すこともあります。これまで慶應義塾大学、早稲田大学、明治学院大学、高千穂大学、名古屋大学、大阪大学などいろいろな大学で講義をしてきました。


──講演ではどのようなことを話しているのですか?

例えば農業系の学校でよく話しているのは、学校を出てすぐに実家の農業に従事するんじゃなくて、就職活動して一度会社勤めを経験した方が絶対にいいということです。僕自身の経験からも、会社に入って学んだことや経験したこと、身につけたスキルは農業をやるときに絶対に生きます。逆にそれらは学校を卒業してすぐに家業に入ると絶対に身につきません。家族同士だとお互いに甘えも出るし、父親もビジネスの経験がないので変化を嫌い古い仕組みを押し付けたり、こうした方がいいんじゃないかと意見を言っても半人前のくせに偉そうなことを言うな、お前はおれの言うとおりに農作業をやっていればいいんだとそれこそ理不尽なことを言われます。そうなってもすぐに実家に入ると逆らえないんですよね。

だけど一回外の世界でビジネスを経験したら、父親がもっていないスキルやノウハウ、ネットワークを得られるので、それらを武器にすれば父親よりも優位に立てます。新しいことをやるときでも、親父はインターネットの使い方も知らないんだから、そこはおれに任せろとか言えるわけです。だから一度外の世界に出るのは遠回りのように見えて実はそうじゃないんですよね。農業技術以外で父親より優れた能力を身につけて初めて農業もできると思った方がいいということを話しています。

農家のこせがれネットワークでのイベントの様子

──みやじ豚と農家のこせがれネットワークでは仕事の割合はどちらが多いのでしょう。

現在はみやじ豚の方が多いです。意識的にそうしていて、自分が若い農業者の手本にならないといけないという意識で農業に従事しているので、みやじ豚がきちんと成功してないと、僕の話に説得力をもたせられないからです。だからまずはきちんと利益が出るように自社の経営をしっかりやって、それと平行して全国を回って悩める農家のこせがれや農業者のみなさんと交流をもち、講演会や経営相談会を行っているんです。

理想のライフスタイルを実現

──そのビジネスの感性というかセンスがすごいと思いますが。仕事の魅力、やりがいはどんなところにありますか?

農業の最大の魅力は自分の理想のライフスタイルを実現できることです。法人化して株式公開を目指すこともできるし、田舎で自給自足的な暮らしも実現できるし、僕のように農作業は一切せず、全国に仲間をつくりながら農業経営もできます。


──宮治さん個人の理想のライフスタイルとは?

夢を掲げて実現するために働くことが理想のライフスタイルです。僕の夢は先にも話したように、一次産業をかっこよくて、感動があって、稼げる3K産業にすること。それを実現するために、みやじ豚の代表と農家のこせがれネットワークの代表の二足のわらじを履いているんですよね。それが僕の理想の働き方でもあるんです。

学校に行って講演するときには、「夢=職業じゃないよ」という話をよくしています。生徒に将来の夢について作文を書かせると、自分の夢は医者になること、警察官になること、プロ野球選手になること、歌手になることなどと、ほとんどの生徒が職業を書きます。でも夢って職業じゃないんですよね。僕の夢は一次産業を3K産業にすること。この夢を実現するためには職業は政治家でも、先生でも、八百屋でも、農業者でも何でもいい。たくさんある仕事の中から最も自分がやりたい、自分に合っている仕事を選べばいいんですよ。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの