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2014.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/宋英治

池島での活動

──後編では、まず地域おこし協力隊として3年間、池島で具体的にはどのような活動を行ってきたのかをお聞かせください。

小島さんが池島赴任直後に開設したブログ"九州最後の炭鉱「池島」より"

念頭にあったのが、観光で島を再生したいという思いです。そのために島に残された炭鉱遺跡、産業遺産などの資源を活用してたくさんの人を呼びたいと思い、「記録より記憶に残るまちづくり」というテーマに沿っていろいろな活動を行ってきました。最も手応えを感じられたのは、池島のPR、外部への情報発信です。それまでは池島の基本的な情報が何もありませんでした。でも島には素晴らしい産業遺産や人懐こい優しい人びとなどここにしかない観光資源がたくさんあるので、その基本情報さえしっかり発信できれば自然と人が来るんじゃないかと思い、まずブログ『九州最後の炭鉱「池島」より』や、WEBサイト『「ようこそ炭鉱体験「池島」へ』を立ち上げて、炭鉱見学について、池島へのアクセス方法、宿泊情報、お店紹介などの基本情報を赴任して2ヶ月以内にアップしました。


──Webサイトを拝見しましたが、知りたい情報がひと目でわかってとても使いやすいサイトだと感じました。

Web制作会社で実際にWebサイトを作っていたことや、2005年くらいから運営していた社会科見学のブログをやっていたことが役に立ちました。社会科見学のブログでは賞をいただいたりしていたので、ブログの作成・更新は得意だったんです。また、Facebookで『炭鉱島「池島」応援隊』立ち上げて池島の紹介、活動報告を逐一行いました。

Facebookファンページ『炭鉱島「池島」応援隊

──島内の写真もたくさん掲載されていますが、異様というか迫力があって興味を惹かれました。

やっぱり視覚に訴えた方がインパクトは強いし、島に来たいという気持ちをより喚起できると思ったので、カメラ機材を持って島をめぐり、炭鉱、発電所、池島を一望できる山頂から風景などの見どころを撮影して紹介、発信しました。このときも社会科見学を通して独学で身につけた撮影技術が活きました。

Webサイト「池島」に掲載されている小島さん撮影の写真

クリエイターの招致

クリエイターの招致にも積極的に関わりました。2012年11月全国石炭産業関連博物館等研修交流会で軍艦島池島視察ツアーの企画が出た際、船に空きがあったので長崎市から乗船希望者がいないかと相談されました。この時、「のぼうの城」や「ガメラシリーズ」などで有名な映画監督の樋口真嗣さんなど親交のあった映画監督や「怪獣絵師」として知られるイラストレーターの開田裕治さんを含むクリエーターらに声をかけたところ参加してくれました。この時の視察が元で、後にPV「enchantMOON」が炭鉱で撮影され、今年公開予定の大作映画「進撃の巨人」のロケ地として軍艦島が選ばれたのです。実は池島も候補になっていたのですが、大勢のスタッフが泊まる宿泊施設や食事をする場所がないなど、ロケ隊の受け入れ体制が整っていないという物理的な事情で残念ながら実現しませんでした。

クリエイターズツアーでの炭鉱見学

また、社会科見学で繋がった情報発信力、社会的影響力の強い漫画家や映画監督やイラストレーターやライター、写真家、作家などのクリエイターのみなさんの力を借りて池島を世に広めようと、クリエイターズツアーを2度開催しました。2013年6月に前述の開田裕治さんと一緒に開催した第1回のツアーでは、島内ガイドや炭鉱見学に加えて、池島小中学校の子どもたちとクリエイターたちが一緒に絵を描く「イラストレーターと絵を描こう」を実施しました。開田裕治さんが直接子どもたちに絵の描き方を教えるというもので、子どもたちもとても楽しそうでした。また、世界的にもファンが多いイラストレーターで漫画家の寺田克也さんに観客の目の前で絵をライブドローイングをしていただきました。そのときの絵は宿泊施設の中央会館に展示しており、寺田さんのファンがその絵を見に池島を訪れています。

池島中央会館に飾られている寺田克也氏の絵

2013年11月にも開田裕治さんと2回目のクリエイターズツアーを開催しました。この時は「かあちゃんの店」という食堂の壁にさまざまなクリエイターが島への想いを書いたことがきっかけとなり、一般の方たちも思い出を残してくれるようになりました。プロの方の絵も多く、ここもひとつの観光名所になっています。

池島を訪れた観光客やクリエイターが「かあちゃんの店」の仕切り板に絵やメッセージを書くようになった。ここもひとつの観光名所となっている

このツアーの模様は、参加したクリエイターやメディア関係者が各自のブログで発信してくれたり、Webメディアなどで記事を書いてくれました。また、クリエイターズツアーの開催が決定した時点で個人的な知りあいのメディア関係者に告知メールを送ったり、長崎市を通じてテレビ局や新聞社や雑誌編集部に送ってもらったところ、NHKを含めたテレビ4社、新聞3社が取材に来てくれて、全国に報道されました。

また、僕が作った池島のWebサイトを見て、メディアから取材依頼が来るようになり、その際のコーディネートや島内ガイドも行いました。その模様も、各種新聞や雑誌で報道されたり、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」(2013年9月25日放送)、TBS「Nスタ」(2013年11月7日放送)テレビのニュース番組や「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ」(2013年4月26日放送)などの人気バラエティ番組で放送されました。

小島健一(こじま けんいち)
1976年埼玉県生まれ。長崎大学大学院工学研究科インフラ長寿命化センター研究員/元地域おこし協力隊員(長崎市池島)/見学家/フォトグラファー/「社会科見学に行こう!」主宰

大学卒業後、コンビニでのアルバイト、商社、IT企業、Web制作会社などを経て、2004年からフリーランスとして社会科見学団体「社会科見学に行こう!」を主宰。先端科学研究所や土木工事現場、産業遺産や工場などの見学をコーディネートを行い、大人の社会科見学ブームの火付け役となる。同時に工場などを一般向けにテレビ、ラジオ、書籍、WEBなどで紹介。また、トークライブやサイエンスシートなどを通して、技術者や研究者などの専門家と専門外の人を結びつける活動も。写真家として活動するほかに執筆、イベントやロケーションのコーディネートなども手掛ける。2011年10月から長崎市の地域おこし協力隊の一人として長崎の離島「池島」へ赴任。2014年8月まで「産業遺産で地域再生」を目標に地域おこしに従事。池島の認知度向上、来島者大幅増加に貢献。2014年9月からは長崎大学大学院工学研究科インフラ長寿命化センターの研究員として勤務。テレビ、新聞、雑誌などのメディア出演・登場多数。著書に『社会科見学に行こう! 』、『ニッポン地下観光ガイド』、『見学に行ってきた。』などがある。

初出日:2014.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの