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2014.07.22  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

24時間仕事

──現在はどのような働き方をしているのですか?

早朝から深夜まで自宅やオフィスで仕事をしています。寝ている間も、仕事の夢を見ていることもあるので、24時間働いているといってもいいかもしれないですね(笑)。エチオピアと日本を行ったり来たりの生活で、1年の半分くらいはエチオピアにいます。長い時で3、4カ月、短いときでも最低1カ月は滞在しています。

実は私が10代のときに考えていた憧れの働き方は、春夏を日本で過ごし、秋冬を南国で過ごすというものだったんです。というのも、私は極度の寒がりでして、冬より夏を好んでいるためです。しかし今は革製品の売れ行きがいい秋冬を日本で過ごして、その秋冬の販売を支えるための製品づくりをしようと、春夏をエチオピアで過ごしています。ただ日本の春夏の季節は、エチオピアではちょうど雨季にあたり、実はとても寒いのです。結局のところ、一年中寒い場所で過ごすということになっており、私が望んでいたのと正反対の働き方になってしまっているんです(笑)。なんとかそれを逆転させて、常に温かいところにいられる働き方を実現しようと考えてはいるんですが、難しいですね。

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工房で職人を指導

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現地スタッフと一緒に

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現地スタッフと一緒に旅行にもよく出かけている

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エチオピアは標高が高いため良質の革が採れるといわれている

プロボノに助けられ

──鮫島さんのほかにスタッフはいるのですか?

いいえ、社員は私ひとりで、あとは15名ほどいるプロボノの方たちに手伝っていただいています。プロボノには、ファッション関係の仕事をしている人のほか、NPO職員、区役所職員、会計士、弁護士、メーカーに勤務する会社員など多種多様な業界・職種の人がいます。専門知識を活かしながら当社業務に取り組んでもらっているので、大変助かっています。各人の仕事の割り振りや問題があれば随時オンライン、オフライン・ミーティングを開くなど、彼らがより働きやすい環境を整えることも私の大事な仕事のひとつです。

プロボノの皆さんと

私自身も起業する前は、白木夏子さんが立ち上げた日本で初めてのエシカルジュエリーブランド「HASUNA Co.,Ltd.」でプロボノを経験していました。起業する上でとても勉強になりましたし、ベンチャー企業が一歩ずつ成長していくのを自分のことのように体験できたり、本業だけでは知り合えない人と知り合えたりと得るものがとても多かったと実感しています。基本的に無償のボランティアで、本業との兼ね合いに悩まされることもありますが、今となってはプロボノを経験してすごく良かったと思いますし、ぜひ多くの方にお勧めしたい働き方ですね。


──決まった休みはあるのですか?

私自身は起業してこれまで、まともな休みを取ったことはないです。


──それがつらいとは感じないのですか?

睡眠不足の日が続くとつらいですが、仕事は楽しくておもしろいので苦にはなりません。そもそも私は、仕事はまず自分が楽しまないで誰が楽しむのだろうと思っています。そういう意味では、今は毎日楽しみながらやれているのでいい状態だと思います。

今後の課題

──ではワークライフバランスについてはあまり気にしていないのでしょうか。

いいえ、とても大事だと思います。私も今のこの生活をいつまでも続けられるとは思っていません。一番重要なのは健康管理なのですが、私の場合、日々仕事が山ほどあり、しかも楽しいのでついついのめり込んで、休まずに延々とやってしまうことが多々あります。親から1日のゲームのプレイ時間を決められていても、やめられない子どもと同じですね(笑)。

しかし事業の継続性を考えた時、今のままではいけないという危機感はもっています。大きな夢の実現のためには、10年20年先を見据えて現在の生活をコントロールしなくてはいけないので、体力的、精神的に長く健康であるために、うまくワークライフバランスを取っていくことが、今の私の最大の課題のひとつといえます。

世界一のファッションブランドに

──その夢とは?

今の夢はandu ametを世界に通用するラグジュアリー・ファッションブランドに育て上げることです。とはいえ、世界中のすべての人に好かれるブランドになりたいとは思っていません。私たちのコンセプトやフィロソフィー(哲学・思想)に共感してくれる人に、バッグを買ってもらいたい、本当にファッションが好きな人や本当にいいものを求め、長く愛用したいと思っている人に、憧れられるようなブランドになりたいと思っています。だからこそ、品質には妥協せず、徹底的にこだわり続けたいと考えています。

課題はサービス面の向上です。現在は直営店をもっているわけではなく、またお客様からの様々なご要望すべてに応えられていません。その点を今後は改善し、お客様との接点を多くもち、お客様に末永く愛される、一流のブランドにしていきたいと思っています。

鮫島弘子(さめじま ひろこ)
東京都出身。株式会社andu amet(アンドゥ・アメット)の代表取締役兼チーフデザイナー。

学校を卒業後、化粧品メーカーにデザイナーとして就職するが、大量生産、大量消費のものづくりに疑問を感じ、3年後に退職、青年海外協力隊に応募してエチオピア、続いてガーナへ赴任。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドに入社し5年間マーケティングを経験。2012年2月、世界最高峰の羊皮エチオピアンシープスキンを贅沢に使用したリュクス×エシカルなレザー製品の企画・製造・販売を行う株式会社andu ametを設立。2012年、日経ウーマンオブザイヤーキャリアクリエイト部門賞、2013年APEC若手女性イノベーター賞等、多数受賞。近年は新しいタイプの若手起業家として注目を集め、人気テレビ番組や大手新聞、ネットなどで取り上げられ、講演・イベントの登壇も増えている。

初出日:2014.07.22 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの