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2014.07.07  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

──この事業を立ち上げてよかったなと思う瞬間は?

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他のバッグでは味わえない感触に熱烈なファンも多い

バッグを買っていただいたお客様とお話することがよくあるのですが、そのとき本当に喜んでくださっているのを見ると、大変だけどこの仕事をやってきてよかったなと思います。

「思わず抱きしめたくなるこの感触を一度味わってしまうと、他のバッグは使えない」とか、「自分が買って気に入ったので、母にもプレゼントしたら母も気に入って、他の人にプレゼントした」というメールをいただいたこともあるんですよ。1年前に買ったというバッグを持って店頭に来てくださる方もいらっしゃるのですが、それを見ると、使い込まれているけどちゃんと手入れもされていて、すごく大切にしてくれているのがわかります。革の場合はエイジングというのですが、使い方がそのまま出ますからね。

そして、そんなバッグをエチオピアで作っているということと、作っている職人さんのことをとても誇りに思っています。というのは、日本人の場合は、生まれたときから高品質なものに囲まれていて、いいものと粗悪なものの見分けがつきますが、エチオピア人にそれができる人は極めて少ないんです。そんな環境の中でいいものを作るというのは、日本の職人がいいものを作るということとは違って、気合いや努力などいろいろな意味でハードルが高いわけです。それを彼らが実現しているということをすごく誇りに思うのです。

現地の工房でエチオピアの職人たちと

フロントランナーとしての誇り

──鮫島さんを突き動かす原動力はなんでしょう。

私はそもそも国際協力だけをしようと思ってandu ametを立ち上げたわけじゃないですし、今でも国際協力をしているとは思っていません。そうではなく、まずはandu ametの品質やデザイン、サービスなど、すべての面において、一流のブランドにすることを目指しています。その一つとして「製造過程」でも完璧を目指したいと思っているんです。製造過程を完璧にするというのは、つまり社会や環境に配慮して製造していくということ、そして職人さんたちに対し正当な対価を支払うということです。その結果として、エチオピアの貧困問題に少しでも貢献できればいいと思っています。

フェアトレードやエシカルを前面に出したブランドはこれまでもたくさんありますが、ここまで社会貢献性とラグジュアリーさを両立させたブランドはないのではないかと自負しています。これまで対極にあると思われていたラグジュアリーとアフリカをつなげ、新しい価値を発信しているという点で、自分の仕事に誇りをもっていますし、自分にしかできない仕事をしていると考えています。

鮫島弘子(さめじま ひろこ)
東京都出身。株式会社andu amet(アンドゥ・アメット)の代表取締役兼チーフデザイナー。

学校を卒業後、化粧品メーカーにデザイナーとして就職するが、大量生産、大量消費のものづくりに疑問を感じ、3年後に退職、青年海外協力隊に応募してエチオピア、続いてガーナへ赴任。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドに入社し5年間マーケティングを経験。2012年2月、世界最高峰の羊皮エチオピアンシープスキンを贅沢に使用したリュクス×エシカルなレザー製品の企画・製造・販売を行う株式会社andu ametを設立。2012年、日経ウーマンオブザイヤーキャリアクリエイト部門賞、2013年APEC若手女性イノベーター賞等、多数受賞。近年は新しいタイプの若手起業家として注目を集め、人気テレビ番組や大手新聞、ネットなどで取り上げられ、講演・イベントの登壇も増えている。

初出日:2014.07.07 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの