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2014.04.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

肖像画をきっかけに住民の意識を変える

──それは具体的にはどういうことなのですか?

現地で打ち合わせ中の菊池さん(右)

ガバナンス型+ネットワーク型の地域づくりの中に、人の動きを変えることで人々の関係性が変わるという考え方があります。このときのプロジェクトでは、「肖像画」を「共通項」としました。「トレジャーヒルの存続」を「共通項」にすると、現地の人々の気持ちがあまり盛り上がらないし、お互いの立場(背景)を根本的に理解することにはなりにくいのです。


──「トレジャーヒルの存続」を「共通項」にすると、人々はあまり盛り上がらないのですか? そこに住んでいる人たちはずっと住み続けたいと思っているはずですよね?

このプロジェクトでは、住民たちにトレジャーヒルを守るという団結力を生み出させるために、「自分たちが実際に声を上げなければ、トレジャーヒルの存続は不可能だ」という現実を伝える仕組みが必要でした。もちろん地域住民はこの土地に住みたいという気持ちは強くもっていましたが、皆さん高齢であり、政治的なことに関わる気持ちなどはあまりなかったはずです。社会的弱者としてひっそりとその地に住んでいたこともあり、社会への期待は低かった印象もあります。そこで、新しい「肖像画」という共通項を生み出して、それが新しいきっかけとなり、今までの枠を超えた、それぞれの人が関わりやすい機会をつくろうと思ったのです。


──なるほど。住民の肖像画を撮影してそれからどうしたのですか?

撮った写真は1カ所に集めて展示する展覧会にするのではなく、各家に写真を額縁に入れてもっていって写真のタイトルも本人につけてもらって、部屋に配置。それぞれの家に行かなければ見られないという展示方法にしたんです。つまりこの地区全体を美術館にしたというわけです。このような「自宅開放・訪問型写真館」にしたのは、住民にこのプロジェクトに参加してくれた「お礼」というか、喜ばれる物を提供することで、参加の意義をより高めるためでもありました。

1軒ずつ家を回って写真を配布した

プロジェクトの効果

──それによってどんな効果があったのですか?

このプロジェクトによって、これまではあまり交流がなかった家同士の人がお互いの家を行き来するようになるなど住人同士の交流が活発になりました。さらにこのプロジェクトに興味をもち、OURSのスタッフに自分にも何かできることはないかと申し出る人も増えました。このプロジェクトはまさにアートをツールにして地域を活性化し、その後の活動を担う人材を生み出すことに成功したわけです。

そして最後には住民たちに「自宅開放・訪問型写真館」プロジェクトの継続するためのノウハウとコミュニティガーデン存続方法と意義を伝授。さらに、運営する責任者を決め、それぞれの自立に向けての意識を強くもってもらいました。ここまでで私たちのプロジェクトは終了しました。この、最終的にはコミュニティデザインの責任・権限を当事者、つまりそこで暮らす人々へ移譲することがとても重要なんですよね。今まで我々がやってきたことを誰が受け継いでどうやって継続してやっていくのかという戦略まで含めて、コミュニティデザインの仕事だと思っているんです。


──プロジェクトが終わったからといってそれですべてが終了というわけではないのですね。

真の意味で地域を育てるという行為は一朝一夕にできるものではなく、非常に長い時間を要するということです。その地域へ数回行って少し口だけ出してすぐいなくなるというのでは決して理想的なコミュニティはつくれません。もちろんプロジェクトには契約期間があり、その期間内で現実的なゴールを見出し達成することも我々の重要なミッションではあります。しかし、現実問題として20年も30年もその土地に張り付いていることは不可能ですし、仮にそれが可能だとしても我々に依存している限り本当にその土地のコミュニティにはなりえません。ですから最終的には私たちがいなくなった後どうするかを現地に暮らす人たちみんなで真剣に話し合い行動していかない限り、コミュニティデザインは成り立たちません。こういうことは最初に必ず現地の人に伝えます。

もちろん人によって違うと思いますが、私は自分が関わった地域にはプロジェクトが終わった後も、なるべく行くようにしています。行ったからといって何をするわけでもないのですが、関わった街のその後は気になりますし、忘れられないですね。


──ではその後もトレジャーヒルを何度か訪れているのですか?

2、3回は訪れましたが、その際は、実際に関わっているスタッフにお話を聞いたりする程度です。先ほどお話した最後のフェーズである「責任の移行」はとても大切で、口出しをすることは礼儀としてあまりよろしくないし、自主性を損なうことにもなりかねません。だからアドバイスを求められない限り、あまり指示を出したりはしないのです。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。コミュニティデザイナー/アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

1990年、高校卒業後渡米。ボストン大学芸術学部彫刻科卒、米国タフツ大学大学院博士前期課程修了(芸術学修士)後、マサチューセッツ工科大学・リストビジュアルアーツセンター初年度教育主任、エデュケーション・アウトリーチオフィサーやボストン美術館プログラムマネジャーなどを歴任。美術館や文化施設、まちづくりNPOにて、エデュケーション・プログラム、ワークショップ開発、リーダーシップ育成、コミュニティエンゲージメント戦略・開発、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型の「人中心型・コミュニティづくり」などに多数携わる。2011年帰国。「あいちトリエンナーレ2013」公式コミュニティデザイナーなどを務める。現在は、東京を拠点に、ワークショップやプロジェクト開発の経験を生かし、クリエイティブ性を生かした「人中心型コミュニティづくり」のアウトプットデザインとマネージメント活動に取り組んでいる。立教大学コミュニティ福祉学部兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。

初出日:2014.04.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの