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2014.02.17  取材・文/山下久猛 撮影/葛西龍

好きなことを仕事に

──これまで働き方に関して大事にしてきたことはありますか?

どうせ働くなら好きなことをしたいという気持ちは昔からあるかもしれませんね。これは何か違うなと思ったらやらない、違和感をもった方向には行かない。自分自身が納得できるような仕事や働き方を選んできたような気がします。

あとこれは大事にしてきたこととは違うかもしれませんが、これまでチームで何かをやるというより、ひとりで完結できるような仕事ばかりやってきました。そっちの方が性に合っているんでしょうね。でも、森や自然はこれでよしって完結できるようなものじゃないですよね。一人でどうこうできるものでもないし。それもまたおもしろいなって。


──石井さんの生き方、働き方に関しては、自分の気持ちに正直に従ってきたという感じですよね。住みたいと思った場所に住んでいるし、やりたいと思った仕事をやってきているし。

その辺は運がよかったと思いますよ。当初はニコルと知り合えて、一緒に仕事ができるなんて想像だにしていなかったし。ほんと運と縁でここまで来たという感じで、とてもありがたいと思っています。


──でもそれは石井さんが行動を起こしているからいろんな縁が生まれるし、いい運もつかめるんだと思います。いくつかのターニングポイントとなった節目で先行きに不安を感じても「なんとかなるだろう」で飛び込んでいってますし。

そう言われればそうかもしれませんね。とにかく行動すれば何かが起こるので、いい運や縁をいかに見逃さないかが大事ですよね。自分でチャンスだと思うことに対して一歩を踏み出せるか。そういう意味では納得の行く人生を歩むためには行動と運とタイミング、そして少しの勇気が必要なのかもしれませんね。

森を案内する石井さん

昔ながらの"山"をつくりたい

──今後の目標を教えてください。

古来、日本の人々にとって"山"は3つの階層をもつものでした。一番上は人が手を付けてはいけない神が住む領域、天然更新できる大木があるような"奥山"という森。その下には狩猟や木材生産の場である"中山"があって、その下に積極的に人がかかわってきた"里山"がありました。こういう"山"が理想型です。アファンの森は、現在は"里山"の要素が強いわけですが、里山だけよくなってもダメだと思います。アファンの森の将来像を見極めながら将来的には3つの階層をもつ昔ながらの"山"を作りたいと思っています。

さらに里山にある種のコミュニティのようなものも作って、例えばアファンで馬を飼って間伐材を馬で運ぶ馬搬や、馬糞や森の落ち葉で堆肥を作って農業をしたりと、循環的なシステムが構築できればおもしろいと思っています。森から生まれる恵みによって、たくさんの人がそこにかかわり暮らしていければ楽しいですよね。

だからゆくゆくは馬を飼いたいですね。森の中に馬がいるって絵になるんですよね。アファンのような小さいところは間伐材を伐り出すにしても大きめの機械を入れるとグチャグチャになって森を痛めてしまう。ちょっと木を伐り出したいというときに、馬なら森を傷めないし、効率もいい。馬の扱い方は以前このWAVEに登場した遠野馬搬振興会の岩間敬さんに教えてもらえばいいしね。

また、森の仕事がないときは馬車として使って、黒姫駅に来た観光客を馬車に乗せて目的地まで運ぶということもできたら楽しいですよね。この辺は僕が勝手に考えているだけですが、今後、地元の方々と協力できればいいなと思っています。


──その光景は想像するだけでわくわくしますね。ぜひ実現に向けて頑張ってください。

ありがとうございます。何事もひとりではできないので、アファンの森財団だけではなく地元全体が活性化できるよう、いろいろな人や団体と力を合わせて頑張っていきたいですね。

石井敦司(いしい あつし)
1967年神奈川県生まれ。一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団 森林再生部 森林整備担当。通称「森の番人」。

自然が好きで田舎暮らしにあこがれ、1997年、長野県信濃町黒姫に妻と移住。2001年にアファンの森に事務スタッフとして入職。2007年から初代森の番人の松木氏の後継者として森の整備・管理の仕事に従事。2012年、2013年は責任者として森の管理を行う。現在は妻、2人の息子と長野県黒姫に暮らしている。

初出日:2014.02.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの