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2013.11.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

自然の中で生き物と働くということ

──現在の岩間さんの働き方に関してうかがいたいのですが、毎日どんな感じで働いているのですか?

馬搬などの林業の他に元々実家が農家だったので農業や畜産業にも従事しています。朝はだいたい4時か5時くらいに起床して、馬搬のシーズンには毎日山へ木を伐り出しに行っています。それを1日中行うこともあれば馬搬は午前中にやって午後からは農作業を行ったり、その逆もあったりで、季節やその日の状況によって仕事を自分で組み立てます。日常の仕事としては牛や馬の世話もあります。遠野馬搬振興会を立ち上げてからは、馬搬文化の継承、PRなどの仕事も増えました。

馬の世話も大事な仕事のひとつ

基本的に雨が降ると林業や農業はできないので、薪を作ったり、馬搬で運んだ木で木工品を作ったりもしています。やろうと思えば仕事はいくらでもあるんですよね。だいたい18時か19時くらいまでには仕事を切り上げ、21時には就寝しています。


──働き方に関して大切にしていることはありますか?

特にこだわりはないですが、できれば社会にとって意義のあることをしたいと思っています。馬搬を始めたのも遠野馬搬振興会を立ち上げたのもそのためです。

また、同じことをするのなら極力インパクトのある方法でやるように考えます。例えば馬搬のイベントを開催するときもより注目を集められそうな出演者にお願いしたり。

これまでを振り返ると「これをやったらおもしろそうだな」と思えることに取り組んできたように思います。基本的に自分の好きなことややりたいことをやっているからあまりストレスはないですね。そもそも働いているという感覚が希薄なのかもしれません。生きることと働くことがイコールという感じなので。それはこれからも変わらないでしょうね。

馬はすばらしいエネルギー

──馬搬に関して特に伝えたいことがあればお願いします。

今は自然エネルギーといえば太陽光や風力を思い浮かべると思うのですが、実は馬もエネルギーなんですよね。馬はたくさんの物を引いたり運んだりして、人間社会をサポートしてくれます。その馬の力の源は草です。しかも草を食べて排出した糞はおいしい農作物を作る肥料となります。このように馬は化石エネルギーや原子力エネルギーのように自然環境を破壊しないばかりか、自然をより健全な状態にしてくれるんですよね。しかも馬は機械のように人から仕事を奪うこともなく、むしろ雇用を創りだしてくれます。馬とコミュニケーションを取りながら働いていくうちに強い絆も生まれ、働く喜びや誇りも生まれます。実際に僕もそうでした。

このように我々は草を食べる動物を肉として食べていますが、肉になる前に我々と共存して一緒に働くことも可能なんだということを都会に暮らす人びとに知ってもらえれば、自然やエネルギー、働き方に対する考え方も変わってくると思うんですよね。人の気持が変わればこの社会もよくなるかもしれません。馬にはそういう可能性があると信じているんです。

岩間敬(いわま たかし)
1978年岩手県生まれ。馬搬馬方/遠野馬搬振興会事務局長。

高校卒業後、建築家を目指し東京の建築関係の専門学校に入学。卒業後、東京の乗馬クラブに勤務。その後遠野に戻り、乗用馬の繁殖・調教を行う会社に勤めつつ、農林業に携わる。20歳頃から馬搬に興味をもち、2人のベテラン馬方に師事、技術を習得した。2010年、「遠野馬搬振興会」を設立。現在は農林業に従事しながら、馬搬文化と技術の継承、宣伝、普及などを目的として活動している。2011年にイギリスで開催された「馬搬技術コンテスト・シングル部門」で優勝。2012年にはこれまでの活動が認められ、岩手競馬、馬事文化賞受賞。同年、欧州馬搬選手権シングル部門で7位に入賞。

初出日:2013.11.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの