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2013.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

「asobi基地」とは

──小笠原さんが児童精神科医と子育てカウンセラーと一緒に立ち上げた「asobi基地」とはどういうものなのですか?

大人も子どももあらゆる人が人間として平等で、ありのまま人間としていられる場。それが「asobi基地」です。みんなが「自分」という存在をそれぞれが最大限活かしながら、協力し、みんなで一緒に子育てをしていくことを目指している新しいカタチの子育てコミュニティです。

「基地」とはいっても特定の場所があるわけではありません。不特定多数の人・家族に出会うために場所を固定せず、カフェ、オフィス、神社、団地、イベント会場などさまざまな場所でいろいろなイベントを展開しています。

基本は、「子どもは自分の好きな素材を使って自由に表現(制作遊び)できる」+「大人は子どもを知ることができる、育児相談ができる、パパママと交流ができる」といった感じで構成しています。他にも音楽や料理のテーマを持たせて、ライブハウスや小学校の調理室で実施することも。音楽がテーマの時は、「本物の楽器に触れる」を軸にアーティストや音大生とコラボするなど、夏には音楽フェスでもやらせてもらいました。料理がテーマのときは、家から余っている食材を持ち寄って何かをつくるんです。構成にこだわりを持っていて、子どもは向かいの部屋に用意したasobi基地スペースで遊び、大人は「子どもの好き嫌いについて」や「お手伝いについて」対話をした後、子どもたちと合流して一緒にレシピを考えて料理を作ります。大人も子どもも自分ができる作業をやり、作り上げる。そして、自分たち以外のチームのものも一緒に並べて、みんなで一緒に食べるんです。これが想像以上に楽しいんですよね。

コ・ワーキングスペースとコラボをして「asobi基地」を開催したこともありました。子どもが大人の仕事に興味を持ったり、子どもを持たない人がその存在を知る機会になり、お互いにプラスになっていました。この形も広げていきたいなと思っています。

「asobi基地」@夏開きfesにて

──どんな人が参加しているんですか?

保育園や幼稚園に通っている子もいない子もその親を含めて参加できるのはもちろん、子どもと関わりたい人なら誰でも参加できます。子どもの参加年齢は基本的に自由で、お母さんに判断してもらっています。0歳の子どもから小学生まで来ていますよ。回を重ねるごとに参加者が増え、現在は、ママ、パパ、子ども、赤ちゃん、保育士、妊婦さん、カップル、学生、アーティスト、クリエイター、デザイナー、会社員など、本当にさまざまな人に参加していただいていて、多様性のあるコミュニティになっています。

4つのルール

このようなコミュニティを実現するために、「asobi基地」には、簡単な4つのルールがあります。

1. 大人も子どもも、すべての人がフェアであること
2. 「ダメ!」などの理由のない否定言葉は使わない
3. 何か言う前に、子どもと同じ目線に立ちやってみる
4. 相手に自分の価値観を押し付けない

「asobi基地」のWebサイトに掲載されている4つのルール

この4つルールのおかげで、毎回笑顔があふれるとても自由で楽しい場になっています。また、親御さんたちは自分の子どもを知り、関わり方を学べるようで、家でもやってみているという声もよく聞きます。

「asobi基地」料理教室にて

──参加費や開催時間は?

ダンボールも工夫次第では子どもが大喜びする立派な遊び道具に

基本的に親子で2000円くらいのことが多いです。でも、なるべく多くの方に参加してもらいたいので、今後は工夫していきたいところです。「asobi基地」に置いてある素材にもこだわっていて、用意するものは全部100円均一ショップで買えるものやダンボール、新聞紙などの資源で用意しています。理由は、子どもの発想力を知ってほしいということと、子どもが楽しく遊ぶのにお金はさほど必要ないということを示したいので、極力お金はかけないようにしています。こうすればだいたいの家族が家に帰っても「asobi基地」が再現できますからね。実際、そうして家に帰った後も「asobi基地」にあった素材で遊んでいる家庭も多いようです。大人の世界では、ゴミとされている資材でも、子どもたちや私たちにとっては宝物なんです。

開催日は基本的に土日祝日で、時間は11時から16時まで基地をオープンさせ、好きな時間に来て、帰ってもらうパターンもあれば、テーマがあるときは午前・午後に分割し時間を決めて実施したり、内容によっていろんなパターンを用意しています。テーマも時間もさまざまなパターンがあった方が、「楽しそう」「行きたい」と思ってくれる人が増えますから。

大きな効果

──「asobi基地」に参加した方の感想は?

「子どもが、次のasobi基地はいつ? と聞いてきます」「とにかく大人も子どもも楽しい!」「ここまで来れば、みんなが子どもを見てくれるのでリフレッシュできる」「asobi基地に参加するようになってから子どもとの関係がよくなった」という声が多く寄せられています。ずっと家の中で子どもと過ごしていると、距離が近すぎて小さなことがいちいち気になってしまうこともありますよね。一方で、保育園は預けると子どもの言葉1つひとつや表情は見ることができません。でも、その中間の距離感が「asobi基地」にはあるんです。子どもが親と同じ空間にいるんだけど、ちょっと離れてお互い自由に過ごしているから、子どもが遊ぶ様子を客観的に見ることができるので「うちの子って、案外社交性あるのね」「こんなに集中力あるんだ」といった、普段見つけにくい、我が子の新しい可能性に気づく親御さんは多いようです。

また、子どもが遊んでいる間、親同士や専門家を交えて、ざっくばらんにいろんな話をしているのですが、その中で子育てに関する悩みを相談できたり、同じ悩みの人を見つけられたり、教えてもらったりすることがとても助かっているという声もよく聞きます。本格的に相談したければ、一緒に「asobi基地」を運営している専門家や保育士がいるので安心、ということも大きなメリットのひとつになっているようです。子どもが楽しく遊べるだけじゃなく、親の支援にもなる。こういう点が「asobi基地」ならではのポイントだと思います。

小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社「こどもみらい探求社」共同代表。

大学卒業後、数社を経て、2010年、子どもたちの素敵な未来を創るために、「オトナノセナカ」(2013年6月にNPO法人格を申請)の立ち上げに関わる。2011年、「まちの保育園」の保育士としてオープニングから勤務。2012年6月には、子ども視点で社会にイノベーションを起こそうと「Child Future Center」を立ち上げる。同年7月には新しい子育て支援の形として「asobi基地(2013年8月にNPO法人格を申請)」をスタート。2013年6月、「オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子どもたちにとって本当にいい未来を探求するために奮闘中。

初出日:2013.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの