WAVE+

2016.03.22  取材・文/山下久猛 撮影/早坂正信(スタジオ・フォトワゴン) イラスト/フクダカヨ

農と馬を使った地域振興

近影11

安部 現在、国の政策としては産業政策と地域政策を両輪のごとくうまく進めなさいという方針なのですが、当社では地域政策の方に6割ほど重きをおいています。その理由は、経済的なことだけを優先すると、必ず大きな落とし穴が待っているからです。儲けに走るとろくなことがない。

今は農業でも何でも機械化だと叫ばれていますが、いろいろ考えてみると基本に忠実な昔ながらの方法に一回戻ることが必要だと思うんですね。その時、浮かび上がってくるのが馬の存在、馬の大切さなんです。昔は馬がいなければ農業をすることができませんでした。言うなれば馬は農業の原点。そこに立ち返って、もう一回ものの考え方を転換しましょうと強く言いたいんですよ。もちろん、今の機械を100%馬に換えることはできないので一部、少なくとも5~10%くらいは馬を使ったゆとりのある農業を展開すれば必ず将来、この地域はよくなる。それを地域の子たちを交えてやっていきたいと思っています。

 社長のその考え方には大賛成です。去年も福幸祭で馬耕をやらせてもらいましたが、この地域は住民間でいい形の繋がりがあるんですよね。例えば高齢者の方々が馬耕実演を見た時に懐かしさで気持ちが和らぐということもあれば、もっとこうやるんだと教えてくださる方もいる。さらに子どもやその親など老若男女が集うからいろんな繋がりが生まれる。福幸祭後の懇親会に参加させてもらった時は、地元のお年寄りの方々が話しかけてきてくださって、初対面にも関わらず話題が尽きなかったんですよ。これも間に馬がいるからなんですよね。どんな地域でもよそ者とうまくコミュニケーションが取れないのが問題となってますが、馬を介すればその壁が取っ払われるんですよね。もっとも、そもそもこの地域の方々が外部から来た人間でもすぐ受け入れてくださるという土地柄もあるのですが(笑)。

馬の周りには自然と人が集まり、交流が生まれる

由紀子 だから先ほど社長がおっしゃった地域の繋がりを強化するということは馬の力でかなりできるんじゃないかなと思ってます。将来、私たちの牧場に学びに来た人たちは、馬耕の技術だけではなくてこういうことを肌で学べるんですよね。こんな地域は日本全国を見渡してもそうそうありません。そういう意味で、アグリードさんはこれからの地域のあり方を考えて実践している団体として全国でも最先端を走っている。安部社長はすごい感覚だと思いますよ。

近影13

佐々木 この地域は少子高齢化が進んでいて、昔のことを知るお年寄りが減りつつあります。そういう状況に危機感を覚えて安部社長や地域の自治会のメンバーが取り組んでいるのが、地域の歴史を後世に伝える試みです。昨年、福幸祭と同時開催した北原ライフサポートクリニック東松島さん主催の「のびるウォーキング」がすごくよかった。のびるの村を八丸さんの馬と一緒に歩きながら、高齢者の方にこの地域が昔どんなことをどういうふうにやってきて今に至っているのかという時代背景を教えてもらったんですよね。

また、農村エリアですからいろんな信仰がある。社長が提案してくれたんですが、いまだにこの辺には江戸時代から続いている庚申講があって、年に6回やっているんですね。その日に村に旗を立てたらお年寄りたちがざわめいた。歴史的なものと現実の馬や人たちのおかげで過去と現在が入り混じった一種独特の雰囲気が醸し出された。子どもたちにもすごくよい地域だと自慢ができるんじゃないかなと思いますね。

安部俊郎(あべ としろう)

安部俊郎(あべ としろう)
1957年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ代表取締役社長/のびる多面的機能自治会副会長

宮城県立農業講習所卒業後、いしのまき農協(旧野蒜農協)営農指導員として入組。1992年退職し、地域農業発展を目指し、施設園芸を中心とした専業農家となる。2006年、農地を守り、地域と共に発展する経営体を目指して「有限会社アグリードなるせ」を設立。代表取締役社長に就任。東日本大震災時には自社も壊滅的な被害を受けるも、消防団の副分団長として現場で避難指示、人命救助、行方不明者の捜索、避難所への誘導などの指揮を執る。震災の翌月から津波を被った田んぼの復旧を開始。除塩に成功し、その年の秋には米の収穫も果たすという驚異的な復旧を成し遂げる。現在、東松島市野蒜地区で、土地利用型部門に園芸部門、さらに6次産業化施設を加え、次世代の人材育成や雇用促進など地域農村コミュニティの発展に尽力している。

佐々木和彦(ささき かづひこ)

佐々木和彦(ささき かづひこ)
1959年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ常務取締役/のびる多面的機能自治会執行役員

宮城県立農業講習所卒業後、鳴瀬町役場(2005年から市町村合併により東松島市役所に)に勤務。田畑の塩害対策などに従事。2010年有限会社アグリードなるせ入社。東日本大震災時には安部社長とともに人命救助、行方不明者の捜索、田畑の復旧作業などに従事。現在も安部社長のパートナーとして地域振興に尽力している。


八丸健(はちまる けん)

八丸健(はちまる けん)
1970年鹿児島県生まれ。一般社団法人美馬森Japan監事/80エンタープライズ,Inc.代表取締役社長

地元鹿児島の高校を卒業後、東北大学に進学。入部した乗馬部で馬の魅力にはまり、将来は馬を扱う仕事をしたいとオーストラリア人のホースマンに弟子入り。大学を中退して一関市で競走馬の調教を学ぶ。師匠の乗馬クラブ立ち上げにともない、八幡平市へ移住。

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)
青森県出身。一般社団法人美馬森Japan代表理事/80エンタープライズ,Inc.専務取締役

東京での会社勤務を経て、岩手県内のリゾート総合会社へ転勤。交換研修生としてカナダ・ウィスラーのホテルに4ヶ月出向するも、帰国後1年で勤務先の乗馬クラブが突然廃止となる。その後、大手観光農場を経て、乗用馬トレーニングセンターに勤務。

2000年、同じ勤務先で出会った2人は結婚。2003年、馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指し、80エンタープライズ,Inc.を設立。2004年、八丸牧場を自分たちの手でいちから開墾、オープンにこぎつけた。2011年、東日本大震災発生の翌月、任意団体「馬(ま)っすぐに 岩馬手(がんばって) 必ず 馬(うま)くいくから」を設立。震災直後から、さまざまな子ども支援活動を継続的に行うとともに、馬たちの力を借りて観光体験、地域活性、子どものライフスキル向上などに取り組む。2013年、当団体を法人化し、一般社団法人「美馬森Japan」設立。震災で甚大な被害を受けた東松島市の新たな町づくりの構想に共感し、アグリゲートなるせとともに野蒜地区でのさまざまな復興支援活動に取り組んでいる。

初出日:2016.03.22 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

pagetop